第8話ミルに船内案内
シュウトは服の裾を掴んで不安そうに後ろから付いてくるミルを、3階にある彼の部屋の正面の客室に案内をした。
彼が部屋の横に付いているセンサーに手をかざすと、プシュー……という音がして、部屋のドアが開く。
中に入ると右手側にユニットバスがあり、更に進むと7.5畳ほどの部屋になっている。部屋の中央にはキングサイズのベッドが置かれており、その他の備品はテレビやパソコンなどが置かれている。ビジネスホテルのシングルルームを想像していただけると近いかもしれない。この部屋の間取りはシュウトの部屋と左右が逆なだけで、中身はほぼ同じである。
「今日からこの部屋は自由に使っていいからね」
そう言うと、ミルを気にかけながら部屋の中に入った。
部屋を見たミルは先程より少しだけ明るい顔になり、シュウトの服の裾を掴んだまま遠慮がちに部屋の中を観察していた。
シュウトはそんなミルに少しだけホッとしながら、ベッドの上にミルの洋服が入った袋を置いた。
そして……手元には鉄製の首輪が残る。
――これどうしよっかなぁ
考えているとミルと目が合った。
試しに冗談っぽく、いる?と聞きながら首輪を差し出してみると、ミルはそれを両手で受け取りジーっと眺めた。
「もしいらなかったら返してね」
つい受け取ってしまっただけだと思ったシュウトは手を差し出すが、ミルはシュウトをジッと見つめると動かなくなった。
――いるのかな?
――いやっ、どっちでもいいんだけどね。
…………。
――うん、きっと欲しかったんだ!
「じゃあ船内を案内をするから付いてきてもらってもいいかな?」
伺うような感じでミルに聞いてみると、ミルは首輪を左手に持ったまま、右手でシュウトの服の裾を軽く掴んだ。
シュウトはそのままミルを連れて、2階まで降りる。
そしてミルにリビングを見せると……固まった。
始めは噴水を見て少しだけ目を見開き、視線が徐々に上に上がっていく。そして、天井の空を見ると大きく目を開けたまま固まったのだ。もちろんリビングは吹き抜けになっているので、3階に居た時からこの景色には気づけたはずだが、シュウトのすぐ後ろを終始うつむき加減に歩いていたミルには、その事に気づくことが出来なかったのだろう。
「どう?気に入った?」
ミルに聞いてみると、ミルは天井を見上げたまま軽くうなずいた。そして少し興奮してきたのか服の裾を掴む力が若干強くなった気がする。
シュウトは父親と一緒に作ったこの船を喜んでもらえた事が嬉しくなって、「そっか」と独り言のようにつぶやくと、カウンターキッチン、リビング、スポーツジムなどを次々と紹介していった。
いつしかミルの目が輝きを放っている。やっぱり女の子はこういう表情が一番可愛いよなぁ~とかなんとか考えながら、コレクションルームに入る。
「で、ここはコレクションルーム。今はまだ見ての通りガラガラだけど、これからなにかある度に思い出の品を一つづつここに飾っていけたら素敵かなって思ってる」
ミルはコレクションルームを一度見渡した後、入口近くに飾っていたものに目を止めた。
「あっ、それは旅とは関係ないんだど……小さいころの写真とか学生時代のアルバムとか、何かそれっぽいものをとりあえず飾ってみたんだ」
ミルはそれらを順番に眺めた後で、右手に持っていた首輪を両手で持つとシュウトを見つめた。
シュウトが、ん?っと首をかしげると、ミルは棚の方に向き直りその首輪をそれらの横に置いた。
そして今度は何かを求めるようにシュウトを見つめる。
「え゛っ……いやまぁミルが嫌じゃなかったら別に良いんだけど……嫌だったりしないの?」
シュウトが聞いてみると、意志を持った目でシュウトを見つめうなずいた。
「うん。じゃあありがとう。ここに飾らせてもらうよ」
シュウトは笑顔で答えたが、内心ではこれってどうなんだろうと首をひねってしまった。
ちなみに階段の前にある秘密の部屋は、無きものとして扱った。世の中知らなくても良いことなんて山ほどあるものだ。
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