第2話 昼休み

 昼休みの食堂は若い食欲を漲らせた女子生徒たちでごったがえしていた。乙女と言えど育ち盛り。ビュッフェ方式で皿に各自自由に取り分けて昼食の献立を立てる。管理栄養士による塩分控えめのヘルシーメニューを過信して食べ過ぎて返って肥えてしまう女生徒も少なくない。

「あーお腹空いたぁっ!学園で一番の楽しみだよねぇ!。」

 頭頂部近くで跳ねたポニーテールが特徴の森口杏奈が意気揚々と抱えるトレイにはLサイズのさらに山盛りのナポリタンに小判型の分厚いハンバーグが二つ。隣のしょんと済ましたSサイズの小皿にはビタミン摂取もきちんとかんがえているのよぉと主張する様にプチトマトと薄切りのキュウリがあしらったサラダ。コーンポタージュに100%オレンジジュースの大ボリューム。

「わぁっ、そんなに食べるの?すごぉい。」

 口元を両手で覆って目を丸くするのはメグちゃんこと小池めぐみ。そういう彼女もエビフライカレーとメロンソーダ、そっちがメインだろうというココア、バニラ、ストロベリーの三種のカップケーキがトレイの中で存在感を放っている。

「育ち盛りなんだからちゃんと食べなきゃだめだよ。」

 そうそう、そのDカップのわがままおっぱいをもっと育てるのだ。りんごを齧るような豪快な吸血は一度やると病みつきになる。

「もぉーお母さんみたいな事言ってみっちゃんは全然食べてないじゃん。」

「んー、私、小食だから。」

 水滴がたっぷり付いた瑞々しいトマトのイラストの紙パック。食堂では無く昇降口入り口の自動販売機でしか売っていないトマトジュース。吸血鬼にはぴったりの昼食。我ながらベタすぎる。

「ほういえばっ、聞ひたっ!聞いたっ!。」

 いただきますの言葉もそこそこにフォークの先にたっぷりと巻き付けたナポリタンを頬張りながら根も葉もない噂話のストックを友人である私たちにぺらぺらと披瀝し始めた。

「隣町でまた吸血鬼事件だってっ!こわいよねーっ!今度は若い男だってさ。」

「前はOLでしょ。この学園にも来たらどうしよう。」

 吸血鬼事件というのはゴシップ誌が付けた名称で正確にはA市連続衰弱死事件だったと記憶している。水分をなくしミイラの様に干からびた身体。マイクロ単位の穴が無数に空いていたという。間違いなく同属の仕業。

(人の領地シマの近くで好き放題やりやがって、私の王国《

ハーレム》にもしもの事があったらどうするんだ。)

 自ら駆除に乗りでたいのはやまやまだが何分手駒足りない。吸血によって支配した人間は限界を超えた身体能力を発揮できるとは言っても所詮は女子高生、何よりせっかく飼いならしたご馳走しもべを訳の分からない放浪者ノマドにぶつける様な真似は絶対にしたくない。

「あれ?メグちゃんどったの?首にばんそうこうはってるけど。」

 切り分けて口に運んだハンバーグをもりもりと咀嚼する杏奈の猫の様な切れ長の

眼が惠のばんそうこうが張られた細い頸筋に向けられる。

「なんか起きたら赤く腫れてて、虫刺されかな?。」

「そんな事言ってぇ!ひょっとして彼氏ぃ?いやーん大胆?。」

 きょとんとした顔で首筋を撫でるめぐみをそうとわかった上でからかいにかかる。オーバーに抱きしめる恋人を抱擁する様に胸の前に腕を回すジェスチャーに初心に顔を染める。

「や、やめてよぉっ!そんなんじゃないよっ!。」

「そうやって必死に否定しにかかるのがあっやしい。どうやって学園内に連れ込んだの?。」 

 格好の弄りネタを得た杏奈はまさに水を得た魚でからかいすぎてめぐみを本気で臍をまげてしまう。そんな平和に過ぎていく昼休みに和みつつも腹の底を焦燥感が撫でる。

(いくら居心地が良いからって引きこもっても居られないわね。何かしら手を打たないと。)

 学園の夜の王の地位を守るために私はさっそく行動を開始した。



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