惑星ブイレス
第3話ワープ航法
シュウトの乗った宇宙船は、住み慣れた星を離れ宇宙空間へと出た。
ただ宇宙空間へ出るだけであればこの2年間でかなりの回数出ていたが、今日はいつもとは違う事をする。というよりも生まれて始めてのことだ。
――他の惑星系へのワープである。
物体は通常空間を移動する際に最速でも光の速度、つまり光速を超えることが出来ない。もちろんシュウトの乗っている宇宙船コメットも例外ではない。
でもそれでは10光年先にある他の惑星系へ行くのに、最速でも10年以上かかってしまう。これでは他の惑星系へ気軽に行くことなど到底出来ない。
そこで考え出されたのがワープ航法である。
A地点からB地点まで移動する際に現在いる通常空間を通るのではなく、一時的に亜空間のトンネルを作りそこを通りショートカットする事で移動時間の短縮を図るというものだ。
詳しくは某ペディアを見てくれ。全く理解をしていない私が語るよりも遥かにわかりやすい説明が載っているだろう。
ワープ航法をするために必要な装置は亜空間発生装置である。
シュウトはこの2年間で6000万コスクものお金を稼ぐことが出来たため、父親と相談しそのうちの5000万コスクを使用して、亜空間発生装置の買い替えを行った。今すぐどうこうというほどでは無かったが、替えられるのであれば替えたほうが安心出来るからだ。
亜空間発生装置とは、その名の通りショートカット用の亜空間を発生させる装置で、使用中にこれが壊れた場合はまず助からないと言われている。
さすがに5000万コスクでは新品は買えなかったが、父親のつてを使い結構状態の良い中古品を手に入れることが出来た。これで亜空間から永久に脱出できなくなる可能性がだいぶ低くなったと思う。
そして亜空間発生装置の他にもう一つ必要な物がある。
それは膨大な電力だ。
船内の各システム、通常空間航行用のスラスター等の電力をまかなっているのはメイン動力装置だが、亜空間発生装置を稼働させるにはまったく電力が足りていない。
その為亜空間発生装置の中には独自の発電装置が付いていて、その発電装置に直接燃料を送ることによって装置を作動させるのだ。
この世界の燃料は、人類の英知を結集させ独自に生成されたもので、自然界に存在するものではない。
この燃料は通常のメイン動力装置であれば、1リットルで100年は動かせるほどの能力を持っているが、亜空間発生装置はそんな燃料を驚くほどの速度で消費してしまう。
シュウトの乗っている宇宙船コメットは、亜空間内であれば1光年を約15分で航行出来る性能を有している。
燃料タンクの最大容量は200リットルだが、亜空間発生装置の使用中は燃料を約1分に1リットル消費してしまうため、どんなに頑張っても一度のワープで13光年までしか飛ぶことが出来ない。燃料切れの危険性を考えれば10光年程度までに抑えておくのが懸命だろう。
ちなみに燃料の値段は地域や状況により多少上下はするものの、大体1リットル辺り1000コスクとなっている。
どうでもいいこじつけの説明はこの辺にし、そろそろ話をシュウトに戻したいと思う。
宇宙空間に出た宇宙船コメットは、次の目的地である恒星DO-08N3に進路を取る。
それから少しすると突然フロントウィンドウに赤文字で大きく警告画面が表示され、機械的な音声がコックピットに鳴り響いた。
「ワープ航行まで30秒前……29……28……27……」
……ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……
何度でもいうが、知識としては知ってはいたが、シュウトには初めての体験の為、期待と不安で心臓の鼓動が高鳴る。
「……22……21……20……」
亜空間発生装置のチェックは何回もやったはずだ……
燃料も……問題ない。
「……15……14……13……」
ネジは……ちゃんと締めたよな?
確か……締めたと思う……。
「……10秒前……9……8……」
……ドッドッドッドッドッ……
汗ばんだ手で座席の肘置きを握りしめる。
「……7……6……5秒前……」
……………………
「……4……3……2……」
……………………
「……1…………」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
小刻みな振動と共に、突然目の前の空間が縦に裂け開く。その中からは虹色の光がこぼれだしていた。
クゥゥウ……ボオゥゥゥ!
そして、その空間の中に宇宙船コメットは突っ込んでいった。
コォォォォォ………………。
亜空間に突入するとともに機体の振動は収まり、何かの機械が動いている音だけが聞こえていた。
フロントウィンドウから見える景色は、なんとも形容しがたい不思議なものだった。いろいろな形の光が渦巻いては結合したり離れたり、消えたと思ったらまたフッっと現れたり。きっとオーロラを圧縮して中に入ることが出来たらこんな感じかも知れない。
恒星DO-08N3までは約6光年の距離があるため、時間にすると約1時間半の間、亜空間を航行することとなる。
いつもであればコックピットから出て居住部でまったりしている所ではあるが、この日のシュウトはフロントウィンドウに映る景色をただただ眺めていた。
そして1時間半後、また警告画面が表示されると機械的な音声が鳴り響く。
「通常空間まで30秒前……」
またカウントが始まった。
「……5秒前……4……3……2……1…………」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
また小刻みな振動と共に、突然目の前の空間が縦に裂け開く。裂け目の中は真っ黒だ。
そして宇宙船コメットは光の渦から真っ暗な空間へと飛び出していった。
ヒュュュュュ…………
何かのシステムが停止する音がして、静けさが戻ってくる。
フロントウィンドウには、青白く輝く恒星が映しだされていた。シュウトの住んでいた惑星系の恒星は赤っぽかった気がする。
…ハァァァァァ………フゥゥゥゥゥ………
シュウトは一度息を深く吸い…そして吐き出す。
どうやら無事、別の惑星系に来る事が出来たようだ。
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