第49話 雅楽先輩との秘密
先輩との連絡方法が確認できた私は、満足して自分のクラスに戻った。正直意気込みすぎたというか、テスト最中に殴り込みかけなければよかった……と後悔しないでもないが、やっぱりこちらへ無理やり返された雅楽先輩のことも気になったし、かといって部活開始まで待つには気になりすぎたので、致し方なかったと自分を納得させる。うーん、でもやっぱりやりすぎたな。
そんなことを考えていたせいなのか、はたまた準備が不完全だったせいなのか、得意だった世界史Bのテストは妙に苦戦した。心を入れ替えて最後の数Ⅰはきちんとする。赤点を取っている場合ではないのだ。
「のんちゃ~ん、テストどうだったぁ~?」
「うーん、微妙。すっごく微妙。赤は取らないまでも、手ごたえが……うー。晴夏はどうだった?」
「え? あたし? 全滅……まではいかなくても、結構やばーい」
「ヤバいわりに軽いな!」
どうにかこうにかテストの初日を掻い潜った私は、昇降口で会った晴夏とテストについて語り合う。
「ところで……のんちゃん」
「はい」
「テストは置いといて……言いたいこと、わかる?」
ぽん、と両肩に手を置かれた私は、晴夏をまっすぐ見た。目の前で美少女が完璧な笑顔を浮かべているけれど、ちっともドキドキしない。むしろ蛇に睨まれた蛙だ。
「まぁ……だいたいは」
晴夏が問いただしたいのは、私が行方不明だったその間のことだろう。朝は無事を確認されただけだったのだから、次に来るのが状況確認なのはわかりきったことだった。
「なにがあったわけ?」
「なにが……なにも。その……よくわからなくて」
言えない。友人相手にしても、あの体験は言えない。言うにしても、雅楽先輩と意見のすり合わせをしてからでないと、言えない!
なにしろ、私はオマケだ。向こうの世界の話をどれだけ周りにしていいのか、判断に困る。いや、先輩は以前から私相手にだいぶ語ってくれてはいたのだが、当事者である雅楽先輩と、先輩の添え物だった私では、条件が違うかもしれないではないか。守秘情報についていろいろ確認してからでないと、人には話せない。
……まぁ、正直
「なんか……自分でも整理しきれてなくて。いや、なにもなかったんだよ? 悪い人に攫われた~とか、そういうのは」
若干嘘かもしれないが、厳密には私は誘拐されてはいないだろう。私が遭ったのは、言わば不幸な事故だ。鬼畜女神が攫ったのは、私でなく雅楽先輩なのだから。
「ねぇ……金曜、のんちゃん、うーたん先輩と帰ったよね?」
誤魔化そうとする私を、少し茶色がかった晴夏の瞳が覗き込んでくる。腰が引けかけたが、肩を抑えられていては逃げられない。
「そう……だったね」
「先輩と、なにかあった?」
そう言われて、私は思い返してはいけないことを思い返してしまった。例えばノーカン扱いにしたハプニングとか。例えば帰り際のハグとか。
「なっ……」
言葉に詰まった私は、なにより能弁だったのだろう。晴夏はその整った美貌をにや~っと歪ませた。
「な~るほど。なるほどねぇ。うんうん、そうか。だそうよ? せんちゃん、あおちゃん」
「のの……あんたねぇ」
「ののちゃん、話は聞かせてもらったわ!」
晴夏一人も珍しいなと思っていたら、柱の陰から碧と素子も現れた。
「のんちゃん……ひどいっ!」
「ごめ……」
黙っていたことを謝罪しようとした私だったが、私の友人は一味違った。
「あたしたちに黙って大人の階段上っちゃうなんて!」
「……はい?」
「そうだよ。付き合うことになったとしても、テスト前に外泊とは感心しないな!」
「……え?」
「ののちゃん……。うん、雅楽先輩、締め上げようかな、あたし」
「……待って?」
なにかひどく誤解を受けたようだ。
「うーたん先輩、結構狙ってたのに!」
「待て晴夏、いくら顔が良くても先輩は変人だ。晴夏じゃ荷が重い。平然と
「そうよ、雅楽先輩、あんなに女子には関心ありません~って顔して、なにしてんだか! ケダモノよ!」
「待って、違う! 先輩関係な……ない? なくもない??」
「「「やっぱり!」」」
……誤解を解こうとしたけれど、迎えに来たちぃ兄が現れてしまったため、そのままになってしまった。
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