死者の帰還

義貞が目を覚ましたのは、古びた一室であった。

「兄上!気がつかれましたか!?」

枕元には義助が座っている。

「本当に良かったです!兄上が死人に襲われた時にはどうなるかと……」

顔をほころばせる義助を横目に、義貞は辺りに視線を巡らせ、小さく呟く。

「……義顕は……義顕は、どこだ……?」

途端、義助は顔を曇らせ、首を横に振る。

「義顕様は、死人に首を噛まれてしまい……それでもお助けしようと致しましたが、義顕様が、私より父上をお助けしてくれと死人の群れに……」

「そうか……」

義貞は力無く溜息を吐き、目元を手で押さえる。

「私は、あやつを守れなかったのだな……」

「…………」

ただただ、雨が廃寺の瓦を叩く音だけが響く。

――その時だった。

雨音に混じり、甲冑が擦れ合うような音が近づいてきた。

「……敵でしょうか?」

「私が見てくる」

「何を仰せになるんですか兄上!ただでさえ危険ですのに手負いではないですか!」

「大丈夫だ。傷は痛んではいない。それに今宵はいつも以上に夜目が利く」

そう言うと、義貞は太刀を手に音の方へ向かった。

障子の向こう側、稲光に照らされて人影が映っている。

「何者だ」

返ってきたのは、ひどく掠れた、しかし聞き覚えのある声であった。

「もし……父上……」

「……!!義顕!?」

「え、ちょっ!兄上!?」

障子を開けようとする義貞を、背後から義助が羽交い締めにする。

「何をする義助!!」

「義顕様は死人に襲われて亡くなったはずです!義顕様が生きてここまで来られるなど有り得る訳――」

「化物であろうと何でもいい!ただ、こやつが義顕かどうか確かめずにいられるか!!」

義貞が義助の腕を振り払い、障子を開ける。

そこには――確かに、義顕がいた。

――ただし、面影こそ残っているものの、肌が酷く青白く体中の血管がくっきりと浮かび上がった異様な様相で、体中の傷の周りの血管が醜く浮き出し、そこから黒ずんだ血液をだくだくと滴らせた、異様な姿で。

「義顕……」

義貞も歴戦の将、義顕の傷が致命的であり、生還するなど有り得ないと既に理解していた。

それでも彼は、死した息子の冷たい体を優しく抱き寄せた。

「よう帰った……よう帰って来た、義顕……」

「父上……」

まだ人間としての自我は残っているのか、義顕は無防備な義貞を食らおうとはせず、彼の胸に身を委ねた。

「おい誰か酒を用意せよ!……この雨の中寒かったであろう。さ、中に入れ」

親子仲睦まじく部屋へ入るのを、義助はどこか浮かない様子で見送った。

……再会の酒宴が終わった後、義助は、義貞の包帯を替えようと、血が滲んだ包帯を外す。

彼の痛々しい傷に触れて、義助は何かを確信した。

義貞の傷からはくっきりと浮き出た血管が張り巡らされており、その傷の周りは酷く冷たく酷く青白かった。

それは正に、義顕と同じように……。

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