最終話 大阪編ボス登場。決戦は寺内町の町屋
みんなは箕面駅からは阪急電鉄を利用して妙見口駅へ。
そこからはケーブルカーを利用して妙見の森を訪れた。
バーベキューテラスで早めの昼食をとったあと、大阪編ボス【太陽の塔納言】が待機しているという山頂付近へ向かって最寄りのハイキングコースを散策していく。
「きゃっ、きゃあああっ! またオオサンショウウオが出たぁっ!」
最後尾を歩いていた舞衣は視界に入ってしまうと大きな悲鳴を上げた。
「能勢も生息地だもんな。箕面のよりでかっ!」
慶祐は思わず魅入る。
全長2.5メートルくらいあった。
「能勢オオサンショウウオの体力は87。箕面のよりも攻撃多彩やで」
「恐竜みたいだね」
羽音は楽しそうに能勢オオサンショウウオに手裏剣を投げつける。
「動き速ぁい。さすが田舎ほど強くなるだけはあるね」
しかしかわされてしまった。
「おわっ! 俺目掛けてジャンプして来たぞ」
慶祐は予想外の動きを寸でのところでかわし、ダメージ回避。
「本当に箕面のよりも手強いみたいですね」
千景はすかさず能勢オオサンショウウオにマッチ火を命中させた。
「これでもまだあまりダメージ食らってへんみたいやね。うひゃっ、あぶなっ!」
桃絵は自分目掛けて飛び掛って来たこいつの顔面をバットでぶっ叩く。
それでもまだ倒せず。
能勢オオサンショウウオは全身から粘液を出して来た。
「ええ香りやぁ。あっひゃっひゃっ」
桃絵は途端にうつろな目つきに変わり、ふらふらしながらバットで自分を攻撃した。
「桃絵様が、混乱状態に」
「桃絵、しっかりして。きゃん。いたぁい」
舞衣は桃絵から膝にバット攻撃を食らわされてしまう。
「舞衣様、そのうち自然に戻るから心配せんでも大丈夫や。今、桃絵様に近づくと危険やで」
「桃絵ぇ、早く正気に戻って。あっ、服脱いじゃダメだよ」
「ぐわぁっ! この敵、強過ぎる」
慶祐は竹刀攻撃をかわされ、大きな口で足を噛まれてしまった。
「慶祐様、能勢オオサンショウウオに打撃攻撃するとさっきみたいに混乱の粘液出すからあかんで」
佐桜里は大声で警告。
「桃絵お姉ちゃんいつも変な妄想してるけど、より変にしたオオサンショウウオさん、敵討ちだよ」
羽音は生クリームを命中させる。
すると途端に動きが鈍った。
「これはチャンスね」
千景は二度目のマッチ火攻撃を食らわせる。
「まだ消えないとは、しぶと過ぎるな」
慶祐もマッチ火攻撃を食らわし、ようやく消滅させることが出来た。かめたに煎餅を残していく。
「ありゃ? ワタシ粘液のええ匂い嗅いでからの記憶がないねんけど」
桃絵も瞬時に元の精神状態へ。
「桃絵、戻ってくれてよかった♪ ん? ぎゃあああっ! また巨大カエルがぁぁぁ~」
舞衣はホッと一安心していると、目の前に箕面で見たのとは別の種類のカエル型モンスターが。全長一メートル二〇センチくらいあった。
「これはモリアオガエルのモンスターさんね」
千景は楽しそうに観察する。
コロロロ、コロロロ、コロロロ♪
リアルのにそっくりな特有の鳴き声も上げていた。
「泡に包まれた卵産むやつだね」
羽音は水鉄砲で攻撃。
「こいつは鳴き声で状態異常にさせて来ぉへんみたいやね。そりゃっ!」
桃絵の手裏剣と、
「もう消えたか。箕面で見たカジカより弱いみたいだな」
慶祐のマッチ火攻撃により消滅させると、リアルのより遥かに巨大な白い泡で包まれた卵を残していった。
「北摂モリアオガエルという名のこいつも箕面で出遭っててもおかしくなかった敵で、慶祐様の推測通りカジカガエルよりは弱いけど、倒した後に残していく卵からオタマジャクシが数匹まとめて襲い掛かってくるで。体力25の雑魚やから今の皆様なら楽勝やろけど」
佐桜里が警告した通り、全長五〇センチくらいのオタマジャクシ型モンスターが泡の中から飛び出て来てみんなの方へ襲い掛かって来たものの、
「ここはあたしに任せて」
羽音のヨーヨーぶん回し攻撃で四体まとめて泡と共に消し去ることが出来た。
「うわっ、今度はクマかよ」
直後にまた新たな敵襲来で、慶祐は引き攣った表情で呟く。少し絶望的な気分にも陥った。
「……うっ、嘘でしょ。クマさんのモンスターまで、出るなんて」
舞衣も口をあんぐり開けた。
「さすが大阪府一のど田舎能勢妙見山、これはめっちゃ倒しがいがあるわ~」
「見るからに強そうだね」
桃絵と羽音は嬉しそうに武器を構え、戦闘モードに。
「この敵は、明らかにやばいだろう。俺は戦わない方がいいと思う」
「まだけっこう遠くにいるので、わたしも戦わずに逃げた方がいいと思います。無駄な体力の消費も減らせますし」
「能勢豊能グマ、体力は98。大阪編ではリアルでの生息数に則して野生のツキノワグマ型モンスターはレアやで。大阪編の雑魚敵じゃ総合力最強やけど、お隣兵庫編のクマに比べれば弱いで」
「そうはいってもなぁ、うわっ、あっちからも能勢豊能グマが来たぞ。挟み撃ちだ」
慶祐は焦る。
「はわわわわわ。どうしよう?」
舞衣の顔は青ざめた。
「舞衣ちゃん、落ち着いて。逃げることも出来なそうだし、戦うしかないみたいだな」
クウウウウウウウァ。
クォォォォォ。
二頭の能勢豊能グマが低いうなり声を上げながらみんなのいる方にどんどん近づいてくる。
「ここは俺に任せて」
慶祐はそう言うも、
こっ、こっ、こえええええ。俺よりもでかいぞこいつ。二メートル近くはあるだろ。リアルツキノワグマはこんなにでかくないよな?
心の中では恐怖でいっぱい。
それでも慶祐は果敢に立ち向かっていった。
攻撃する前に、
クゥゥゥアッ!
「いってぇぇぇ」
鋭い爪で腕を引っかかれてしまった。
けれども慶祐はそれほど深い傷を負わされず。
「慶祐様、防御力かなり上がっとるみたいやね」
「そのようだな。旅始めたばっかのレベルならさっきので死んでたと思う」
慶祐は休まず竹刀で渾身の力を込めて何度か殴打し、見事倒すことが出来た。
「どうやっ!」
クゥゥゥァッ。
桃絵は黒インクを投げつけ、もう一頭の能勢豊能グマの目をくらませた。
「それっ!」
羽音はそいつの顔をメガホンで攻撃。
クーォォォ。
能勢豊能グマはけっこうダメージを食らったようだ。
「わたしも協力するわ。次で倒せるかな?」
千景はハリセンで背中に攻撃を加えた。
「またもう一頭来たか」
慶祐は木の上から新たに現れた能勢豊能グマとも対戦し、ダメージをほとんど食らわず勝利。
「慶祐お兄さん、こっちも頼むわ。勝てると思ったけどめっちゃダメージ食らってしもうたよ」
桃絵は引っ掻かれたようで、腕から血を大量に流していた。
「あたしも突き飛ばされたよ」
「強烈なタックル食らっちゃいましたぁ。尋常でなく痛いですぅ」
羽音と千景もうつ伏せでうずくまる。
「桃絵も羽音も千景ちゃんも無茶はダメだよ」
舞衣は千景に釣鐘まんじゅう、桃絵にけし餅、羽音に利休古印を与えた。
「よぉし。消滅」
時同じく慶祐、桃絵達を襲った能勢豊能グマに見事勝利。
豊能名産、【かあちゃん漬】を残していった。胡瓜の生姜風味たまり漬だ。
「慶祐くん、ありがとう」
「大変素晴らしかったです」
「慶祐お兄ちゃん、強ぉい」
「慶祐お兄さん、見直したで」
「慶祐様、さすが主人公や」
他のみんなから拍手が送られた。
「これくらい余裕だって」
慶祐はちょっぴり照れてしまう。
「でも無理し過ぎはダメだよ。んっ? ひゃぁんっ! きゃあああああっ!」
舞衣は何かに全身を絡み付かれてしまった。
「能勢妙見ブナ衛門だ。名前の通り、ブナの樹がモンスター化したやつやで。こいつは身動き封じてくるから厄介やで。体力は83。弱点は他の植物型の敵同様、炎や」
「見た目通りね。マッチで。きゃっ、きゃぁっ!」
千景も全身に絡み付かれてしまう。
「あーん、私のパンツに枝や葉っぱ入れないで」
「ぃやぁん、このブナさん、ぬるっとした樹液出して来たわ。いたくすぐった気持ちいいです」
高さは四メートルほど。数十本に分かれた枝を自由自在に動かすことが出来ていた。
「こうなったら炎使えないな。俺に任せて」
慶祐は巻き付き攻撃に注意しつつ、能勢妙見ブナ衛門を竹刀でぶっ叩く。
「一撃じゃ無理か。うぉわっ!」
攻撃し返され、枝でバチンッと頬を引っ叩かれた。スパッと切れて血が少し噴き出てくる。
「慶祐くぅん、早く回復して」
「これくらいノーダメージと同じだよ」
慶祐は怯まず竹刀でもう一撃。
まだ倒せず。
「くらえーっ!」
羽音はメガホン攻撃を食らわせた。
「十八禁同人誌みたいなことしやがったエロブナ、これでどうやっ!」
桃絵のバット攻撃でもまだ倒せず。
「しぶといな」
慶祐が竹刀でもう一発叩いてようやく退治出来た。
能勢名物【くれべでっちようかん】を残していく。
「冬季限定のが今手に入るなんて得した気分だな」
慶祐のアイテムに加わった。
「みんな、ありがとう」
「ありがとう、ございます」
解放された舞衣と千景はかなり疲れ切っていた。
「なかなか倒せんかったんは、舞衣様と千景様の体力吸い取って自身の体力回復させとったからやで」
佐桜里は得意げに解説する。
「千景お姉ちゃん、舞衣お姉ちゃん、これで回復させてね」
羽音はモンちゃんせんべいを一枚ずつ与えて全快させた。
「ここの敵、本当に手強いな」
あまりダメージのない慶祐はコーヒー味の飴ちゃん一個で全快させることが出来た。
「きゃっ、きゃあっ! 化け物オオクワガタさんだぁ~」
舞衣は新たな敵モンスターを見つけてしまい、悲鳴を上げて反射的に慶祐の背後に隠れた。
「でか過ぎ」
慶祐は苦笑いを浮かべる。
「お相撲取ったらリアルな熊にも勝てそうだね」
羽音は嬉しそうに呟く。
「ほんまめっちゃでかいね。きれいに黒光りしてはる。なんぼで売れるんかな?」
「これを目の前にしたら、最強クワガタといわれるリアルなパラワンオオヒラタさんも戦意喪失しちゃうわね。味方についてくれたら大きな戦力になってくれそう」
桃絵と千景はデジカメで撮影し始めた。
全長1.5メートルはあったのだ。大あごの長さも五〇センチ以上はあるように思えた。
「能勢妙見オオクワガタ、体力は91。噛み付きと大あご挟みに注意してや。攻撃力は能勢豊能グマよりも高いで」
「やばっ!」
能勢妙見オオクワガタは二本の鋭い大あごを大きく広げ、慶祐に襲い掛かって来た。
「クワガタさん、これ召し上がれ」
羽音はすばやく生クリームを顔にたっぷりぶっかける。
すると能勢妙見オオクワガタはぴたりと立ち止まったのち、それを夢中で貪り出したのだ。
「これで食べ切るまで攻撃して来なさそうだ。羽音ちゃん、よくやった」
慶祐はマッチ火を投げつけた。能勢妙見オオクワガタはボワァァァッと燃えながらも引き続き生クリームを夢中で貪る。
「倒すんは勿体ない気がするけど敵やからしゃあないね」
桃絵はGペン、
「大きなオオクワガタさん、ごめんね」
羽音は水鉄砲を食らわして消滅させた。
「能勢妙見オオクワガタさんが消えたのは残念だけど、リアルなオオクワガタさん見つけられてよかった♪」
すぐ近くのブナの木に止まっているのが目に留まり、千景は和んだ。
みんなでさらに付近を散策していると、
「うわぁっ、おい、やめろっ!」
慶祐が突如、背後から襲われる。
「慶祐くぅん!」
舞衣は深刻そうな面持ちで叫んだ。
「おう、慶祐お兄さんネバネバプレーされとるぅ。これは萌えるっ!」
桃絵は嬉しそうにスマホのカメラに収めた。
「もっ、桃絵ちゃん、撮るなよ」
巨大な藁苞から飛び出て来た無数の納豆で全身絡み付かれたのだ。
「豊能納豆くん、体力は89。ネバネバ絡み付き攻撃が得意やねん。皆様、早く倒さんと慶祐様完全に納豆に埋もれて窒息させられて体力0にされちゃうで」
「慶祐お兄ちゃん、今助けるよ」
羽音は遠くから手裏剣で藁苞部分を攻撃。
見事命中。
「これは接近し過ぎたらやばいね。能勢妙見ブナ衛門で学んだよ」
桃絵も手裏剣で藁苞部分を攻撃した。
「慶祐さん、お任せ下さい」
千景は同じ箇所をハリセンでぶっ叩く。
これにて納豆と藁苞、共に消滅。藁苞に入った豊能納豆を残していった。
「めっちゃダメージ食らってしまった」
慶祐もネバネバ汚れとにおいから解放される。彼はくれべでっちようかんを食して全快させた直後に、
「きゃぁんっ、ヤマドリさんに襲われちゃいましたぁ」
「慶祐くん、桃絵、羽音、助けてぇーっ!」
千景と舞衣の悲鳴。コココ、コココッと鳴き声を上げつつ羽を激しくバタつかせるヤマドリ型モンスターに追いかけられていた。
「能勢妙見ヤマドリ、体力は82。ここの敵では弱い方やで」
佐桜里はそいつに完全スルーされていた。
「でかいな」
慶祐はその敵の姿に驚く。体長二メートルくらいはあったのだ。けれども怯まず竹刀を構えて立ち向かっていく。
「お肉美味しそう♪」
羽音も楽しそうに立ち向かっていった。
「ワタシも戦うで。あっ、ちっ、ちっ。上から汁が垂れて来たわ~」
髪の毛からお顔にかけてぶっかけられた桃絵はとっさに木の上を見る。
そこにいたのは、猪肉や白菜、椎茸、牛蒡、蒟蒻などが入った土鍋型のモンスターだった。体長は一メートルほど。枝の上に留まっていた。
「能勢の特産物ぼたん鍋のモンスター、能勢のぼたん鍋くん、体力は88。鍋を高速回転させて熱々な出汁や具の散布攻撃してくるから接近戦は危険やで。ちなみに兵庫編の丹波篠山にはもっと強いタイプのぼたん鍋くんが出没するで」
「木の上からぶっかけ攻撃してくるなんて卑怯過ぎやっ!」
桃絵はすばやく手裏剣を投げつけた。
命中して、ぼたん鍋くんは枝の上から地面に落っこちる。
「さっきの仕返しやっ!」
桃絵は今度は黒インクを投げつけ、休まずマッチ火も投げつけて消滅させた。
ぶっかけられた出汁の汚れも同時に消滅する。
「桃絵お姉ちゃん、パワーアップしたね」
「一人で圧勝してたな」
能勢妙見ヤマドリを協力して倒した羽音と慶祐は感心する。
「これはボス戦自信沸いて来たわ~」
桃絵が自信に満ち溢れた笑顔で呟いた直後、
「おまえら、おいらの存在に気付けないなんて灯台下暗しだな。おいら、おまえらが箕面でカジカガエルとかと戦ってた時からすぐ近くで見てたんだぜ」
こんな声と共に、木の裏側から白い布のような物体が現れた。
長さは十メートルくらいはあった。
正体は一反木綿だった。
「捕獲成功♪ おいらの仲間を退治した仕返しだ」
「みんなぁぁぁ、たーすーけーてー」
「離して! 痛いねん」
「あの、やめて下さい。離して下さい」
舞衣と佐桜里と千景はあっという間に強く巻き付けられてしまった。
「おい、一反木綿、よくも舞衣ちゃんと佐桜里ちゃんと利川さんを」
「一反木綿ちゃん、ワタシ達と正々堂々戦いやーっ!」
「舞衣お姉ちゃんと佐桜里お姉ちゃんと千景お姉ちゃんを返せーっ!」
慶祐達は急いで駆け寄って行くも、
「返して欲しかったら、ここの町屋まで来いよ。ボスの太陽の塔納言といっしょに楽しみに待ってるよ」
一反木綿はそう伝え、地図が描かれた紙を落として舞衣達を巻きつけたまま空高く舞い上がってしまった。
「離して下さい。怖いです。わたし、高い所苦手なんです」
「みんなーっ、絶対助けに来てねーっ!」
「あんた、鹿児島編の敵モンスターじゃない。芝右衛門狸といい、大阪編に現れるなんて反則やで」
千景と舞衣と佐桜里は懸命に叫ぶ。
「本来主人公一人で攻略すべき大阪編を、こんな大人数で攻めてくるおまえらの方がよっぽど反則であろう」
一反木綿はこう主張して、さらに高く舞い上がりスピードを上げた。
「富田林かよ。ここからけっこう遠いぞ。電車なら妙見口駅からでも二時間近くかかってしまう。麓下りたらタクシー使った方が良さそうだな」
「PLのとこかぁ。そこ行くの何年か前に花火見に行って以来や。ワタシますます闘志が湧いて来たよ」
「お姫様の救出劇みたいになるね。急ごう!」
慶祐、桃絵、羽音はケーブルカー乗り場へ向かって山道を駆け下りていく。
途中、
「うぉわっ!」
「おう、うさぎちゃんや。きっとモンスターやな」
「うさちゃん、あたし達急いでるの。悪いけどのいてね」
体長五〇センチくらいの野うさぎ型モンスター数匹にちょこまかまとわりつかれ、進みにくくされてしまった。
「佐桜里ちゃんいないからどのくらいの強さが分からないけど、風貌的に大したことなさそうだ」
慶祐はマッチ火を投げつけ一体を消滅させる。
次の瞬間、
「ぐわあああっ、いってててぇ!」
別の一体に足をカブッと噛まれてしまった。慶祐はその場に崩れ落ちる。
「攻撃力やばそうや。能勢妙見山の敵は弱そうに見えても侮れんわ~。気ぃ引き締めんと」
桃絵はGペンとマッチ火を同時に投げつけ、
「素早さも高いよ。慎重に狙わないとかわされちゃうね」
羽音は水鉄砲と手裏剣を何発か食らわし全滅させた。
ほとんど間を置かず、
「今度は花のモンスターか。何の花か知らないけど」
「動いとるから間違いなくモンスターやろね」
「これはきっとキツネノカミソリだね」
高さ四〇センチくらい。多数集まって絨毯のようになっていたオレンジの花を咲かすキツネノカミソリ型モンスターが慶祐達の足元に絡みついてくる。
「羽音ちゃんよく知ってたね。くっそ、粘着力高過ぎだ。異様に疲れて来たし、体力吸い取られてるみたいだな」
慶祐は竹刀で叩いて引き離そうとする。
「弱点は火やろうけど、それ使ったらワタシ達までダメージ食らいそうや。こうなったら」
桃絵は黒インクをキツネノカミソリ型モンスターにぶっかける。
「おう、効いてるみたいや」
するとしおらせることが出来たのだ。
「これもきっと効くね」
羽音が生クリームをぶっかけると、さらに弱らせることが出来た。
「桃絵ちゃんも羽音ちゃんも見事だな。気分悪っ。毒に侵されたみたいだ。やばいなぁ。俺、毒消しの薬草持ってないぞ」
慶祐は顔を少々青ざめさせ、息苦しそうに呟く。
「ワタシも持ってへんよ」
桃絵は深刻そうな面持ちで呟く。
「回復役の舞衣ちゃんと、佐桜里ちゃんがさらわれたのはかなりの痛手だな」
慶祐はさらに状態が悪化したようで、その場に座り込んでしまった。
「大丈夫だよ慶祐お兄ちゃん、あたしお昼ご飯の時、妙見の水汲んどいたから。山だから毒持ってる敵も多いと思って」
羽音は水筒に詰められたそれをリュックから取り出し、コップに移すと慶祐の眼前にかざした。
「羽音ちゃん、準備良いな」
慶祐はありがたく受け取って飲むと、瞬時に毒状態から完治。同時に体力も全快する。
この三人がまた走り出してからすぐに、能勢オオサンショウウオ三体に行く手を阻むように遭遇してしまった。
「鬱陶しい」
慶祐はマッチ火を三回連続で投げつけ一体を消滅させる。
「こいつに打撃はNGやったね」
桃絵はマッチ火を投げたあと、手裏剣とGペンを同時に食らわし消滅させた。
「くらえーっ!」
羽音は残る一体に生クリームをぶっかけ動きを鈍らせたのち、水鉄砲三発で倒すことが出来た。
その直後、
「うをあっ!」
「ひゃっ、地面が盛り上がっとる、きゃんっ」
「きゃあああっ!」
三人は下から突き上げられる形で弾き飛ばされ、けっこうダメージを受けてしまう。
なんと地面から新たに見る敵モンスターが現れたのだ。
数本の束になった根菜型で、葉っぱまで含めた高さは二メートルちょっと。白っぽく太く土塗れだった。
「こいつは大根、いや、豊能町の特産品ヤーコンのモンスターか? こんな登場の仕方までする敵もいるとはな」
慶祐のマッチ火、
「ヤーコンちゃん、登山道破壊したらあかんで」
桃絵の手裏剣、
「あたし達急いでるのにっ!」
羽音の怒りのヨーヨー攻撃三連発であっさり消滅させた。
壊された登山道も瞬時に元に戻る。
またすぐに能勢妙見ヤマドリが三体襲い掛かって来たが、
「おう、あっさり倒せたぞ」
「二発で消えるとは思わんかったわ」
「すごく弱く感じるね。あたし達またレベルが上がったんだね」
慶祐の竹刀、桃絵のカッター、羽音のメガホン攻撃で、空振りすることなく全種一撃で倒すことが出来た。
再び走り出した慶祐達、ほどなくまた行く手を阻まれてしまう。
体長二メートル以上はある、ツキノワグマ型モンスターだった。
「また能勢豊能グマかよ。あれ? なんかさっきのより体格良くねえ? うわっ、あぶねっ。ぐあっ、いってぇぇぇ!」
鋭い爪を繰り出された。慶祐はかわし切れず、頬がスバッと切れてしまう。
「接近すると危ないよね」
「能勢豊能グマ、かどうか知らんけどワタシ達急いどるねん」
羽音と桃絵は手裏剣で攻撃を加える。
一撃では倒せなかった。
「一頭は何とか倒せたけど、強過ぎだ。これ絶対能勢豊能グマじゃないだろ。兵庫編の熊だと思う。説明書にも陸続きな都府県境付近では隣接する都府県の敵に出遭えるかもって書かれてたし。そもそも能勢妙見山は一部範囲は兵庫県だしな」
慶祐はマッチ火と竹刀で頬を切り付けた一体に対抗し勝利を収めるも、足や腕にもけっこうダメージを食らってしまった。すぐに鹿肉ハムなどを食して体力を全快させる。
「ほんまに能勢豊能グマよりも強いわ~」
桃絵は残った二頭に黒インクを投げつけ、目つぶし攻撃を食らわす。
クゥゥゥオ!
クァァァッ!
「桃絵お姉ちゃん、けっこう効いてるみたいだよ」
「おう、上手くいったか!」
すばやく羽音と桃絵は手裏剣、
「桃絵ちゃん、ナイスだ。熊怯んでるぞ」
慶祐はマッチ火攻撃を、休まず何発か食らわし全滅させた。
「きんたくん最中と無花果どら落してくれるなんてちょうどよかったわ~」
「太っ腹な熊ちゃんだったね」
「川西の名産品か。やっぱ兵庫編の熊だったみたいだな。でも圧倒的な強さの差はなくてよかった」
その後は敵に遭遇することなく、妙見の森ケーブル山上駅に辿り着くことが出来た。
「あ~、間に合わんかったかぁ。ちょうど出てもうたわ」
「次のは約二十分後だね」
「本数比較的多いことは救いだけど、敵に遭ってなけりゃさっき出たのの前のにも間に合っただろうにな。ハイキングコース下るとまた敵と遭ってかえって足止めされる可能性高いから待っとくか」
「そうやね」
「あたしもその方がいいと思うなぁ。急がば回れだよ」
結局、慶祐達は次のケーブルカーで黒川駅前へ。そこからはバスで妙見口駅前に移動した。
その後、川西能勢口駅まで阪急電鉄で移動してからタクシーを利用することにした。
※
慶祐達がタクシーに乗り込んでから一時間ほどが経った頃、
「めっちゃ痛いねん」
「締め付け弱めて、というより離して下さいっ!」
「私、おしっこしたくなっちゃった」
千景と佐桜里と舞衣は富田林寺内町にあるとある町屋の和室隅で、かずらで全身を拘束されていた。
「縛られた女子(おなご)を眺めながら飲む玉露はじつに美味いのう」
「そうですね、太陽の塔納言」
高さ二メートルくらいの太陽の塔納言と、一反木綿は彼女達のすぐ側で茶を啜っていた。
「きゃっ! パンツ捲って来たよ」
「いやらしいで」
「なんともエッチなかずらさんですね。外れないわっ」
縛られた三人は必死で振り解こうとするも、なすすべなし。
「こいつは徳島編に出る祖谷のかずら衛門やからね。能勢妙見ブナ衛門よりも五倍は強いわよ。ホホホ、ええ肉がとれそうや」
太陽の塔納言は三つの顔をにやりと微笑ませる。リアルのものとは違い、表情を自在に変えられるようだ。
「ぼたん鍋といっしょに煮込むとより美味しくなりそうですね」
一反木綿もにこりと微笑んだ。
「私達、食べられちゃうの? 私、脂肪と贅肉だらけだからすごく不味いよ」
「わたしも大変不味いです。ムダ毛も多いですよ。汗臭いですよ。食べないで下さい」
舞衣と千景の顔が青ざめる。
「舞衣様、千景様。冗談で言っとるんやと思うで」
佐桜里は笑っていたが、やはり恐怖心を感じていた。
「さてと、そろそろ調理を始めまひょか」
「太陽の塔納言、出刃包丁持って来ましたぜ。まずは一番美味そうな太ももから裂いていきましょうや」
一反木綿は自身に巻き付けて運んで来た。
「いやぁぁぁ~、やめてぇぇぇーっ!」
舞衣は恐怖心で目から涙からこぼれ出た。
「本当に、やる気なのですか?」
千景の表情も引き攣る。
そんな時、
「みんなーっ、助けに来たよ」
「おっ待たせーっ! ボスバトル、めっちゃ張り切るで。おう、太陽の塔納言、リアル太陽の塔にそっくりや。大きさは三〇分の一もないくらいやけど」
「みんな無事か?」
慶祐達、到着。
「慶祐くん、羽音、桃絵。来てくれてよかったぁぁぁ」
「慶祐さん、羽音さん、桃絵さん、わたし達が犠牲になるまでに間に合うと信じていましたよ」
舞衣と千景は嬉し涙をぽろりと流す。
「慶祐様、羽音様、桃絵様。健闘を祈るで」
佐桜里はホッとした笑顔で伝えた。
「ホホホ、よく来たわね」
「おまえらに勝てるかな?」
「太陽の塔、やけにかわいらしい声してるけどこのゲームじゃ女の子設定なのかよ。とにかくみんなを早く解放してやれ」
慶祐は険しい表情で訴える。
「ウチらに勝てたら解放したるわ。ウチが出る幕もないと思うねんけどね」
太陽の塔納言が三つの顔を微笑ませたままそう言うや、後ろの襖がガラリと開かれた。
「おまえらは、おれっちが片付けてやるぜ」
そして別の敵モンスターが登場する。
「おう、あなたは昨日の男の娘! 今日は服装もかわいいわ~♪」
桃絵は満面の笑みを浮かべた。
「根暗っぽい姉ちゃん、昨日はよくもやってくれたな。今日のおれっちは本気モードだぜ。仕返しだぁーっ!」
花柄チュニックに水玉ミニスカートを穿いた男の娘姿の芝右衛門狸はそう言うや、桃絵に飛びかかり、両おっぱいを服越しに鷲掴みしてくる。
「こっ、こら。おっぱい揉まんといて。力抜けちゃうから」
予想以上のすばやい動きだったため、桃絵はちょっぴり動揺してしまった。
「それそれそれーっ」
「あぁっん、もうやめて欲しいわ~」
優しく揉まれるごとに、桃絵のお顔はだんだん赤みを増していく。
「おいっ、やめろっ!」
慶祐は芝右衛門狸の後ろ首襟を掴んで引き離そうとした。
「動き遅過ぎ♪」
しかし余裕でかわされた。
「きゃんっ!」
弾みで慶祐の右手が桃絵の胸に服越しだがしっかり触れてしまう。
「ごっ、ごめん桃絵ちゃん」
慶祐は反射的に右手を引っ込めた。
「いや、べつにええよ」
桃絵は照れ笑いする。
「みんな頑張れーっ!」
「うち、期待しとるで」
「慶祐さん達なら絶対勝てると信じてますよ」
舞衣と佐桜里と千景はきつく縛られて苦しそうにしつつも、温かいエールを送ってくれた。
「お姉ちゃんみたいなお兄ちゃん、くらえっ! フラーシュッ!」
羽音はポケットからデジカメを取り出し、芝右衛門狸の写真を撮った。
「ぎゃっ、目がくらんだ。卑怯だぞおまえ」
怯む芝右衛門狸。
「卑怯じゃないもん」
羽音は続いて水鉄砲を取出し、芝右衛門狸の顔面目掛けて連射。
「うひゃぁぁぁっ!」
けっこう効いたようだ。
「芝右衛門狸、動き鈍ったな」
慶祐はすかさず竹刀で芝右衛門狸の腹をぶっ叩く。
「いってぇぇぇ。こうなったら……」
芝右衛門狸は本来の姿に戻るや、口から糸を吐き出した。
「ん? うわっ!」
慶祐は体中を巻きつけられてしまった。
「どうよ、奥義、芝右衛門狸の糸車♪」
芝右衛門狸は得意げに笑う。
「身動きとれねえ。うわっ」
慶祐、体を揺さぶってみたらバランスを崩して地面に転がってしまった。
「慶祐お兄さん、ワタシがほどくよ」
「あたしも手伝うぅ」
桃絵と羽音は慶祐の側へ駆け寄っていくが、
「おまえら油断し過ぎ。それぇっ!」
「うわっ、引っかかっちゃった!」
「しもた。油断したわ~」
芝右衛門狸に慶祐と同じようにされてしまった。二人とももう一歩動こうとしたらバランスを崩し、地面に転がってしまう。
「これで攻撃し放題だな」
一反木綿、にやりと笑う。
「おれっち、桃絵っていう腐女子っぽい子、ボコボコに痛めつけたい。おれっちに猥褻なことした仕返ししてやるぅっ!」
芝右衛門狸は男の娘姿に戻り、にやにや笑いながら桃絵の方へ近づいていく。
「くっそ、糸さえほどければ」
「ワタシ達、大ピンチになっちゃったよ」
「ほどけないよぅーっ」
慶祐、桃絵、羽音。自分で糸をほどこうとするがほどけず。
「慶祐くぅん、羽音、桃絵ぇ。助けてあげられなくてごめんねー」
「うち、何も出来ないのが甚だ悔しいわ~」
「わたしも同じく」
舞衣と佐桜里と千景は心配そうに見守る。
「姉ちゃんのお尻の穴無理やり広げて自然薯プスッて突っ込んでやろうか。ちょうど持ってることだし。それからなわとびの鞭で十発くらい叩こうかな?」
芝右衛門狸はにやにやしながら桃絵の側でしゃがみ込む。
「あーん、屈辱やぁ」
桃絵は頬を火照らせ照れ笑いする。
「そう言いながらやけに嬉しそうにしてるじゃないか。ひょっとして姉ちゃん、マゾ?」
「いやぁ、嬉しくはないって」
「ほんまかいな? 桃絵って子、おれっちは心優しいからお尻に突っ込む前に痛くないようにガマの油を塗ってあげるからね。そうしないと入らないだろうし。ついでに姉ちゃんのアンダーヘアーも観察してあげる。金剛山地の原生林かな? それとも岬町のときめきビーチの砂浜か? 楽しみ♪ さてと、まず手始めに姉ちゃんのパンツの柄を拝見……あっ、しまった。こんなに縛り付けたらスカート捲れないじゃないか」
芝右衛門狸はそのことにたった今気付いたようだ。
「芝右衛門狸ちゃんったら、ドジッ娘やね」
桃絵はくすっと笑った。
「こうなったら、スカートの周りだけ糸外してやるぅっ!」
芝右衛門狸はむきになってスカートポケットから鎌を取り出した。
「きさまの生尻とくと拝見してから、次はそっちのお兄さんの生尻を」
「おーい、俺の尻見たって何も得しないぞ」
慶祐は呆れた表情で主張した。
「ワタシも慶祐お兄さんの生尻見たい! 芝右衛門狸ちゃん、ワタシにも見せてや」
「いいぜ。まずおれっちが拝見してからね」
「よっしゃぁ!」
「二人とも、何打ち合わせしてんだよ」
慶祐はいらっとした表情を浮かべていた。
「あたしは慶祐お兄ちゃんのお尻、昨日見たばっかりだよ。いっしょにお風呂入ったもん」
羽音はにこにこ顔で伝える。
「羽音ちゃん、そんなこと伝えなくていいから」
慶祐は穴があったら入りたい気分だった。
「羨ましい! どんな感じだった?」
芝右衛門狸は興奮気味に質問する。
「パパのお尻よりは小さかった」
羽音はにこにこ顔のまま答えた。
「そっか。まだ成長途中だもんな」
「ワタシが最後に慶祐お兄さんの生尻見たのは、もう五年以上は前になるかな?」
桃絵はにやついた表情で呟く。
「おまえら、いい加減にしてくれ」
慶祐、ますます居た堪れない気分に陥る。
「姉ちゃんも見たことあるのかよ。ますます許せなくなったぜ。こちらの羽音っていう女の子はかわいいから、足の裏こちょこちょ攻撃で許してあげるよ」
芝右衛門狸はそう伝えてパチッとウィンクした。
「ええーっ、それは嫌だなぁ」
羽音は苦笑い。
「桃絵ってやつ、大人しくしてろっ! 動くと肌までブシュッて切れちゃうよ。この鎌はめっちゃ切れ味良いからね」
芝右衛門狸は桃絵のスカートに接している糸の結び目部分をスパッ、スパッ、スパッと三箇所切る。
「これでスカートずらせる」
芝右衛門狸がにやついた表情でそう呟くや、
「スカートずらせるだけやないよ、芝右衛門狸ちゃん」
桃絵はガバッと立ち上がった。
「あれ? 今ので全部ほどけちゃった?」
唖然とする芝右衛門狸。
「そうみたいや。芝右衛門狸ちゃん、やっぱドジッ娘ね」
桃絵はにっこり微笑む。
「桃絵お姉ちゃん、自由になれたね」
「芝右衛門狸、自滅したな」
慶祐と羽音は安堵の表情を浮かべた。
「こうなったら、実力で」
芝右衛門狸はまた本来の姿に戻り、桃絵に果敢に立ち向かっていく。手をグーにして桃絵のお腹にパンチを食らわそうとしたが、
「ワタシ、昨晩よりはレベル上がっとるからそう上手くはいかへんよ」
桃絵は余裕で芝右衛門狸の体にガバッと抱きついた。
「あれ? なんでそんなに動き良いの?」
「さっきのは演技や。よっと」
「わーん、おーろーしーてー」
そして両手で抱き上げたのち片手で肩に担ぎ上げ、そのまま羽音のもとへ。
「羽音、じっとしててや」
「うん」
もう片方の手で地面に落ちた鎌を拾い、羽音の体に接している糸の結び目を何箇所か切る。
これで羽音の体は自由になった。
桃絵は同じ要領で慶祐の体に絡み付いている糸も、
「この格好のままの慶祐お兄さんもなんか萌えるから、そのままに」
「こらこら桃絵ちゃん。早く切れって」
「桃絵、慶祐くんで遊んじゃダメだよ」
「桃絵お姉ちゃん、いじわるしないで早く切ってあげて」
「冗談、冗談。ごめんね慶祐お兄さん」
一回躊躇ったがすぐに切って、自由にしてあげた。
「桃絵ちゃん、ありがとな」
「どういたしまして」
「さてと、こいつをなんとかしないとな」
慶祐は竹刀を持って、芝右衛門狸の側へにじり寄る。
「やめて下さい。おれっち、反省します」
うるうるした瞳で言われるが、
「許さない」
慶祐は容赦なくぽっこりふくれた腹を竹刀でぶっ叩き、消滅させた。
「やったね慶祐くん♪」
舞衣は嬉しそうに微笑んだ。
「やるやん」
太陽の塔納言の三つの顔は悔しそうな表情へ。ちょっぴり感心もしているようだ。
芝右衛門狸が消えた後には、柄の違う水玉ショーツが二枚残されていた。
「舞衣お姉ちゃん、これ、昨日盗まれたやつでしょ?」
「うん、それだよ。戻って来て良かった♪」
「よかったね舞衣お姉さん。なんか、よだれでべっとりしとるよ」
桃絵は手で掴もうとしたが、思わず引っ込めた。
「じゃあ、もういらなーい。捨てといて」
舞衣は嬉しそうな笑顔から悲しげな表情へと変わった。
「変態狸だな」
慶祐は呆れ笑いする。
「あいつはゲームの中でも人間の女によくエロいイタズラしてるぞよ。妖怪のくせに妖怪の女には全く興味ないそうだ。さて、おまえら、次はおいらと勝負だっ!」
一反木綿は慶祐達に立ち向かって来た。
「一反木綿なんて所詮布やろ?」
「うわっ、しまった」
桃絵はカッターで一反木綿をズバッと切り付けた。一反木綿の体に大きく切れ目が入る。
「べとべとびちょびちょにしたら弱りそうだね」
羽音は生クリームと水鉄砲を命中させた。
「ぬぉぉぉっ」
一反木綿、ぐっちょり濡れて弱る。
「俺が戦うまでもなく勝てそうだな」
そんな無様な姿を見て慶祐はにこっと笑った。
「こいつ、思ったより弱いやん」
「桃絵お姉ちゃん、いっしょにとどめ刺そう」
桃絵はバットとたわし、羽音はメガホンを一反木綿に向けた。
「こうなったら」
一反木綿は目をきらっと輝かせる。
するとなんと、
「えっ! 嘘?」
「ありゃ? 足が……」
深刻な事態へ。
羽音と桃絵はあっという間に石化されてしまったのだ。
「あっ、羽音っ! 桃絵ぇ!」
「羽音さん、桃絵さん!」
舞衣と千景、予想外の光景に思わず叫んだ。
「魔法は、使えないはずじゃ」
唖然とする慶祐に、
「これは妖力じゃからな」
一反木綿は自慢げに言う。
「ホホホッ、驚いてはるね」
太陽の塔納言は三つの顔をにやにや微笑ませた。
「桃絵と羽音が、石になっちゃったぁぁぁ~」
舞衣は嘆きの声を漏らし、悲し涙をこぼす。
「心配せんでも大丈夫や、舞衣様。石化を解く粉を使えば、つまり一反木綿を倒せば、手に入って元に戻せるで」
「本当?」
「はい。一反木綿、大阪編の敵では使ってこない妖力使うなんてますます卑怯や」
「卑怯なのはおまえらの方もだろう」
一反木綿はフフフッと笑って得意げに反論する。
「なんだ。急に体に異様な疲労感が」
慶祐はハァハァ息を切らす。
「おいらの妖力できみの体力吸い取っちゃった♪」
一反木綿は完全復活してしまった。
「そんな技まで使えるのかよ」
慶祐はもみじの天ぷらを食して、体力を八割方回復させた。
「おいらじゃ男には石化攻撃は効かんっていう設定は納得いかんがのう」
一反木綿は少しやさぐれた表情で言う。
「ほほほ、ウチとこいつ、きみ一人で倒すしかないわよ」
太陽の塔納言は勝ち誇ったように、正面胴体部の素では怒っているような太陽の顔の表情をフフフッと微笑ませた。
「本気で行くぞっ!」
慶祐は怒りに満ちた表情を浮かべ、竹刀を太陽の塔納言の太陽の顔目掛けてすばやく思いっ切り振りかざす。
「あんっ、痛ぁいっ!」
見事直撃し、太陽の塔納言は泣き顔に変わった太陽の顔から甘い声を漏らした。
「慶祐様、ええ振りやね。乗り気なようで嬉しいわ~」
「みんなを救うために、本気になってくれてるね」
「慶祐さん、主人公らしい活躍振りですね」
佐桜里と舞衣と千景は賞賛する。
「大丈夫か?」
慶祐はにっこり笑い、心配してあげた。
「敵に情けをかけるなんて、大阪編最強のウチもなめられたものね。これでもくらいや」
太陽の塔納言は上部の黄金の顔の目の部分をピカッと光らせる。
「うわっ! とてつもない眩しさだ。落ち目お笑いコンビ君のボケの比じゃないぞ」
慶祐は目がくらんでしまった。
「ここからは相撲勝負やで」
太陽の塔納言はその隙に慶祐の体にガバッと抱きつく。そして彼のジーンズの裾を指はないが尖った両手でがっちり掴んだ。
「しまった! 早く振り解かないと」
慶祐は焦りの表情を浮かべる。
「やったぁっ! いい形だ太陽の塔納言」
一反木綿は布で出来た両手でガッツポーズを取った。
「それっ!」
太陽の塔納言は慶祐に寄りかかって体勢を崩させ、馬乗りになった。
「うっ、動けねえ。重いっ。なんてパワーだ」
「どんどん重くなってくるわよ♪」
「ぐあぁっ!」
慶祐は必死に振り解こうとするが、どうにもならず。
「ただいまの決まり手は、寄り倒しだな」
一反木綿はにこにこ顔で呟いた。
「慶祐くーん、頑張ってー」
「慶祐様、早くやっつけちゃって下さい。長引くとまずいで」
舞衣と佐桜里からそう言われるも、
「そう、言われてもな……」
慶祐は何も活路を見い出せなかった。
「それっ、縦四方固よ♪」
太陽の塔納言は柔道の技を用いてさらに強く圧し掛かってくる。
「いってててぇーっ!」
苦しがる慶祐。
「そろそろ参ったって言うた方がええんやないかしら? あんたの体、一反木綿みたいにぺっちゃんこになっちゃうわよ♪」
太陽の塔納言は、背中の素では暗く寂しげな表情の黒い太陽を示す顔を嘲笑わせる。
「まだ降参はしない。振り解いてやるっ!」
「慶祐様ぁ、もう降参して下さい。体力が0になっちゃうで」
「慶祐さん、もう無理はしないで。これはゲームなんだから」
「そういうわけにはいかない。俺は、主人公、だから」
慶祐は非常に苦しそうな表情で伝える。太陽の塔納言を自分の体からなんとか引き離そうと懸命に力を込め続けてみるも、太陽の塔納言はびくともせず。
「ウチはまだまだ本気で圧し掛かってないんやで。体をもっともっと大きく重くすることが出来るからね」
太陽の塔納言の黒い太陽はにっこり笑っていた。余裕の表情だ。
「関係ない。俺は、全力を、尽くす、だけだ」
「ホホホ、起き上がれるものなら起き上がってみぃや」
「ぐぁっ、ダメだ。こいつ強過ぎる。くっそ。もう少し、レベルを、上げて、いれば……」
慶祐の意識は徐々に薄れゆく。
「慶祐くぅん、しっかりしてぇーっ!」
「申し訳ないです慶祐さん、わたし達は無力でした」
「慶祐様、今のレベルじゃ勝ち目はないで。降参して、もっとレベルを上げて再チャレンジしようや」
舞衣、千景、佐桜里の三人は涙をぽろりと流しながら伝えた。
「いや、それは……」
慶祐は朦朧とした意識の中で懸命に呟く。
「ウチの勝利ってことでオーケイ?」
太陽の塔納言の黒い太陽は満面の笑みで勝利宣言。黄金の顔と太陽の顔もおそらく同じ表情なのだろう。
「主人公もまだまだレベルが足りんな」
一反木綿も嘲笑う。
その直後だった。
驚くべきことが起きた。
「あれ? ワタシ、どうなってたんや?」
「あたし、動けるようになってる」
桃絵と羽音が石化から元の状態へ回復したのだ。
「桃絵、羽音。よかったぁ!」
「二人とも、戻ってくれてよかったです」
「おう、奇跡や。あっ、あれ?」
さらに舞衣、千景、佐桜里も絡み付いたかずらが解かれ自由の身になった。
「なっ、何ゆえ?」
「そんな、バカな。なんでやねん? あり得へんわ」
一反木綿と太陽の塔納言も思わぬ事態にあっと驚く。
「太陽の塔納言、軽くなったな」
「きゃっ! しまった。つい力抜いてしもうたわ」
慶祐は太陽の塔納言を突き飛ばし、すっくと立ち上がった。
「慶祐様も完全復活やね」
「慶祐くん、よかったぁぁぁっ!」
舞衣は歓喜の叫びを上げ嬉し涙を流した。
「どういうわけか、体力も全快したみたいだ」
慶祐は元気溌剌とした声で伝えた。
「なんでやねん?」
太陽の塔納言が三つの顔を呆気に取られた表情にさせて太陽の顔で呟いた。
その直後、
「これこれ一反木綿、太陽の塔納言、何しとんどすか?」
女性の穏やかそうな声がこだました。
「この声は、舞妓さん様?」
「あら、舞妓さん。なっ、なんでここに?」
一反木綿と太陽の塔納言はびくりと反応した。
「ゲームの外に飛び出して、こんな所で油売ってたらあかんどすえ」
声の主はみんなの目の前についに姿を現す。
「舞妓のお姉ちゃんだぁ!」
「ワタシ生舞妓久し振りに見たわ~。めっちゃ美人やけど、一反木綿ちゃんと太陽の塔納言ちゃんのそのびびり方からすると怒ったらめっちゃ怖いんやろね」
「本物の舞妓さん?」
「このお方も、敵モンスターなのでしょうか?」
三姉妹と千景は不思議そうにじっと見つめる。
着物姿、イメージ通り顔や首に白粉が塗られていて、濡れ羽色の髪を花簪で留めた、おふくの髪型。背丈は一五〇センチくらいと小柄で穏やかそうな雰囲気を醸し出していた。
「敵モンスターという設定になっとるえ。あんたら、あての女子力で石化を解除して、かずら衛門も瞬殺しておいたえ。あと慶祐と申される軟弱そうな男の体力も全回復させておいたえ」
舞妓さんはおっとりのんびりした京ことばで得意げに伝える。
「そんな能力が使えるとは、相当強い敵モンスターなのでしょうね」
千景は感服したようだ。
「モンスター化した舞妓さんは京都編の量産型の雑魚敵で、体力は1800以上あるで」
「雑魚で1800越えって! 大阪の次に進むべきステージが、隣の京都じゃないってことは確かだな」
慶祐もちょっぴり恐縮してしまう。
「あら? 痺れて動けへんわ。リアル太陽の塔のごとく」
「おいらもだ」
「あてが女子力全開で痺れをかけたからえ。あんたら、今のうちに倒しとき」
舞妓さんはほんわかした表情で勧めて来た。
「それじゃ、遠慮なく。太陽の塔納言、覚悟しろっ!」
「きゃあぁぁんっ! 痛ぁ~い。もっと優しくしてぇ~」
「それは不可だ」
「ひゃぁんっ! そこはダメェ~」
慶祐は太陽の塔納言を竹刀で何度も攻撃しまくる。悶えた表情で色気ある悲鳴を上げるも容赦せず。
「一反木綿、ワタシを石化したお返しや」
「一反木綿のおじちゃん、覚悟してね」
桃絵は黒インク、羽音は生クリームと水鉄砲とたわしを用いて攻撃する。
「うぎゃぁぁぁっ! たわしで擦るのやめてぇぇぇ。それもおいらの弱点なんだ」
インクと生クリーム塗れでふやけて一部破れてしまった一反木綿に、
「ボスの太陽の塔納言さんは、主人公の慶祐さんが一人で倒した方が良さそうですね。わたしが一反木綿さんにとどめを刺すわ」
千景はマッチ火を投げつけた。
「ぐげぇぇぇ。あっ、ちっ、ちぃっ」
一反木綿、苦しそうに跳ね回る。
「なんか、かわいそうになって来た」
心優しい舞衣は同情してあげた。
「もう、やめてくれ。おいら、ゲームの中に戻るから」
「ウチもや。降参や、降参。ウチを痛めつけるのはやめてーな、お願ぁい。岡本太郎も草葉の陰で泣いちゃうわ」
一反木綿と太陽の塔納言は怯えた様子で懇願してくる。
「ワタシ、もう満足したからええよ」
「あたしも許してあげるよ」
「わたしも、許しますよ」
「皆様心優し過ぎるで」
「俺は許したくないけど、これで俺達の勝ちってことでいいな?」
慶祐が確認を取ると、
「うん、ウチらの負けや」
「おいら達の負けでいいよ」
太陽の塔納言と一反木綿はあっさり負けを認めた。
「慶祐様、最後は主人公らしく締めはりましたね」
佐桜里は満面の笑みを浮かべる。
「慶祐くん、ありがとう。すごく格好よかったよ」
「慶祐さん、無力なわたし達を救って下さり、誠にありがとうございました」
舞衣と千景は慶祐の手をぎゅっと握り締めた。
「いや、べつに当たり前のことをしただけだから。礼なら桃絵ちゃんと羽音ちゃんと舞妓さんの方に言って」
慶祐はかなり照れてしまう。マシュマロのようにふわふわ柔らかい感触が、慶祐の両手のひらにじかに伝わって来たのだ。
「慶祐お兄さん照れとる照れとる。ともあれワタシ達の勝ち決定やね」
「これでリアルな大阪編クリアだね」
桃絵と羽音は満面の笑みを浮かべる。
「あんたら、一反木綿と太陽の塔納言が多大なご迷惑をおかけして本当にすんまへん。二度とリアル世界に飛び出て悪させんよう、しっかり懲らしめときますので。一反木綿、太陽の塔納言、みんなに謝りなはれ」
「いっ、て、て、てぇ。ごめん」
「ごめんなー」
舞妓さんはみんなに向かって深々と頭を下げて謝罪。一反木綿と太陽の塔納言も無理やり下げさせられていた。
「いえいえ。うち全然気にしてへんので」
佐桜里は苦笑いを浮かべる。一反木綿と太陽の塔納言のことを少しかわいそうに思ったようだ。
「慶祐といわはるお方、あてら、ゲーム内に帰るから、今から出すテレビにゲーム機を繋いで例のゲームを起動させてくれへんやろか?」
舞妓さんはそう頼んで畳にぶぶ漬をばら撒くと、四八インチ液晶テレビが現れた。
「おう、魔法やっ!」
「舞妓のお姉ちゃん、すごーいっ!」
桃絵と羽音はパチパチ拍手する。
「桃絵という子、これは魔法ではなく女子力なんどすえ」
舞妓さんはホホホッと笑った。
「あの、俺の部屋のテレビじゃないと、飛び込めないと思いますけど」
「そこはあての女子力で何とかするえ。太陽の塔納言をゲーム内に戻せば、残る雑魚敵達も皆二、三日中には現実世界から完全消滅して、ゲーム内に戻るようになっとるえ」
「そうなんですか。じゃあ繋げますね」
慶祐は準備が整うと佐桜里が飛び出て来た続きからのデータを選択。佐桜里のいない甘味処内部の画面が映る。
「ほら一反木綿、太陽の塔納言、帰るえ」
「嫌やぁぁぁ~」
「痛いよ舞妓さん様、頬引っ張るなって」
太陽の塔納言と一反木綿は舞妓さんに無理やり引き摺られていく。
「あんたら、もっともっとレベルを上げて、ゲーム上でいつかあてに挑んで来なはれ。京都編で待っとるえ」
舞妓さんは微笑み顔でこう言い残し、太陽の塔納言と一反木綿を掴んだまま画面に入り込んでいく。
「リアル大阪府巡りもなかなか楽しかったわ。リアル太陽の塔とも対面出来て嬉しかったわ。ゲームの中に帰りたくないんやぁぁぁ~」
太陽の塔納言は名残惜しそうに、悲しげな表情にさせた太陽の顔で捨て台詞を吐いた。
テレビもその約三秒後に消滅した。畳に付いた黒インクなどの汚れもきれいに消える。
「あの舞妓さん、めっちゃかわいかったわ~。敵モンスターはまだリアルにおるってことやね。帰りも倒しながら進んで行こうや。まだ四時前やし」
「賛成! あたしもまだまだ戦いたぁーいっ!」
「わたしも同じく」
「俺も、もう少し戦い楽しみたい」
「みんなぁ、タクシーここに呼んでなるべく外出歩かないようにして帰ろう」
「安心してや舞衣様。皆様の今の力なら大阪編の雑魚敵はどれも楽勝やろから。あのう、じつは、敵モンスター、うちがわざと飛び出させてん。皆様にリアルRPGを体験してもらおうと思って。大阪編の敵なら、ごく普通のリアル世界の高校生以下の子ぉでも何とか出来るやろうと見込んでてん。それにうち、リアル大阪も旅したかったし」
佐桜里はえへっと笑って唐突に打ち明けた。
「えっ! 本当なの? 佐桜里ちゃん」
「そうだったのですかっ!」
「佐桜里お姉ちゃんが仕掛けたんだね」
「佐桜里ちゃんもなかなかのエンターテイナーやね」
「おいおい、俺のせいじゃなかったわけか」
他のみんなは当然のように面食らったようだ。
「一昨日の夕方に伝えた時は、じつはまだ敵モンスター飛び出してなかってん。慶祐様があの部屋からおらんなってた時に敵モンスターにお願いして、ぐっすり眠っておられた真夜中にこっそり飛び出させてん」
佐桜里はさらにこんな秘密も打ち明け、てへっと笑う。
「電源切ってたのに、出れたのか?」
慶祐は驚き顔。
「テレビの電源切られてても、ゲーム機が繋がれてあのゲームが中に入ったままやったからね」
「そうか」
「それもまた不思議な仕組みですね」
「佐桜里お姉ちゃんは、敵モンスターとお友達なの?」
「一部はそうやで」
「佐桜里ちゃん、また新しい敵、どんどん飛び出させてや。今度はのちの敵からの援助なくワタシ達だけの力でボス倒したいわ~」
「桃絵、私はもう戦いには絶対参加しないよ」
「舞衣お姉さんは今回もほとんど戦ってへんかったやん」
「痛い思いしたくなかったんだもん。結果的に何度もしちゃったけど。私、おトイレ行ってくる」
先ほどから尿意を感じていた舞衣は、玄関横のトイレに駆け込んだ。
「……えっ! 和式の、ぼっとん!?」
※
結局みんなは帰り、富田林の大阪金剛簾、枚方の菊人形や彦星や河内そうめん、茨木の茨木童子や三島独活型モンスターなど、違うコースを通って新しい敵モンスターとも出遭い、楽しく戦闘をしながらそれぞれのおウチを目指して進んでいったのであった。
☆
みんなが帰宅したのは午後八時半過ぎ。
「リアル大阪土産、ようさん買えてよかったわ。ほな慶祐様、おやすみー。また近いうちに出してや」
「おやすみ佐桜里ちゃん」
慶祐は玄関を抜けると、母に見つからないよう注意して佐桜里を自室へ連れて行き、あのゲームを起動させて佐桜里をゲーム内に戻してあげた。
同じ頃、播本宅では夕食の団欒中。
「大阪府内で多発してる怪奇現象、みんなは遭遇せぇへんかった? 夕方のニュースで特集やってたわよ。今日のお昼過ぎからはだいぶ目撃情報が減ってるみたいだけど」
母のこんな質問に、
「そんなのがあったの?」
「ワタシ全然知らへんよ」
「あたしもーっ」
三姉妹は一応知らないふりをしておいた。
「そっか。母さんも遭遇してないけど、空飛ぶジンベエザメを見たとか、太陽の塔が二つ向かい合ってたって目撃情報もあったみたいよ」
※
翌日の敬老の日、慶祐と三姉妹は旅の疲れを癒すため、一日中家でゴロゴロしてしっかり休養を取った。
千景はその日、午前中は大阪市内のゲーム販売店であのゲームを探し回ったが見つからず、午後から母といっしょに神戸まで遠征して、
「やっと見つけたぁっ! 家帰ったらやりまくるよっ!」
「そんなにはしゃぎ回る千景、久し振りに見たわ」
日も暮れて来た頃に一本だけ投売りされていたのを見つけて購入したのだった。
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