第22話IK-GA84187-7(前編)
宇宙暦1億2016年4月23日。
宇宙船コメットは三日前から現在惑星アナナブの宇宙港に停泊している。
恒星IK-GA84187の第7惑星IK-GA84187-7
通称:アナナブ
大きさ:1.1倍/地球
公転周期:1021.8日
自転周期:104時間
人口:4億7000万人
所持金:約620万コスク(配達完了報酬も含める)
【次の依頼の内容】
報酬額:1万4千コスク/1コンテナ
積み荷:雑貨 (ホビー)
積載数:40コンテナ
届け先:RS-NO56-7
距離 :約10光年
期限 :6日後
報酬額:1万3千コスク/1コンテナ
積み荷:雑貨(寝具)
積載数:30コンテナ
届け先:RS-NO56-7
距離 :約10光年
期限 :6日後
今回の積み荷は二種類ある。
一つ依頼を受けた後にコンテナ室にまだ空きがあったため、同じ届け先の依頼をもう一つ受けたのだ。
内容はどちらも雑貨とのこと。
上記したがアナナブは自転周期が104時間、公転周期が1021.8日だ。言い換えれば一日が104時間、一年が1021.8日である。これを時間に直すと一年が約10万6267時間で地球に換算するば約12年だ。
ではこの星の人間が1歳になるには地球でいう所の12年が必要になるのだろうか?
答えは否である。現地時間という物ももちろん存在するが、年齢や物の消費期限、その他宇宙共通でないと不便なものは全て、宇宙時間、宇宙年を基準にしなければならないと定められている。
あなただって自分のお見合いの相手が二十歳のピチピチのギャルだと思っていたら、二十歳のヨボヨボのおばあさんが目の前に座っていたら辛いだろう。つまりそういうことだ。
次に月の計算だが、この星でも一年は十二ヶ月である。ただ一ヶ月が85日前後あるだけだ。
最後に現地時間だが、一日が104時間のこの星で日中ずっと働いていたら、夜にはみんなが永眠してしまう可能性がある。そのためこの星では一日を四日に分けている。……日本語がおかしいだろうか。
つまり一日を26時間にして104時間を四つに分けているのだ。表現は割(かつ)。最初が1割で最後が4割である。現地時間の表示方法はこんな感じになる。
1月12日第1割12時12分12秒
ちなみに季節にもよるが、2,3割はずっと日中で、1,4割はずっと日没である。
シュウトとミルは久しぶりに船外に出る。宇宙船の格納室から出て宇宙港のエントランスまで行くとシュウトは上を見てキョロキョロした。
――レンタカーは……あっちか。空港に併設されたレンタカーの店を探していたのだ。案内板の示すままにふらふらと歩いていくと無事お店に着くことが出来た。
シュウトはそこで二人乗りの全自動車を半日分レンタルする。価格は五千コスクだ。良心的な値段と言っていい。
全自動車とは、いうなれば空飛ぶ無人のタクシーみたいなものだ。車自体にハンドルなどは付いておらず、目的地を入力するとそこまで自動で移動してくれる。その為、全自動車には免許などは必要ないのである。
二人とも全自動車に乗り込むと、シュウトは行き先を入力する。目的地は『バナナ園』だ。他にもいろいろと面白そうな場所はあったのだが、やはりその星ならではの物がたくさんある場所に行きたい。惑星アナナブといえばバナナ!らしいのでそれに従ったのだ。
電子パネルの決定ボタンを押すと、全自動車は浮き上がり出口の方へ進みだした。ラジオを付けてチャンネルをいくつか回してみる。そうしている間に全自動車はお店の地下にあった駐車場を抜け外に出ると一気に上昇した。
空は真っ暗だ。足元にはネオンがちらちらときらめいている。でも夜ではない。時間は朝の9時前だ。そう。今日は第1割なのだ。地球で言えば真夜中である。
高度約千メートルで全自動車は目的地に向かい進みだす。高度が約なのは自動車同士が空中で接触しないためにちょっとずつずらされているためだ。
今日はこの星は平日らしい。通勤ラッシュの自動車が行き交っている。地上には動かないネオン。空には高速で行き交うネオン。その上にはゆっくりと流れる雲。流れる音楽はR&B。その光景はまるで現代アートを見ているようだった。そんな光景にしばしば目を奪われていると、気付いた時にはバナナ園の駐車場に到着していた。
シュウトはミルの方へ振り向いた。するとボーっとしていたミルがハッっと気が付きシュウトの方を見る。ミルと目が合ったシュウトは軽くうなずくと全自動車のドアを開けて外に出た。
シュウトは腕を思いっきり上に突き上げて伸びをしながら息を吸い込む。冷たい空気が肺の中に流れ込み全身に血が行き渡る感じがする。体が喜んでいるみたいだ。船内の空気は常にきれいな状態に保たれているためおそらく外の空気よりもよっぽどきれいであるはずだが、実際にこうやって外に出てみると外の空気はすごく美味しかった。
シュウトが顔を右に向けると、ライトアップされたガラス張りの巨大な構造物が見える。あれがバナナ園だろう。
シュウトはミルが服の裾を掴むのを待って巨大な構造物の方へ向かう。するとひときは照明が明るい場所があったのでそこに向かった。そこに近づくとかなり遠くまで続く塀と小さな門、そしてチケットの自動販売機が目に入る。チケット売り場で合計2000コスクを支払うと二人は小さな門から園の中に入った。
入ってすぐ横には園内案内のパンフレットが置いてあったのでそれを手に取る。今いるのは入り口の直ぐ目の前の広場だ。
マップを見ると、バナナ園はこの広場を中心としていろいろな建物が配置されている。まず正面には先程から見えていたガラス張りの巨大な構造物が。バナナ園のメインの温室だ。広場の右側にはお店やレストラン、休憩所などの施設が集まっている。左側は芝生や池などがある大きな公園になっていて、どうやらまったりするスペースみたいだ。
その中でシュウトがまず気になったのが映像ホールだ。どうやらこの惑星の成り立ちと、バナナの関係性、そしてバナナの種類などを一通り説明してくれるらしい。
シュウトはミルを見ながら「ここに行ってみない?」とパンフレットの映像ホールを指差すと、ミルはコクリとうなずいた。
上映時間は50分で、次の上映開始時間は……と。パンフレットの上映時間を見ると、九時半、十時半、十一時半と一時間毎に始まるようだ。今は……九時二十分!
「走ろう!」シュウトはミルにそう告げると、ミルの手を掴んで走りだした。
二人は滑り込みで上映時間に間に合う。見ながら食べる用のお菓子も売っていたが今回は諦めた。
平日のせいか、まだ時間が早いせいか、客入りはまばらだった。
内容はこんな感じ。今から約四千万年前にテラフォーミングされたこの惑星は、海の比率が多く気温も高めだったため全体的に熱帯気候であるという。様々な植物が持ち込まれたが、一番相性が良かったのがバナナだったそうな。その為バナナの木が大量に植えられたが、時の流れとともに品種改良が進み、デザート用のバナナ以外にも、主食用のバナナ、おかず用のバナナ、お酒用のバナナなど、様々なバナナが開発されたらしい。そのバナナはみんなここのレストランで味わうことができるから、ぜひ味わっていって欲しいとのこと。……最後のは宣伝か……まぁいいけど。
上映が終わった後、二人はメインの温室に行く。入ってみるとバナナ用の温室だけあって、室内はほんのりと甘い香りが漂っていた。見渡すと先ほど映像で見た様々な種類のバナナが植わっていた。二人は時間をかけてゆっくりと見て回る。
一時間ほど温室を散策した二人は、その後広場の左側にあった大きな公園の方へ抜けた。外に出ると空は暗かったが、いたるところに間接照明の散りばめられた園内はそれなりに明るく歩くのに不便はしなかった。むしろ暖色がメインの間接照明で飾られた園内は、明るい時に来るよりも暗い時に来たほうがより楽しめるのではないだろうか。
なんとなく得した気分のシュウトだった。
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