013
ニナに頼まれたサラダをテーブルへ持って行くと、子供達と一緒にクロードも既に席に着いていた。
「クロードさん、来てたんですか」
「ああ、さっきニナに連絡を貰ってね」
「あ、あの……」
スゥは、申し訳なさそうな顔をする。
「ん? ああ、店番サボったことかい?」
「うっ……」
スゥは、心に何か刺さるのを感じた。
「すいません。すいません。すいません……」
「良いよ。どうせ、ニナに無理矢理連れて来られたんだろ」
「ちょっと、誰が無理矢理連れて来たって。確かに、間違っていないけど、アンタに言われると腹立つわね。そんなこと言う様な奴には、御飯食べさせてやらないわよ」
「ちょ、ちょっとそれは……」
その一連の流れにあはは、と笑いが起こる。
「はいはい。それでは、皆さんご一緒に――」
周りが一様に手と手の平を合わせる様子を見て、スゥも真似するように手を合わせた。
「頂きますっ!」
その掛け声と同時に御飯を食べ始める。
御飯を食べる時の儀式的なモノなのだろうか――スゥは首を小さく傾げたが、目の前にある自分が手伝ったカレーライスが目に入るや、そんなことなどどうでも良くなった。スプーンで一口ばかりすくい、熱いのが目に見えるのでふうふうと息を吹きかけ、冷ましながら、そおっと口に運んだ。
「どうだい、スゥちゃん。初めてのカレーのお味は?」
「美味しい……」
それは。
美味しいと言う表現以外で表すことの出来ない美味しさだった。そのあまりの美味しさにスゥの手は止まることなく勢いよく、どんどん口へと運んで行った。世界には、こんなにお美味しいモノがあるだなんて、スゥは思いもしなかった。
「これをスゥが作ったのか。とても美味しいよ」
クロードに褒められ、スゥは少しばかり照れた。
「おかわり」
「おかわりです」
子供達も美味しかったようで、気付けば皿は空っぽになっていた。ニナと一緒に作ったと言えど、自分も手伝ったその料理をここまで気に入って貰えると言うのは、とても嬉しいことだった。
「スゥちゃんも、おかわりたくさんあるからどんどん食べな」
「はい」
「じゃあ、僕も頂こうかな」
「アンタは、一杯で充分だろ」
「そんなあ……」
スゥは、カレーライスを食べながら、ふとあの扉に触れた時のことを思い出していた。この光景が、正にあの時見た光景にそっくりだったからだ。あの時感じた優しい感じや、温かい感じ――それらが全て、ここには詰まっていた。
もしかしたら。
あの扉は未来を予知する扉だったのかもしれない。
今日、これから起こるであろうことをあの光で見せられていたのだろう――スゥはそう思うことにした。あべこべな鏡があったり、動きに釣られる光玉があったり、不思議な窓があったりと、自分の目で見て来た以上、特段それらを疑う必要も無いからだ。
「スゥちゃんも、偶には家に御飯食べにおいでよ」
「良いんですか?」
「当たり前だろ。こうして、皆で一緒に御飯を食べているんだから、それはもう家族と変わりないでしょ?」
ニナの言葉にスゥは、自然と涙を流していた。
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