第43話 雅楽先輩率いる帰還の扉探索隊
残りのお菓子は、作るのを手伝ってくれたアウィラ兄妹と厨房の人たちに託した。私が帰った後、皆で食べてもらうように頼んである。私が一緒に食べないのはあれだ、例のタイムアタックのせいである。
そう、これから私は、元の世界へ帰るために、王宮中の扉のどこかに隠されている“帰還の扉”というものを探さなければいけないらしい。人が通れるサイズの扉ならどの扉でも該当するため、その探索範囲は気が遠くなるほど広い。鬼畜女神、鬼畜の名にふさわしい所業である。絶対帰す気ないだろ、これ。
一応その扉というものは、十人までなら誰がチャレンジしてもいいらしい。何故十人なのか、うっかり十一人目が参加したらどうなるのか、非常に気になるところだが、雅楽先輩は特に気にならなかったらしい。訊けば、最初は一人でやれと言われて、半泣きでチャレンジしたそうな。で、次に召喚されたときに泣きついて、協力者を九人参加させてもいいと許してもらったのだという。──うん、
まぁ、そんな状態だったから、先輩は喜びはすれ、疑問には思わなかったらしい。頭がいいと聞いていたし、実際定期テストの結果は職員室前に張り出される上位陣の中にいるというのに、先輩はどこか抜けている。疑問に思おうよ、そこ。依頼を請けて異世界で頑張ってるんだから、雇用条件改善してもらおうよ。
心底そう思った私は、雅楽先輩に条件改善を訴えるよう促した。
「先輩……絶対、次は帰還条件を改善してもらった方がいいと思います」
「そうだね」
「一つだけに絞ってもらうのが無理なら、人数増やして人海戦術で行けるようにするか、その扉だけ色を変えてわかりやすくするか、もうちょっと労力を削れるようにした方がいいです」
「たしかにね」
私の提案に雅楽先輩は頷くけれど、ちゃんと帰ってくるだろうか、この人。なんとなく不安になった私は、釘を刺すことにした。
「先輩があんまりにも帰ってこなかったら、私、先輩の実家の神社に行って、天津香香比売様に訴えに行きますから。だから、ちゃんと戻ってくるんですよ?」
「一日も早く戻れるよう頑張ります」
一応確約めいた約束を得た私は、足元に置いた自分の荷物を手に取った。これを持っていないと、私だけ帰ることになってしまう。
「そろそろですかね」
私の発言に雅楽先輩が窓の外を見る。オレンジの夕陽が綺麗だ。もうそろそろ沈みそう。
ちなみに、このゲームの開始は太陽が沈んだ瞬間から。一刻──およそ一時間につき一日の遅れが加算されるらしい。恐ろしいタイムアタックだ。今回帰らない雅楽先輩はどうなるんだろう。対象期間は次の朝日が昇るまでらしいので、大体十二時間、つまりは十二日の行方不明は確定だ。それを越した後の時間換算がどうなるのか、ものすごく怖い。これは、帰ったら鬼畜女神のお社に殴り込みをかけなければいけないかもしれない。
「それじゃ、うーたん先輩、アウィラ、センウィック、ラクィセル、アクィナ、ドウィザさん、ジュウィムさん、ホークィッドさん、トクィラさん、お願いします!」
わたしを助けてくれる九人の選抜隊は、雅楽先輩を先頭に、いつもお世話になっているメンバー、プラス足の速いメンバーで構成されていた。ドウィザさんは豹の獣人、ジュウィムさんはジャッカルの獣人、ホークィッドさんとトクィラさんはウサギの半獣人だ。ウサギの半獣人とか、可愛らしすぎてときめくと思うでしょう? 残念、片方は眼光鋭いおじさん、片方はシックスパックに割れた腹筋を見せつけてるムキムキなお兄さんだった。誰得。
けれども、私には残念がっている時間はなかった。タイムアタックが始まってしまえば、一分一秒も惜しい。そして、その開始はすぐそこに迫っていたのだ。
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