Planning 4 始動

 翌日から攻輔たちはそれぞれに動き回った。

 役割分担は、藤家が戸隠・関谷側の準備を手伝うと同時に二人と打ち合わせを重ねていき、その内容を皆に連絡する。攻輔は式と披露宴の開催・運営に必要な人材と物資を確保。竹井が攻輔と藤家の連携をサポートし、買い出しや情報集め、ときに藤家では対応できない関谷のフォローも行う。そして小鳥遊は、部室で皆を応援するという名目の留守番となった。

「頼もうっ」

 攻輔は生徒会室のドアを勢い良く開けた。室内の生徒、数人が振り返る。一番奥で悠然と椅子に腰掛けていた絢悧が彼を一瞥した。

「何か、ご用ですか?」

 役員の一人が声をかけるのも構わず、攻輔は絢悧の下へ突き進む。側の男子生徒と話をしている彼女に声をかけた。

「獅王葉っ、ちょっといいか?」

「ダメよ。あと五○年待って」

「長っ! 長すぎだろ、それはっ」

「じゃあ、そこに正座して五分待ちなさい」

「…………」

 もう一度文句を言おうとも思ったが、五分くらいなら良いだろうと思い直し、攻輔は床に正座してみた。周りの役員たちが戸惑っている。

「……後はそっちでまとめておいて。二日以内に提出するように」

「はい。わかりました」

 男子生徒が一礼して自分の席に戻った。絢悧は机の上のノートパソコンに視線を移す。マウスを操って何か作業を始めた。

「……あの、獅王葉さん。これは何の罰ゲームですか?」

「まだ五分経ってないわよ」

「……ぬう。ってか、そっちの話が終わったんなら俺の話聞いてくれても良いだろ!?」

 一瞬、納得しそうになった自分が情けない。見上げた先には絢悧の氷河期真っ只中という眼差しがあった。

「いったい何の用かしら? 正座したまま答えなさい」

「ええっと、俺とお前の関係ってどうなってるの?」

「それを聞くことが、ここに来た理由?」

「違うけど、今後のためにもぜひ聞かせてくれ……」

 わざとらしくため息をつき、絢悧は遥かな高みから攻輔を見下ろす。

「そうね。私が神とするならば……」

「いきなり自分、すごい立ち位置ですね」

「あんたは…………」

 そこで珍しく、絢悧が考え込む。そのうち瞳が焦点を失い、顔から血の気が引いていった。そして体が小刻みに震え出す。さすがに攻輔も周りの生徒も彼女の異常に気がついた。

「獅王葉、どうした!?」

「……ごめんなさい。私を神という最高の立場に置いたとしても、若王子、あなたの存在があまりに卑小すぎて譬えられる存在が私の知識の中に存在しないのよっ。本当にごめんなさい!」

 頬を涙が伝い落ちる。両手で顔を覆い、ワッと泣き出した。

「ちょっと待てえええ!」

 飛び上がり、机をバンと叩く。真顔に戻った絢悧が「何?」と顔を上げた。涙など一滴も残っていない。

「お前はどれだけ俺を貶めれば気が済むんだっ?」

「だから言ったでしょう。いくら貶めても貶め足りないのよ。私とあんたの関係は、そのくらいのものね」

「……そうか、よくわかったよ。じゃ、本題に入っていいか?」

「イヤよ」

「何でっ?」

「気分が乗らないわ」

「話を聞けよ、獅王葉あああっ」

 再び、長い長いため息を聞かされる羽目になった。

「喋るだけ喋れば? 私の耳に届くかどうかは別として」

「おうよ。この際、その発言だけでも前進と受け取ろう」

 攻輔は必死に己の心を鎮め、生徒会室に来た理由を話す。

「ここには部活動の資料とか名簿があるだろ。最近一○年間くらいの各部の活動記録と現在の部長の名前にクラスだけでいいから見せてくれっ」

「?」

 パソコン画面を見て別の作業をしていたらしい絢悧の目が、ほんの微かに動いた。マウスを操作していた手が止まる。

「それだけ?」

「ん? ああ、とりあえずは」

「古賀っ」

「はい!」

 絢悧が名前を呼ぶや否や、さっき彼女と話していた男子生徒が立ち上がって駆け寄った。絢悧は何も言わず、攻輔の方を顎で示す。

「わかりました」

 古賀は素早く頭を下げて彼の方を見た。

「こちらです」

「伝わったの!? 今ので伝わっちゃったの? 古賀くん、君、すごいよ」

 攻輔は古賀に促されて棚のある一角に向かう。古賀はファイルが並ぶ棚の前で指を走らせ、一つのファイルを見出した。それを引き出すと、次に別の場所からも一冊、ファイルを取り出す。

「こちらが最近二○年間の我が校部活動の活動記録を収めたファイル。こちらが各部・同好会の部員名簿です。言うまでもないけど、個人情報だから絶対外に洩らさないように」

 最後の台詞だけ、古賀が厳しい顔つきになって言う。攻輔は「わかった」と返事をした。閲覧スペースとでもいうべき机に案内される。絢悧たちのいる区画とは少し離れており、仕切り板で大雑把に仕切ってあった。古賀はそのスペースの出入り口側に置いてあった椅子に座る。身振りで攻輔に奥の机を示した。

「監視つきなわけね」

「はい」

「メモは取っていい?」

「内容はこちらで確認させてもらうよ」

「わかった」

 攻輔は席につき、まず二○年間の活動記録を開いた。最近一○年間くらいで良いと考えていたので、去年の欄から遡るようにして見ていく。

 ……やっぱりな。

 一○年も遡る必要はなかった。五年ほどで調べたいことがはっきりしてくる。歩行橋高校では、現在成績と呼べそうな成績を収めているのは体育会系の部活ばかりだ。文化系の部活動は特に記録に残るような成績を収めていない。しかし、四年前に演劇部が全国のコンクールで賞を獲ったことを初めにして、過去には吹奏楽部や合唱部、映画研究同好会に新聞部まで、全国的な賞を獲っていたことがわかった。

 何となく、見えてきたぞ。そうなると……。

 今度は各部・同好会の名簿を手にする。自分で数えなければならないかと覚悟していたのだが、一番最初の頁に全校生徒の数と各部・同好会の人数が丁寧に記してあった。ただ、これは昨年度のデータである。四月下旬のこの時期では、今年度のデータはまだ纏まっていないのだ。

 それでも、攻輔にとっては充分である。歩行橋高校の生徒は、体育会系の部活動に入っている生徒が三分の一、文化系が三分の一、何も所属していない生徒が三分の一と大まかに分けられるようだ。何も所属していない生徒の中には、学外で何かやっている人もいるのだろうが。

 次に現在の各部・同好会の部長を調べる。これは提出された書類の分だけ最新のものが分かった。新体制になってからの届出は四月末が〆切なので、まだ提出していない部もある。攻輔は片っ端から部長・会長の名前と学年、クラスを書き留めていった。

「うし、こんなもんか」

 作業が終わり、古賀にチェックしてもらう。古賀は攻輔のメモだけでなく、渡したファイルにも目を通した。何か細工をしていないか確認しているのだろう。

「でも、大変だろ? あんなキッツイ奴がトップにふんぞり返ってて」

 何となく手持ち無沙汰になったので、ファイルの頁を捲っている古賀に話しかけてみた。仕切り板の向こうに聞こえないよう小声で。

「そんなことないよ」

 返ってきた返事がとても優等生なものだったので、「またまたあ」と古賀の背中を指でつついた。

「人を顎で使ったりして、本当はムカついてたりしない?」

 囁きながら古賀の顔を覗き込む。ところが彼は不思議そうにこちらを見た。

「それに関しては、むしろ僕たちの方が気になってるんだけど。確かに会長は厳しくて、あの人自身がすごく優秀だから僕たちもついていくのに必死なところはあるよ。だけど、機嫌が悪くなるのは若王子くん、君がいるときだけだ。会長と何かあったの? 君と顔を合わせると、いつも機嫌が悪くなるんだけど」

「うわーお」

 攻輔は頭を抱えた。薄々感じていたことだが、自分はやはり彼女から嫌われているらしい。先日の嘉鳴の件が尾を引いているのかとも思ったが、絢悧からはもっと前から酷い扱いを受けてきた。今に始まったことではない。

「まあ、あれだ。相性が悪い相手っているよね」

「会長は、相性が悪い相手とも上手に接することができる人だと思ってたんだけどなあ」

 古賀がしきりに首を捻っている。絢悧の思わぬカリスマ性を垣間見た気がして、攻輔は驚かされた。

「ところで、チェックは終わった?」

「あ、はい。問題ありません。でも、何をする気なんだい? 確か、新しい部を作ったんだよね。『ブライダル・クラブ』とかいう」

「そうなんだよ。で、ついに一組目の結婚式が行われることになったから、その準備をね。古賀くんも、結婚したくなったら彼女つれていつでも来いよ」

 戸惑う彼の肩をポンポンと叩き、攻輔は仕切られたスペースから出る。ドアに向かう前に絢悧へ声をかけた。

「お疲れー。助かったわ」

「あまり私に手間をかけさせないでね」

 きつい言葉を返される。黙って手を振り、攻輔は生徒会室を後にした。

 ……大同や香月だけじゃない。探せばまだまだ見つかるはずだ。

 部室へ戻る道すがら、攻輔は部長・会長の名前が並ぶメモを見つめて考える。現状、ブライダル・クラブには人も物も金も足りない。一番手っ取り早い打開策は、自分たちの親や小鳥遊に頼んで金を借りることだ。それを資金にしてプロのサービスを頼めば、結婚式の真似事を行うのは難しくないだろう。借りた金は、校長が出すと約束している経費が下りてから返せば良い。

 でも、それじゃ面白くないんだよな。

 その方法では攻輔自身が楽しくない。単にそれが一番の理由だったが、他にも思うところはあった。これからクラブを続けていくに当たり、毎回金を貸してもらえる保証はない。つまり手っ取り早い代わり、継続性に不安があるのだ。借金することになっても、一回限りだと考えておいた方が良い。

 なるべく金をかけずにやり遂げるには、やっぱり人だろ。

 攻輔は指でメモをパチンと弾いた。先日出会った大同、それにクラスメイトの香月の意外な特技(?)を思うに、良い人材を集めた方が将来性がある。料理や会場装飾、BGMに撮影等やらなければならない作業は幾つもあるが、任せられる人をそれぞれ見つけ出して協力を得られれば、金がなくても何とかなるはずだ。

 まずは料理か?

 部室に近づく。不意にドアの向こうから声が上がった。

「圭くんのバカ!」

 ドアを跳ね飛ばすように押し開き、関谷が飛び出してくる。ダッと駆けてきたので思わず避けてしまった。彼女は攻輔のことなど見えていない様子で、廊下を走り去る。

「美緒っ」

 続いて戸隠が出てきた。彼は攻輔に気づき、苦笑いを浮かべて会釈をする。それから関谷を追って走っていった。

「……何だ?」

 その背中を見送り、ひとまず部室に入る。中では藤家が椅子に座って目を閉じ、腕を組んでいた。銅像みたいだな、と変な感想を抱いてしまう。

「あっ、オージ先輩」

 竹井がドアの近くでそわそわしていた。いつもなら「トイレか」と我ながらつまらない冗談を飛ばすところだが、さすがに二人を見送った後ではそんなこと言えない。とりあえず最後の一人、小鳥遊を探すと、彼女は部屋の奥で藤家と同じ格好になっていた。

「何があった?」

 竹井に聞いてみる。彼女は「あの、あの……」と廊下の方を気にしてばかりだ。仕方ないので藤家に尋ねる。

「まあ、何というか、重要といえば重要だが、そうでもないといえばそうでもない、典型的な痴話げんかって奴だよ」

「へええ……。戸隠さんも関谷さんも落ち着いてる雰囲気あったから、ケンカなんてしないもんだと思ってたよ。んで、原因は?」

 藤家がゆっくり目を開いた。片方の眉だけ上げてみせる。

「会場のテーブルクロスをな」

「ああ」

「白にするかピンクにするかでもめたんだ」

「……くだらねえ」

 思わず呟いてしまったが、それには部屋の奥から反論が上がった。

「そんなことはないですよ、若王子くん。とても大切なことです。それに、問題はその後です」

 小鳥遊が唇を尖らせてこちらを見ている。攻輔は藤家を見た。

「関谷さんが、テーブルクロスはピンクが良いって言い出したんだ。それに対して戸隠さんは無難に白にしようよって言って、俺たちはなるべく口を挟まないようにしていたんだけど、戸隠さんに意見を求められたものだから、『会場全体との色の兼ね合いもあります』って返したんだ。サンプルとして幾つか情報誌の写真も見せた。そうしたら、関谷さんが会場全体をピンクにするって言い出して」

「思い切ったねえ」

 攻輔が合いの手を入れると、藤家は首を振る。

「戸隠さんが、それは変だよって言って、俺に同意を求めてきたんだ。『藤家くんもそう思うよね』って。正直、返事に困ったんだが、俺が答える前に関谷さんが『どうしてすぐ人に聞くの。私たちの結婚式なんだよ』って怒り出して」

「そこからは、この前もこんなことがあったとか、あれはどうだったとか関谷さんが戸隠さんを責め始めて、戸隠さんは冷静に言い返してたんですけど、それも良くなかったみたいで……」

 竹井がおろおろと攻輔の制服の袖を掴んだ。

「そう。そうなのよ。戸隠くんも良くないわよね」

 いきなり、小鳥遊が関谷の肩を持つ発言をする。藤家が苦笑し、「で」とドアを指し示した。

「……本当に痴話げんかだな」

「最初にそう言っただろ」

「もっと繊細な女心をわかってあげるべきですっ。先生、関谷さんを擁護しますよ!」

 何故か、小鳥遊まで腹を立てている。藤家がテーブルに肘をついた。

「まずいなあ。こじれたら、最悪、結婚式の話自体がなくなるぞ。実際にも土壇場で取りやめになることってあるんだろ? こっちはクラブ活動だからなあ。いつでも立ち消えになる恐れがある」

「そうですっ。関谷さんも女心がわからない人と結婚すべきじゃありません!」

 一人でブーブー言っている小鳥遊を見やり、攻輔は「何かあったのか?」と尋ねた。藤家は一瞬言葉に詰まったようだが、「俺が知るか」と答える。

「あの、あの、私、様子を見てきた方が良いですか?」

 竹井がドアの前でぷるぷる震えていた。攻輔は手招きし、「座れ」と椅子を差し出す。ちょこんと彼女を落ち着かせたところで、自分も椅子を引いて腰掛けた。

「こればっかりは本人たちに任せるしかないからな。俺たちはできることを、先に進めておこう」

「ああ。それで、そっちの首尾は?」

「おうよ。人材確保の下調べをしてきたんだ」

 攻輔はメモを見せながら自分の考えを説明する。藤家も竹井も頷いた。いつの間にか藤家の隣に来ていた小鳥遊も「みんなで力を合わせましょうね」と笑顔になっている。

 それから他にも幾つか話し合っていると、コンコンと控えめにドアがノックされた。攻輔たちは視線を交わす。竹井がそっと立ち上がってドアの近くに寄った。

「はい」

 攻輔が返事をしたものの、なかなかドアが開かない。竹井に目配せした。彼女がさっとドアを開ける。

「ひゃっ」

「おっ」

 戸隠と関谷が立っていた。攻輔は「お帰りなさい」と椅子を勧める。それでも二人は逡巡していた。もう一度竹井を促そうとしたところで、二人が後ろから背中を押される。よろけながら室内に入った。

「まったく、世話が焼けるわね。こいつらは」

 二人に続いて、バレー部のユニフォームを着た大柄な女子生徒が中に入ってくる。部室をぐるりと見回し、「へー」と感心したような声を上げた。

「どちらさまで?」

 攻輔は立ち上がりながら尋ねる。女子生徒は戸隠と関谷の肩を抱いて「こいつらの親友でーす」と言った。

「いやいや、ゴメンねえ。何か面倒かけちゃって。ほら、あれだよ、マリッジブルーってやつだよ。あ、私、塩原しおばらはずみ。よろしくね」

 塩原は二人を椅子に座らせながら自己紹介をする。竹井が急いで椅子を持ってきて塩原に勧めた。「ありがとー」と笑顔を見せ、彼女もドッカリ椅子に座る。

「もうね、美緒は昔からそう。すぐ拗ねて泣きついてくるの。疲れるわー、練習中だったのに。あ、ちなみに私、バレー部。見ればわかるか」

 そう言ってカラカラと笑った。攻輔は藤家と顔を見合わせる。

「また、しょうもないことでケンカしたんだってね。『結婚するのー』ってウザイくらい甘ったるい声で報告してきたくせに、すぐ拗ねて。ダメでしょ、美緒」

「……ごめんなさい」

 関谷は小さな声で謝った。

「戸隠くんもさあ、もうちょっとしっかりしようよ。不安があるのもわかるけど」

「……ごめん」

 戸隠も小さくなって謝る。

「えっ? 圭くん、不安だったの? どうして?」

 関谷が心配そうな顔になって戸隠を見た。彼は「その……」と言葉を濁したが、関谷がじっと見つめているので、とうとう口を開く。

「僕も、初めてだから、わからないことだらけで。美緒が不安そうにしてたから、よけい自分がしっかりしないとと思って。そうしたら益々プレッシャーが……」

「そんな。……私、そんなつもりじゃなかったのに。ごめん、ごめんね圭くん」

「ううん。僕が悪いんだよ。塩原さんの言う通り、もっとしっかりしないといけなかったんだ」

「圭くん」

 関谷が戸隠の手を握る。

「美緒」

 二人は指を絡め合わせ、しっかりと握った。熱っぽい目で見つめ合う。

「はいはーい! そこまでだよ、お二人さーん」

 塩原が叫んだ。ビクッと体を震わせ、二人が左右を見る。攻輔たちと目が合って、たちまち真っ赤になった。

「ああ、その、失礼しました」

 戸隠がテーブルを見つめて言う。関谷は完全に俯いていた。ただし、二人とも互いの手を離そうとはしない。

「この二人、いっつもこんな感じなのよ。もう気にしないで。放っといても二、三日すれば元通りなんだけど、今回はあまり時間ないんでしょ? ついつい私もお節介よ。本当、疲れるわー。あ、練習戻らないと」

 椅子をギイと鳴らして塩原が立ち上がった。

「それじゃ、しっかりね。私も楽しみにしてるんだから、結婚式に出るの」

 そう言って部屋を出ていく。攻輔は「後は任せた」と藤家に囁いて席を立った。塩原の後を追う。

「塩原さんっ」

 廊下で彼女を呼び止めると、「んー?」とゆっくり振り向いた。こうして目の前に立つと、攻輔より背が高いことがわかる。

「お手間を取らせてすみませんでした。俺、ブライダル・クラブ代表の若王子です」

「ああ、君がそう。美緒から名前は聞いてるよ。隣の彼がそうかと思ってた。ゴメンゴメン」

 カラカラと笑った。攻輔は会釈をし、「少しお時間いただけませんか」と告げる。

「うーん。まあ、いいか。どうせ練習もすぐ終わるし」

「そういえば、三年生ですよね。まだ部活を」

「うん。私、主戦力だからインターハイまではね。今年のメンバーで予選突破できるか厳しいところなんだけど。で、何?」

「はい。関谷さんと戸隠さんの結婚式についてなんですけど、お二人からどのように伺ってますか?」

「ああ、そうよっ。私も聞きたかったの、それ」

 塩原が指を鳴らし、攻輔を指した。

「一年のときの教室で、ホームパーティーみたいな感じで簡単にやるんでしょ。私たちも話してたんだけど、友人のスピーチとかやったりしないの? 美緒、全然言ってこないし、どうなるんだろうってちょっと心配だったんだ」

「……なるほど。そういう状況ですか」

 藤家が伝え忘れているということはないだろう。今日の二人の様子を見て、もしやと思ったのだが、確認して良かった。

「あのさ。考えたんだけど、この際、私に直接進捗状況を教えてくれない? 手伝えることがあれば手伝うし。あの二人って真面目だし落ち着いてるように見えるんだけど、けっこう頼りないのよね」

 塩原が声を潜めて言う。

「それがいいですね。えっと、携帯は、今はないですよね」

「明日、そっちに行くわ。そのときに色々聞かせて」

「わかりました」

 攻輔は塩原と約束を取りつけて別れた。

「白に決まったよ」

 部室に戻ると件の二人はすでに帰っており、藤家がそう報告してくれた。

「先生は、ピンクでも良かったと思いますよ」

 そして、小鳥遊はまたむくれていた。

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