第24話 雅楽先輩のいぬ間に…

 雅楽先輩と別れた後、私はふらふらとお城の中を歩こうとし……、これまた呆れたことに迷子になりかけた。

 迷子、迷子だ。高校一年生になって迷子。

 恥ずかしいが、右も左もわからない異世界なので、容赦していただきたい。

 困った私だが、こういう時に限って誰とも出会わない。そういえば、こちらの人は朝が弱いと言っていたか。それにしても、私は朝食を終えた後、片付けの上、農作業までしたのだ。もういい加減いい時間だろう。

 ずらっと一列に並ぶ同じ扉に、気が遠くなる。どこを行けばいいのかというのもあったが、帰る際にこの大量の扉を開けて行かなければいけないのかと思ったのが一番の理由だ。恐ろしい。この量をタイムアタックでって、どれだけ鬼畜なのか、あの女神は。帰す気がないのか。


 扉を見るのが嫌になった私は、とりあえず外に行こうと思い立った。天気もいいし、散歩をしていたら誰かしらに会うかもしれない。

 外に出るためにふらふらし始めると、いくらもしないうちに外へ続くガラス戸を見つけた。こういうときの運はいいようだ。

 鍵は日本のものと大して変わらなかったので、少しいじると簡単に外れる。有り難く私は外に出ることにした。

 出た先は中庭なのだろうか。綺麗に整えられた樹々の間を抜けると、すこんと開けたところに出る。気持ちがいい高さに駆られた芝生をさくさくと踏み分けて行くと、なんと小川が流れているところに出た。澄んだ水に思わずテンションが上がって手を差し入れると、すごく冷たい。


「……誰?」


 パシャパシャと水と戯れていると、どこからか誰何の声がした。顔を上げたが、誰もいない。


「?」


 きょろきょろとあたりを見回しても、誰もいない。少し怖くなって立ち上がったところ、来た方向とは逆、小川の皿に向こう側の茂みが揺れた。一瞬動物かと思ったが、濃い緑の隙間から揺れる銀色に、声の主がそこに潜んでいるのだと知れる。


「そこにいるの? 誰?」

「……否」

「いや、いるよね?」

「…………」


 少し強めの語気で訊くと、恐る恐るといった様子で小さな人影が出てきた。


「うわぁ……綺麗」


 現れたのは天使のような容貌を持った子どもだった。褐色の肌に銀色の髪。そしてピンと尖った耳。ダークエルフのようなその容貌は、先輩から聞いていたこの世界の種族の中に当てはまらなかった。エルフがいるなんて聞いていない。


「あなた、誰? あ、私はのの・・っていうの。昨日、うーたん……リト先輩と一緒にこっちにきました」

「……去」

「いや、いね、じゃなくて。ちょっとね、お話しませんか?」


 獣人と違う異世界人に、私は俄然テンションが上がった。だが、私のテンションと同じ比率で、ダークエルフの警戒心も上がっていく。ダークエルフは顔を見せてくれたのは一瞬だけで、再び叢に隠れてしまう。

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