第17話TK-0141-4(後編)

 水族館から出た時、時間は十四時を過ぎていた。

 二人は駅前の広場に行きベンチに腰を掛けた。

 子供たちがボール遊びをしている。この広場は相変わらずのどかだ。

 上を見ると鳥が空を飛んでいた。だがガラスの壁に衝突する鳥はいないようだ。なんらかの措置が取られているんだろう。

 そんな事をぼーっと考えながら目線を下に落とすと、一つの屋台が目に入った。なかなか盛況なようだ。シュウトは興味が湧いたため、ベンチから立ち上がり近づいてみる。

 服の裾が引っ張られる感じがした。いつものやつだろう。

 屋台に近づいてみると、焼きタコのお店だった。たこ焼きではない。焼きタコだ。タコの足に串を挿して直火で炙ったものを売っている。


 そこでシュウトは思い出した。観光ガイドではこの惑星はタコが名産品だったはずだ。

 たしか……レインボーオクトパス!

 そう、七色に光るタコだ。

 目の前で焼かれているタコの足は七色に輝いていた。これだよこれ!良かった。忘れてた。

 昼ごはんを食べたばかりであったが、興味には勝てず一つ注文をする。

「すいません。一ついいですか」

「あいよー。三百コスクね」

 店主は肝っ玉母さんといったふうなおばちゃんだ。

 シュウトは携帯端末を専用の機器の上にかざすと、ピッっとやった。

「まいどー」

 おばちゃんはタコ足一本と、飴玉二つをくれた。なんで飴玉?と思わなくもなかったがそれ以上深くは考えずにポケットに突っ込んだ。

 そんなことよりもっと重大な案件が目の前にあったからである。


 ブルンッブルンッブルンッブルンッ……。

 音にするとこんな感じ。一言で言えば焼かれたにも関わらず足が元気いっぱいに動いているのである。どうなってんだこれ。

 不安になっておばちゃんに聞いてみる。

「これって焼いた後ですよね?」

「もちろんそうだよー。あれっ、お兄ちゃん食べるの初めて?」

「あっ、はい。実はこの星に来たのも初めてで……ちょっと戸惑ってます」

「そうなんだー。じゃあさっき渡したのはどうしたの?」

「さっきのって……あっこれですか?」

 ポケットから二つの飴玉を出す。

「あぁそれそれ。ちゃんと先に食べないとだめだよー」

「あぁ、そうなんですか。知りませんでした。……ちなみにこれってなんですか?」

「んー。それは放射能除去剤だよ。だからお兄ちゃんそれ飲まないと……はげちゃうよ」

 はげちゃうの?なんだかスゴい怖い事をさらっと言われた気がする。

「放射能除去剤って。このタコ放射能除去されてないんですか?」

「うん。このタコはしないねー。放射能除去しちゃうとせっかくの虹色がただの赤になっちゃうし、味も落ちちゃうからね」

 ほう……。実はこれ。結構な危険物なのかもしれない。

「後、このタコ食べるときはしっかりとよく噛んでから飲み込みなよ。このタコ焼かれた状態でも三日は動き続けるからね。前にうちのバカ亭主が酔っ払って丸呑みした時なんか下から出てきた時もまだ元気に動いてたんだから。それを私に見せに来てね。まったくやんなっちゃうわよ!」

 …………。

 これ……食べなきゃダメかな?

「この飴玉って一つでいいんですよね?」

「うん、そう。でも彼女にも少しはあげるんでしょ?」

 そういうことか。なかなか気の利くおばちゃんだった。

 シュウトは店の店主にお礼を言うと、ベンチまで戻った。


 さて……。

 ブルンッブルンッブルンッブルンッ……。

 食べてみるかな……。

 ブルンッブルンッブルンッブルンッ……。

 …………。

 シュウトはとりあえず放射能除去剤を飲み込んだ。

 ミルにも勧めてみたが、断固として拒否された。……ですよねー。


 シュウトはもう一度じっくりそれを眺めてみることにした。

 焼かれてもなお元気一杯。やんちゃなタコさんである。 

 でもとってもシュール。

 ホントにシュール。

 まさにシュールストレミングである。

 ……いや、シュールストレミングではない。

 でも、同じくらいシュールではあると思う……。


 シュウトは意を決してパクリといった。

 口の中でも暴れん坊だ。ビチビチいってる。

 吐き出しそうになるが、勇気を出して一生懸命噛む。

 すると意外なことに、味自体は悪く無い。

 というよりも、プリっとして味わい深くてすごくおいしい。

 若干ピリっとしてるのは放射能か?……きっと違うだろ。

 でもこの噛むと肉汁が溢れ出る感じはすごく良い。

 気が付くとシュウトはガツガツと食べていた。

 もう一度ミルに確認を取ってみるがやっぱりいらないとのこと。

 人生損してるなぁ。

 そして足の残りが十センチ弱になった時、その残りを一気にワイルドに食べてみたくなった。

 こう一気に串から引き抜いてガブリとね。まさに野生だ。


 シュウトは最後の一口をそれでいくことに決めた。

 そしてシュウトが串から一気にタコを引き抜いた時……。

「あっ、お兄ちゃん危ない!」

 シュウトの側頭部にサッカーボールが直撃した。

 それほど痛くは無かったが、その衝撃で

 ゴクンッ!

 …………。

 …………。

 …………。


 とりあえずおばちゃんに相談にいった。

 おばちゃん曰く「まぁ大丈夫よ!」とのこと。

 目が不憫な人を見る目になっていたのは気にしないほうが良さそうだ。


 シュウトはこの数日後、地獄を見ることになる。


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