第二章 006
「さあ、着いたよ」
スゥは、ホライズンに着いて間もなく、クロードが経営すると言う店に行く為に、付いて行った。駅からは差ほど離れておらず、十分も歩けばその店に到着した。
レンガ造りの店構えの様で、お世辞にも綺麗な店と言う訳では無く、どちらかと言えば、店からその歴史を感じ取れるような味わい深い――そんな店の印象を受けた。
ここが、今日から働く所なのか――スゥは、心躍っていた。
ただ、外観からはどんな店なのか良く分からなかった。何を扱っているのか看板が出ていなかったからだ。スゥは、背伸びして窓から中の様子を伺おうとしたが、中は暗く良く見えなかった。
「ほら、どうぞ」
クロードは、スゥが店を覗き込んでいる内に扉の鍵を開け、扉が閉まらないよう手で押さえながら、スゥを先頭に店の中へ入れた。電気が付けられると、その店の中の全貌が明らかになった。
スゥは、辺りをキョロキョロと見回した。
店内には、馴染みあるモノもあれば、見たことも無いようなモノも在り、そこら中を眺めているだけでも飽きは来なかった。むしろ、そのワクワクとした気持ちがどんどんと湧き上がって来た。
けれど、クロードの店の中に入り、これだけ辺りを見回しても尚、ここが何を扱っているお店なのか、スゥにはいまいち良く分からなかった。
と言うのも、ランプやロッキングチェアーと言ったアンティーク調のモノがあるかと思えば、ぬいぐるみやアクセサリーと言ったファンシー調のモノまであり、取扱商品に統一感があるとは言い難かったからだ。
「あの、ここは何屋さんなんですか?」
「まあ、平たく言えば何でも屋ってとこかな」
「なんでも屋……ですか?」
スゥは、小さく傾げた。
「モノを創ったり、モノを直したりと基本的には、そう言う地味な仕事だよ。実際、見てみる方が早いかな。ちょうど、やらなきゃならない仕事もあるし。ちょっと、準備するからここで待っていてくれるかい」
スゥは、コクンと二度頷き、クロードの準備をぼんやりと見ていた。テーブルの上に、見慣れない紋様が刻まれた敷布を敷き、その上に金属片をたくさん乗せていた。これがクロードの言う準備なのかと、スゥは疑問に思っていた。
「さあ、出来た。しっかりと見ているんだよ」
クロードは眼を閉じ、掌を敷布に突き出し、先程とは違う面持ちを見せた。
「我捧ぐ。資に鉄を糧り、死に迭を克てり、師に哲を勝てり――鉄に宿りしその御霊を盟主クロードの名を持って、ここに顕現する」
クロードが呪文を唱えると、敷布は神秘的な光を発し、瞬きをするや否やその姿は、一体どう言う原理なのか、金属片から立派なランプへと変貌を遂げていた。スゥは、今何が起こったのか理解出来ず、ただただその場に立ち尽くしていた。
「どうだい?」
「凄いです……凄いです、クロードさんっ!」
自分の想像を遥かに越えるどころか、想像すらしていなかったことが目の前で起き、スゥは無意識の内に、同じことを二度繰り返していた。
「まあ、本当は呪文唱えなくても出来るんだけど、スゥに見せるのは初めてだから、ちょっと格好付けたんだけど、付け過ぎちゃったかな」
クロードは、あははと笑っていた。
「いや、格好良いです。凄い格好良いですっ!」
「そんなに褒められると、照れるなあ。僕は、こうして錬成術と言う失われた技術を用いて、モノを創ったり、モノを直したりするのが僕の仕事なのさ」
「錬成術?」
スゥは、小さく傾げる。
「錬成術って言うのはね、対価に対してその対価に見合ったモノを生成することが出来る技術なんだけど、如何せん失われた技術で未完成のものだから、この魔法印の刻まれた敷布を使わないと安定して上手く錬成出来ないんだけどね」
そう言い、クロードはあははと笑っていた。
「この布がこのランプを創ったんですか?」
「いや、創っているのは僕だよ。頭の中で創りたいモノをイメージして、ここへ念写させ、具現化させているんだけど、その時に錬成術が成功し易いよう、敷布が僕をサポートしてくれている――と言えば分かり易いかな」
クロードは、スゥに分かり易いよう伝えているつもりだったのだけれど、スゥには全く理解出来ていなかった。だけど、これだけ熱心に説明してくれているクロードに分からないと言うのも悪いと思い、取り敢えず頻りに相槌を打っていた。
クロードは話を続ける。
「さっきも言ったように、創ろうとしているモノに対して、同等の対価を払う必要があるんだ。だから、このランプを創るにはさっき敷布の上にあっただけの材料が必要だったんだ――て、まだスゥには難しかったか」
「いや、あの、その、えっと……すいません」
スゥは、その場でぺこりと頭を下げた。
「いや、スゥが悪いんじゃないよ」
クロードは、そう言いスゥの頭をぽんぽんと軽く頭を叩いた。
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