第23話IK-GA84187-7(中編)
公園もグルリと一回りした二人は、入口近くにある野外のイベント会場の前を通りかかる。平日のためか特に催し物などはやっていなかったが、そのかわりにステージに備え付けられている大型モニターで何かを放映しているみたいだ。
――バナン、バナン、バナン、バナン、バーナーン。
なんとなくキャッチーなテーマソングが流れている。ちょうど何かが始まるところなのだろうか?
ステージの前にはステージを起点にして扇型に、階段状の椅子が並んでいた。よく見るとステージの真ん前辺りの椅子は小さな子供たちが占拠している。おそろいの服を着て、おそろいの帽子をかぶった小さな子供たち。遠足かもしれない。
そんな事を考えながら通りすぎようとしていたら、服の裾がクッと引っ張られる。振り向くとミルが立ち止まって大型モニターの方を眺めていた。今のは引っ張ったわけじゃなくて、ミルが立ち止まったから引っ張られた感じがしたらしい。
シュウトの視線に気づいたミルが振り向く。そして服の裾をもう二回ほどクイックイッっと引っ張った。
…………。
――え゛?これみるの?
絵的にどう見ても子供向けのアニメだ。しかも子供たちがたくさんいる中で一緒に観るのか?なんだろう……ちょっと恥ずかしいかもしれない。……でも待てよ。子供たちが居ないのに二人だけでこれを観てたらもっと変だから、今のほうが見やすいのか。
シュウトはちょっと考えた結果「じゃあ見よっか」と言って、扇状の席の後ろのはじっこの方に腰をかけた。シュウト的に妥協できるギリギリのラインだ。ミルは特に文句も言わず、その横に腰を掛ける。自分たちに気がついた何人かの子供たちがこっちをちらちらと見ながらキャッキャと何かを話していたが、特に気にしないことにした。
モニターでは、オープニングの曲が終わったのか物語が始まる。
――宇宙紳士バーナン!
――わーん!
――どうしたんだいアリ夫君。
――バーナーン!おなかがすいたよー!
――じゃあワタシの頭のさきっちょをあげよう!
バーナンは左手で自分の頭のヘタの部分をわしっと掴むと、自分の胴体の半分くらいまでムリムリっと皮をむいた。そして頭の頂点の部分を小さくブリっとむしり取るとアリ夫君にそれを差し出した。
――はいっ。アリ夫君。お母さんによろしく伝えておいてくれよ。
――ありがとうバーナン!
丸メガネにピンと立ったおひげを生やしたダンディーなバナナのキャラクターが主人公か。
それにしてもなんだろう。昔どこかで見たことがあるような内容だ。
すると次は若くてキレイな女性が登場した。
――バーナン!ワタシもお腹が空いてしまったの。
――まったく仕方のない子だ。はい。これをお食べよ。
バーナンは先程より大きめに身の部分をブリっとむしり取るとその女性に渡した。
――お返しはいつでもいいからね。ヒマな時に私の家によりなさい。
――ありがとうバーナン!
大人にはお礼を要求するらしい。現実的なヒーローだ。
お次は中年のおじさんだ。
――バーナン!オレもお腹が空いてしまった。助けてくれないか。
――この下郎が!
するとバーナンは右手で男の顔面を思いっきり殴りつけた。男が吹っ飛ぶ。
――男は自分の食い扶持は自分で稼ぐのものだ!甘ったれるな!
――……ありがとうバーナン。オレ……頑張るよ!
どうやらこのヒーローは一般市民への鉄拳制裁も行うらしい。
するとそこに悪役らしいキャラクターが登場した。
――ウキーキッキッキッキ!バーナン!また出会ったウキな!
――おさる男爵!
――今日も街のみんなにいたずらをするウキよ!ウキーーーーー!
おさる男爵はものすごい速さで動きまわり、年頃の女性のスカートをどんどんめくっていく。
――キャァァァーーーーー!
街中に黄色い声が響き渡る。
――ウキーキッキッキッキ!どうだウキ!みんな困ってるウキ!
バーナンはおさる男爵がその行為をやめるまで待ち、その後で声をかけた。
――おさる男爵!なんて卑劣なことを!
――ウキーキッキッキッキ!バーナン!おまえもこうしてくれるわ!
おさる男爵はいっきにバーナンの懐まで飛び込むと、バーナンの身の部分をブリリっとごっそり持って行った。そしてむしゃむしゃと食べる。
――あぁー。……なかみがへって力がでなぁい。
バーナンはへたり込んでしまった。そこに先ほどの若い女性が駆け寄ってバーナンを抱きしめる。
――バーナン!負けないで!
――もっと……もっと強く抱きしめるんだ!
――バーナン!
――もっと……もっとだぁー!
――バーナァーーーーン!
するとバーナンの身の部分がもりもりっと生えてきて登場した時よりも大きくなる。
――大きさ三倍!バーナーン!
そしておさる男爵に突っ込んでいき首をムチの様に横に振ったかとかと思うと。
――バーナーンチ!
頭でおさる男爵を弾き飛ばした。
――おさるさるさぁーーー……。
おさる男爵は捨て台詞の様な事を叫ぶと、遥か彼方に飛んでいきキランッと星になった。
美女たちに囲まれたバーナンがハッハッハッハッと笑ってエンドロールが流れる。
――なんだかシュールな子供向け番組だったな……。
ただミルの方を振り向くと、それなりに満足そうな顔をしていたのでやっぱり観て良かったと思うシュウトだった。
アニメが終わるともう時間は昼過ぎになっていたので、二人はバナナ園の思惑通りレストランへと向かった。レストランに入った二人はウエイターに案内され窓際の席につく。
今日はちゃんと正面に座ってくれた。ちょっとした進歩かもしれない。
レストランのテーブルと椅子は木製で、装飾品は自然のものを利用したリースや手作りっぽい陶器など。観葉植物も多め。なんとなくオリエンタルな南国風?な感じだ。
二人はメニューを見ると『バナナ満喫セット』を注文する。せっかくだから満喫しようではないか。
待つこと十分弱。料理が届いた。
一つはパンの乗った小さい小皿。丸っこいバターロールみたいなパンがのっかっている。そしてメインのお皿。皿の奥側にはレタスやトマトなどのサラダ。手前側にはぶつ切りのゴロッとしたフライドポテト。そして中央にはまるまる焼かれたバナナにチリソースのようなものがかかっている。あとはガラスのグラスに入ったバナナジュースだ。
ウエイターさんは料理を置き終わると「これをどうぞ」と二人にそれぞれ紙を一枚づつ渡す。そして下がっていった。
紙には何やらいろいろ書かれている。まずはパン。どうやらバナナ粉から作ったパンらしい。ほのかなあまみが特徴だとか。ふむふむ。
次に添え物のフライドポテト。バナナだった。フライドバナナか。でもフライドバナナ用のバナナだとか。面白そうだな。
最後にセンターに陣取る見たまんまのバナナ。普通に考えたらバナナにチリソースってどうなんだ?って気はしてしまうが……もちろんメインディッシュ用のバナナらしい。……まぁ食べてみれば分かるか。
シュウトはミルに目配せをすると、「じゃあ食べようか。いただきます」と両手を合わせた。
――とりあえずパンか。一番無難そうなものから手を付ける。ちぎってそのままパクッ。むぐむぐと噛むと説明どおりほのかな甘さが口の中に広がる。そして鼻から息を通すとバナナの風味がほあっと香った。うん。これはありかな。好きな味だ。
次に手をつけたのはフライドポ……バナナ。フォークで刺して、横に添えてあるトマトケチャップを付ける。この見た目はやはりフライドポテトだ。パクっと口に放り込む。ンムンム。……あれ?これには少し驚いた。バナナといえばあの甘味だが、このフライドバナナには甘みはほとんどない。しかもバナナ特有のねっとりとした感じも弱く、どちらかと言えばホクホクとしている。おぉ。ちゃんとフライドポテトのポジションをこなしている!バナナをちょっと見なおしてしまった。
この感じだとメインのバナナも期待できるかもしれない。
シュウトはまずサラダで口の中をリフレッシュさせてからメインディッシュと対面した。問題はコイツだ。バナナとチリソース……。ちょっと頭のなかで試食をしてみたが美味しい気はしなかった。でもフライドバナナの感じからすると、こいつも間違いなく何かある。心してかかろう。
シュウトは右手に持っていたフォークを左手に持ち替え、右手でナイフを掴む。そしてバナナの左端にフォークを刺すと、フォークを入れた。フォークを真下に下げようとしたが思うように下がらない。このバナナ弾力があるみたいだ。フォークを前後させ下に下げる。すると……肉汁!……いや果汁がじゅわっと溢れ出してきた。オォ……。口の中によだれがじわりと染み出してくる。フォークを顔に近づけ香りを嗅ぐと、ほのかに甘い香りが。たまらず口の中に放り込む。ギュム……むぐむぐ……。ん!なんだこれは!食感は肉と豆腐の中間のような感じだ。噛めば噛むほどじゅわじゅわ果汁が染み出してくる。果汁は甘みよりもコクが強い感じだ。油分が多いのかもしれない。それにチリソースの酸味と刻みタマネギのシャキシャキ感が加わると、もう完全にメインを張れる一品だった。
そこでシュウトはミルの方を確認する。美味しそうにモグモグやっているようだ。
それにしても……バナナの底力……恐るべし……。
二人はいい意味で衝撃的なお昼ごはんを食べ終わると、しばらくまったりした後で店を出た。そしてお土産品のコーナーをのぞく。お店はそれなりに広く、食べ物や小物以外にも食器やグッズ商品なども並んでいた。
二人がぶらぶら歩いているとお店の店員と思われるメガネを掛けたおじさんが話しかけてきた。平日だからヒマなのかもしれない。
「何かお探しですか?」
お土産屋さんに探しものもないと思うが、シュウトはとりあえず話を続けてみた。
「そういえばこのキャラクターってこのバナナ園のキャラクターなんですか?」
と、確かバーナンとかいってたキャラクターのグッズを指差して聞いてみる。
するとおじさんは意外そうな声で応じた。
「いえ。この星ではお馴染みのキャラクターですよ。もしかして他の惑星から来られたのですか?」
「あっ、はい。実は今旅をしていまして。なにかいいものはないかなと」
するとおじさんは指先でメガネをクイッと持ち上げると、
「それでしたらやはりバーナングッズがおすすめですね。十年くらい前に登場したキャラクターなんですけどね。実はこのキャラクター、近隣の惑星系でも結構人気があるんですよ。そのお陰でこの星も非常に景気がよくなりましてね。そのおかげで街の雰囲気も良くなって今は空前のベビーブームなんですよ」」
そうなのか。言われてみるとゆるキャラだ。それにしても景気までよくなり今はベビーブームか。バーナンって結構スゴいのかもしれない。
「これなんかどうですか?バーナンマグカップ。普段から使えますし、なかなかおしゃれだと思いませんか?」
おじさんはマグカップを指差す。どうやら取っ手の部分がバーナンみたいだ。確かにちょっとおしゃれかもしれない。
シュウトはマグカップを手に取ると、ミルの方を見て「どう?」と聞いてみた。するとミルはそのマグカップを手に取るとじっと見つめた後にシュウトの方を振り向いてコクリとうなずいた。なんだか口元が満足そうだ。
シュウトは足元に積んであったカゴを一つだけ取ると、コップを二つ中に入れる。おじさんも満足そうだ。
そしてちょっと店内を見渡すと、ある物が目に留まる。
「あれって抱きまくらですか?」
「おっと。忘れておりました。実はこの抱きまくら。一番売れているバーナングッズなんですよ。どちらかと言えばこの抱きまくらが売りだされてからバーナンの人気に火が付いた感じですね」
へぇー。いっけん普通の抱きまくらに見えるけど、そんなに売れていたのか。
シュウトがこの抱きまくらに目をつけたのには理由がある。正確には抱きまくらならなんでもよかったのだが。
理由は……シュウトは寝る時にいまだにミルのフーフーに悩まされてるのだ。慣れてきてはいるものの理性を保つのには結構な労力がかかる。もしミルがこの抱きまくらを抱いて寝てくれれば、きっと自分は健やかな睡眠を取れるに違いない!そう思っての抱きまくらである。
シュウトはミルに聞いてみる。
「この抱きまくらどうかな?これがあったら安心して眠れると思うけど」
お互いにね!ミルはビニールの外袋に入ったままのバーナンを両手で取ると、ボフボフと押してみる。そして感触を確かめると次はバーナンをギュッと抱きしめていた。
シュウトが「どう?」と聞いてみる。ミルはこちらを振り向くとコクリとうなずいた。
――よしっ!
シュウトは思わず右手で小さくガッツポーズを取ってしまう。カゴは左手に持っててよかった。
その後お菓子などのお土産を数点カゴに入れた二人はお会計を済ませると宇宙船に戻った。
そして、その日の夜……事件は起こってしまう。
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