012


「今日の晩御飯は、カレーで良いよね?」


「カレーって何ですか?」


 スゥの純粋無垢なその瞳に、ニナは固まっていた。


 今までにカレーを知らないと言う子供に出会ったことが無かったからだ。大概の子供なら、カレーと聞くだけで喜び燥ぎ回るモノだ。だけど、スゥはそんな様子を見せないどころか、本当にカレーを知らないと言った顔をしていた。


「本当にカレー知らないの?」


 スゥは、縦に頷く。


「カレーを見たことも?」


 スゥは、二度縦に頷く。


「そしたら、驚くわよ。カレーの美味しさに。じゃあ、作っていこうか」


「はい」


 スゥがカレーを知らないのも当然のことだった。


 今まで、質素な食べ物以外ほとんど口にしたことが無かったからだ。基本的に、パンとミルクさえあれば幸せ、そう言った生活を送っていたスゥにとって、料理と言う食材を加工する行為には無縁だったのだ。


「じゃあ、一緒にやろっか」


「はい!」


 スゥは、ニナの慣れた手付きに付いて行くのでやっとだったけれど、食材を切る、炒める、煮込む――カレーを作るとはそれぐらいの作業だが、それでも経験の無かったスゥにとって、一生懸命に料理をすると言うことが楽しかった。


 そして。


 ニナと言う姉が出来たかの様でそれが何よりも嬉しかった。


「さあ、完成」


「うわあ、良い香り」


 その香りは、具体的に何の匂いに似ていると表現するのは難しかった。けれど、その匂いがそのまま自分の食欲を掻き立てるのを体で感じていた。食べなくとも、それがきっと美味しいモノである――そう感じていた。


「さあ、食事の準備をするよ。おーい、チビ達。準備手伝いなー」


 ニナのその声にドカドカと慌ただしく走る音が聞こえて来る。


「御飯出来たのー?」


 スゥよりも一回り二回りほど幼い子供達だった。


「紹介がまだだったね。こっちの男の子がレイ。女の子がリナ」


「初めまして、スゥと言います」


「ほら、あんた達。挨拶は」


「レイだよ」


「リナです」


 子供達はペコリと頭を下げた。


「宜しくお願いします」


「はい、良く出来ました。はい、これよろしくね」


 ニナは子供達の頭を撫で、カレーライスを盛り付けた皿を手渡し、駆け足でそれをテーブルまで運んで行く。


「走るんじゃないよ。全く」


「ふふふ」


 スゥは、小さく笑った。


「どうしたんだい?」


「いえ、何でも無いです」


「じゃあ、スゥちゃんもこのサラダ持って行ってくれる?」


「はい」

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