第13話Another story 02 ピースキーパー

 ワタクシの名前は、Rー3DO。

 通称アサンドでございます。

 廃棄処分寸前のワタクシを、シュウト様のお父君に救って頂きました。

 その際、古くなったパーツをいくつか入れ替えられたようですが、ワタクシの行動に何ら影響を与えるものでは無いと存じております。

 ワタクシの仕事は、料理や掃除、その他雑事等、宇宙船コメットの中でシュウト様の日々の生活のサポートをさせて頂く事です。

 今後は粉骨砕身、シュウト様に尽くさせていただこうと思っております。


 ワタクシがシュウト様の元で仕事をさせていただくようになってから約2年。

 ついにシュウト様は広大な宇宙に向かい旅立たれました。その事は機械であるワタクシですら興奮を抑えきる事が出来ず、少年の様に胸が高鳴っておりました。

 しかしその最初の日…早速大事件が起きてしまったのです。


 シュウト様が街に行かれてからワタクシはいつもの様に船内の掃除をしておりました。船内を常に快適な状態に保つのが、ワタクシの勤めでございます。

 その2時間後、シュウト様がお客様を連れてお戻りになられました。

 お話をお伺いしますとその方は奴隷だと。

 ワタクシはロボットでございますので、その気になれば人間の数千倍の速度で思考を行うことが出来ます。ワタクシはその時、その機能を使用しました。


 シュウト様が奴隷を?

 よく見れば若い女性ではありませんか。造形もそれなりに良いものです。若くて造形の良い女性の奴隷ということは……つまり……性奴隷という事でしょうか。

 まさかシュウト様がそんなひどい事をされるとは思えません。何かの間違いでしょう。

 でもそれでは手に持っている首輪はなんでしょうか?

 一応検索しておきましょう。

 ビィー……ギャラクシーネットに接続中です……。

 ビィー……該当の首輪を検索中です……。

 ビィー……該当の首輪の検索が完了いたしました……。

 ビィー……該当の首輪は惑星系DO-08N3で使用されている奴隷用の首輪です。

 ビィー……その首輪には装着をしている対象者に高圧の電流を流す機能が付いており、その奴隷の所有者に指定されている者の携帯端末から操作することが出来ます。

 …………。

 そんなはずは……。

 あのお優しいシュウト様が……。

 でも手に持っている首輪は間違いなく……。

 いやでもそんなはずは……。

 では何故そんなものを持っている?

 いやでも何かの間違いの可能性もあるはずだ!

 そんな訳があるか!

 いやでも…………。

 …………。

 …………。

 …………。


 正規品のアサンドのCPUであればこの程度の負荷で暴走を起こす事も無かったが、アサンドのCPUは経年劣化により既にほとんど使い物にならなくなっていたため、シュウトの父親がラバハキアに行きもう少し安物の部品を買ってきて取り替えたものだ。

 その結果…たまにちょっとだけはっちゃけてしまう事がある…。正規品って高いしね…。


 アサンドが目を覚ました時には、自分の整備用のポットに格納されていた。緊急用のプログラムが作動したのだろう。

 またやってしまいました……。

 実はアサンドは過去に数回同じような事を起こしてしまった事がある。そのどちらもなかなか解決出来ない問題を脳内で無限ループさせてしまった結果だ。


 その後ワタクシは整備室から出ますと、階段の前でシュウト様に出会いました。

 シュウト様に先ほどのご無礼をお詫びした所、それほどお気にはされていない様子でした。やはりシュウト様はお優しいのです。

 気を取り直して何かお手伝いできることは無いかとシュウト様にお尋ねいたしました所、お風呂に入るので着替えが欲しいとのことです。

 そこでワタクシがお着替えを取りに行こうとしたら……ミル様のお着替えも必要だと……。

 そんな……まさか……。

 本日2度目の暴走を起こしてしまいました。ただ今回は完全に暴走をする直前に機能を停止することが出来ましたので、暴走状態からすぐに回復することが出来ました。

 少しシステムをクールダウンさせた後、ワタクシはシュウト様とミル様の事が心配になり、お風呂場に状況を確認しに向かったのです。

 そこでワタクシが見たものは……。

 お風呂場の中でシュウト様がミル様の頭を無理やり押さえつけ、自らの局部に奉仕をさせようとしておりました。ミル様は必死に抵抗をし、なんとかその時は逃れておりましたが……。

 ワタクシはそれ以上見ていることが出来ませんでした……。

 その後ワタクシは2階に戻り、先ほどの件に関して考えをめぐらしました所……本日3度目の暴走を起こしてしまったのです。


 ワタクシが目を覚ましリビングに戻りました所、シュウト様とミル様がリビングでくつろいでおいででした。

 ワタクシはその時、正直シュウト様が何を考えておられるのかわからなくなりかけておりましたが、シュウト様からミル様の事をお話をしていただきました所、全てを納得することが出来たのです。機械には心は無いとおっしゃる方もいらっしゃいますが、ワタクシの心はその時晴れ渡っておりました。やはり全て何かの間違いであったと。

 その後、お二人共ワタクシの作った料理をお食べになり、とても幸せそうな顔をしておいででした。

 ワタクシはこの船で働けることをシュウト様とシュウト様のお父君に感謝いたしました。


 ですが……。

 夜の11時12分55秒頃。

 ワタクシは現在使用していない三階の一番奥の客室の掃除を終え、リビングに戻ろうと部屋から出た時でした。

 そこでワタクシは……見てしまったのです。

 シュウト様が嫌がるミル様を無理やり部屋に連れ込んでいるところを。ミル様は表向きは抵抗をしていなさそうに見えましたが、その表情が全てを物語っておりました。

 この男に犯される……と……。

 おそらくミル様は奴隷という契約に縛られて、抵抗する事が出来ないのでしょう。


 ……どうすれば良いかと……。

 ワタクシは迷いましたが、決断いたしました。

 もうワタクシではシュウト様を止めることは出来ない。

 全てをご両親にお話し、シュウト様を諌めていただこうと。


 アサンドは自らの整備室に戻ると、シュウトの両親に向けメールをしたためた。

簡単な挨拶から始まり、現在いる星の事。シュウトから説明された事。自分が見てきた事。

 そして、今後この船で行われようとしている事を……だ。


 今後この船で行われようとしている事とは、シュウトがこの船に戻ってきてから今現在までの時間、つまり約半日に対し、シュウトがこの船に戻ってきてから行った事、すなわち

1.奴隷を連れ帰る。

2.奴隷と一緒にお風呂に入る。

3.お風呂で奴隷に自分の局部を無理やり奉仕させようとする。

4.就寝前に嫌がる奴隷を無理やり部屋に連れ込む。

を、データとして入力し、明日起こる事、1週間後に起こる事、1ヶ月後に起こる事をシミュレートした結果だ。シミュレートは念のため最悪のケースを想定して行った。


 その結果は……想像を絶する結果となり、アサンドに戦慄が走った。

 詳しい説明をここでする事は出来ないが、

 明日は恥辱の限りを尽くされ、心が折られてしまうだろう。

 1週間後には人格を失っているだろう。

 そして1ヶ月後には……というものだ。


 アサンドはその結果をメールに添付する。


 今なら……まだ間に合う!

 アサンドはこの船の平和を守るため、メールの送信ボタンを押した。


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