第4話DO-08N3-1(前編)
宇宙暦1億2016年4月17日。
シュウトが新しい惑星系に着いてから約30分後。
彼は本当の目的地に到着した。
恒星DO-08N3の第一惑星DO-08N3-1。
通称:ブイレス
大きさ:1倍/地球
公転周期:195.1日
自転周期:24時間
人口:2億4000万人
ブイレスの宇宙港に入港したのだ。
シュウトはまず積んできた荷物の配送完了報告を行う。
配送完了報告を行うと、フロントウィンドウにインフォーメーション画面が表示される。
”チェック完了まで約2時間”
今回積んできたコンテナは全部で50個。
コンテナ一つ辺り1万コスクの契約であったので、問題が無ければ合計で50万コスクの収入になる。
ただワープ航行で使用した燃料が90リットル、9万コスク。宇宙港の停泊費用が一日1万コスク。消費した物品の補充におそらく1万コスクくらいかかるかな?合計で約11万コスクの支出だ。
差し引き約39万コスクの利益となる。
……1日で39万コスク……1日で39万円?
おい、ちょっとお前。オレと変われ!!
配送完了報告を行った後は、次の依頼の受付を行う。
ちなみにシュウトが選んだのは以下の様なものだ。
報酬額:1万1000コスク/1コンテナ
積み荷:金属(銀)
積載数:60コンテナ
届け先:TK-0141-4
距離 :約8光年
期限 :6日後
依頼受領ボタンを押すと、フロントウィンドウにインフォーメーション画面が表示が変更される。
”積載完了まで約7時間”
これは先ほどの配送完了のチェックと荷物の積み込み時間を合わせた時間だ。つまり最速でも出発できるのは7時間後ということになる。
ただ亜空間発生装置は一度使用したら1日はクールダウンさせたほうがいいというのが、この世界の常識である。まぁどうしても使用したいというのであれば、日に何度も連続して使用しても構わないが、後は自己責任ということで。
……元々すべて自己責任だけどね!
ちなみにこの世界の通信は、全宇宙のどこにいてもオンタイムでやり取りが出来る。
大昔は電波で通信を行っていたため、光よりも速い速度で情報をやり取りする事が出来なかったが、今から約5000万年前に宇宙学会で革新的な発表が行われる。
一石博士による”全ての空間は一つの点でつながっている”空一性理論というものだ。
今では相対性理論に並びよく語られるこの理論ではあるが、発表された当時はほとんどの者が理解出来なかった。
しかし、時の流れとともに彼の理論が正しい事が証明され、その理論を元に構築したものが現在の通信システムである。
ちなみにこの理論は再現するのが非常に難しく、通信以外の分野では未だに実用化に至っていない。
実用化された通信システムの名称は、システムの正式名称の頭文字をつなげて一般的にこう言われている。
GOTSUGOシステム。
便利な世の中になったものである。
業務上の手続きを一通り済ませたシュウトは、宇宙港を出て街に観光に出掛けた。
現地時間は現在昼の13時過ぎ。
ポカポカしていて気持ちがいい。
空気はシュウトが住んでいた星よりも少しだけ乾燥している気がする。
街の発展具合は……正直空から見た時から感じていたのだが、宇宙港のすぐ近くにも関わらず少し寂れた感じがする。それなりに高い建物があったりはするのだが、人通りが少ないせいだろうか?
20分ほど歩くと、不意にビル群が途絶え、目の前には蚤の市の様な市場が現れる。こちらは先程のビル群よりも活気があり、少しだけホッとした。食料品に衣料品、雑貨にガラクタまでなんでもござれだ。
そんな市場キョロキョロしながら歩いていたら、横から急に声を掛けられる。
「兄さん、兄さん!奴隷なんてどうよ!安くしとくよ!」
実は最初にこの惑星を選んだのには訳がある。
もちろんこの星への配達依頼があったからというのもあるのだが、地球に行くことを考えればもっと他に良い星がたくさんあった。
では、なぜこの星を選んだのか。
シュウトがまだ高校に通っていた頃、その星々によって政治体制や社会秩序が大きく異なるという様な内容の授業があった。その中の例の一つとして、彼の住んでいた惑星から近いこの惑星ブイレスの事が紹介されたのだ。
ブイレスの政治体制は一党独裁制。しかもその惑星の重要なポストが全て一つの一族によって占められている、完全なる独裁国家だ。
そしてもう一つ。
この惑星には奴隷制がある。奴隷制が存在する惑星が他に無いわけではないが、やはり一般的とは言いがたい制度だ。
もちろんシュウトが生まれ育った惑星にもそんな制度は存在せず、授業でこの話を聞いた時には何か現実感のないファンタジーのお話を聞いているような気分になった。
だが現在シュウトは自分の宇宙船を手に入れ、そんなファンタジーの世界を実際に自分の足で見に行く事が出来るようになった為、是非一度来てみたいという想いがあったのだ。
「えっ、奴隷ですか?」
シュウトは話しかけられた方向に振り向くと、アラビア系の服を着た小太りの中年のおじさんが、見事な営業スマイルで立っていた。
「そうそう!奴隷、奴隷!ちょっとでいいから見ていきなよ!見るだけならただなんだしさぁ!」
そう言うとシュウトの服を掴み、市場の奥の方に歩き出した。
「あっ、ちょ、ちょっと…」
半ば強引に引っ張られる形で、シュウトは市場の奥にある少し雰囲気の変わった場所に連れて行かれる。
鉄の檻だ。
3m四方ぐらいの鉄の檻がいくつも並んでいて、一つの檻の中にはそれぞれ3,4人の人間が閉じ込められている。身なりはそれほど悪くない。年齢は様々だが老人はおらず、年齢層は比較的若いように見える。そして気になったのが、首につけられた首輪だ。皆それぞれ黒い金属製の首輪を付けていた。
「どうよ兄さん!なかなかいいのがそろってるでしょ?」
いや、どうと言われても……。
「兄さんどんな仕事してるの?いい服着てるし結構稼いでんじゃないの?」
なるほど。だから連れてこられたのか。
確かにシュウトの家はそこそこ裕福だったし、今の稼ぎもハッキリ言って破格だ。ブランドにはまったく興味が無いため服にはそんなにお金を掛けていないが、別に安物ってわけでもない。
「あはは……まぁそれなりには……」
適当にお茶を濁しておく。だが言い方が悪かったらしい。
「だと思ったよ兄さん!こっちの男なんてどう?背はでかいし体格もいい!こき使ってもなかなか潰れないとおもうよ!値段も700万コスクだから何年かで元がとれるんじゃないかなぁ~」
セールストークが始まってしまった……。
はぁ…と溜息をつきながら、檻のある一角をブラブラと歩く。
そこでシュウトは運命的な出会いをすることになる。
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