第28話 雅楽先輩から魔力をもらおう!

 雅楽先輩から魔法を見せてもらって興奮した私は、反面その力がすごく羨ましくなってしまった。

 なにしろ魔法だ。一度使ってみたいと思うのは仕方ないと言える。この気持ち、ファンタジー好きならわかってもらえないだろうか。

 しかし、残念極まりないことに、モブな私は魔法が使えない。レシカの花によって、魔力ゼロなことが証明されてしまった直後である。悔しいが、今見たような素敵な魔法は私にはできない。

 この世界にやってきたときも私は先輩のチートを羨ましく思ったことがあった。そう、言語能力である。

 当初、この世界の言葉がわからなかった私が、今みたいにこの世界の人たちと話せるようになったのは──ひとえに先輩から力を分けてもらったせいだった。分けてもらったというか、事故というか。まぁ、分けてもらったと評するのが妥当だと思う。

 まぁ、そんな風にぐだぐだ言ってはみたが、要はこのとき私の脳裏に浮かんだのは、魔力も先輩から分けてもらえないかということだった。


「先輩!」

「! えっ、なに!?」


 突然がしっと両手をつかまれた先輩は、目に見えて狼狽えた。だが、ここで逃すわけにはいかない。言語能力をもらったときは口だった。魔法だったら手だろうか。

 先輩の手は、見た目よりもゴツかった。私の手はピアノで一オクターブ届かないくらい小さいけれど、先輩なら届きそうだと思うくらい大きい。男の人の手をつかんだことがないので他の人と比較はできないのだが、とにかく私の手よりよっぽど大きいし、なんだか硬かった。掌にマメがあるようだ。指先も硬い。


「な、なに? のほほん、どうしたの」

「うーたん先輩、私考えたんです」

「う、うん」


 先輩に魔力を分けてもらえるようお願いしようと、私は雅楽先輩の目を見た。私に見られたのがわかったのか、先輩も見返してくる。

 雅楽先輩は全体的に色素が薄い。目の色も、日本人には珍しい色だ。べっこう飴みたいな綺麗な澄んだ色に、なんだか甘いものが食べたくなる。レシカの花の匂いがあたりにしてるせいもあるかもしれない。


「……先輩の目っておいしそうですね」

「うぇっ!?」


 つい口を滑らせると、先輩が少し仰け反った。怖がらなくても食べたりしない。


「いえ、単にべっこう飴みたいだなーって思っただけです。他意はないです」

「そ、そうなんだ……」


 胡乱な発言をした後輩に、先輩は引き攣った笑みを浮かべる。本当によく笑うようになったな、この人。


「ああ、そうじゃなくてですね。あの、私……こうやって手を繋いでいれば、先輩の魔力が少しもらえたりしないかなーって思ったんです。言語能力みたいに」

「言語……え、アレみたいにってこと?」


 そういった瞬間、先輩の顔が真っ赤になった。色白なので色が変わったのがよくわかる。


「先輩、照れないでください。私も照れちゃいます」

「えっ、いや……その、うん、ごめん……」


 耳まで真っ赤にしながら、雅楽先輩はもごもごと呻いた。言語能力を分けてもらったときのアクシデントは、私も思い出したくない。あれはノーカン。呪文のようにそう唱える。


「なので、手をですね、繋ぎたいんですよ」

「繋ぐ前に言ってよ。心臓がもたないよ」

「そういえばそうですね。びっくりさせてすみません」


 私が謝罪すると、雅楽先輩はその飴色の瞳で、私につかまれた手を見た。そして口を開く。


「これは……あの、いつまでこうしてれば?」

「もうできるようになりましたかね? 先輩、魔法ってどう使ってます?」


 雅楽先輩は特に呪文らしいものを唱えてはいなかった。私が使い方を尋ねると、先輩は出したいものをイメージするだけだと言う。ということは、さっきの可愛らしい花火は先輩がそうしたいとイメージしたのか。リボンとか、よく思いついたなと思う。


「じゃあ、試してみます」


 手を放すと、雅楽先輩はちらりと私を見た後、自由になった掌に視線を走らせた。そんなに嫌だったのだろうか。後輩として多少は仲が良かったと思っていたので、少しびっくりだ。嫌われてはいないと信じたいが、どうだろう。


「あ、嫌でした? ごめんなさい」

「いっ、いや! そんなことはないよ! ホントに! うん、びっくりはしたけど、嫌じゃなかった……って、僕はなにを言ってるんだ」

「混乱してるのは伝わってきますね」

「冷静に観察しないで……」


 片手で顔を覆った雅楽先輩を放置して、私は少しワクワクしながら自分の掌を見た。言語能力のように移っているといいのだが。

 それにしても、記念すべき初めての魔法はなにがいいだろうか。わかりやすいのがいい。火や雷は危なそうだから、水とか? 虹なんか出せたら綺麗そうだ。

 私は虹がかかった噴水をイメージしてみた。きらきらと綺麗なやつが出るといい。そう思いながら、片腕を挙げて宣言する。


「じゃあ、いっきま~す!」


 いざ、尋常に、勝負!

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