IMA-1

吉村ことり

それは突然現れた。

 地下鉄駅4駅(有楽町線、南北線、東西線、都営大江戸線)、JR線を擁する都心のハブ駅。それが飯田橋である。


 そこに、突如としてそれは出現した。

 飯田橋駅西口からでて、ぐるっと回って駅ビルに向かう途中のちょっと広場になったところに、それはある日突然鎮座した。

 色はどぎついピンク。形は縦に細長い楕円形。

 大きさは人の背丈の倍ほどもあろうか。


 最初、人々は何かのイベント用オブジェかと思っていた。

 騒ぎ出したのはビルの管理会社だ。

「こんなものを設置する許可を出した覚えはない、設置したのは何処の団体ですか!」

 しかし、誰も覚えが無かった。


 駅ビルに入っている大学の生徒たちが中心となったチームが調査すると、この物体はとんでもない磁気を出していることが分かった。


 物体は、飯田橋磁気異常―1、イイダバシ・マグネティック・アノマリー。

 略称「IMA-1」と呼ばれた。

 物体の事はマスコミやネットブログが一斉に取り上げて一躍話題になった。

 そうやって騒ぎになり、人がたくさん見に来るようになると、沢山の人が周りにいると、ピンクが赤色に近い色にシフトすることも明らかになった。


 破壊して調べるべきでは?


 そういう意見もあったが、何せ立地の問題から、せいぜいが使えてドリルとか、ショベルカーとかであった。だが、何をやってもびくとも動かせず、傷一つ付かなかった。ただ、物理的な干渉をすると、ピンクが色あせて白っぽくなった。


 謎の物体は話題を呼びながら、半月程その場に居座った。


 だが、そのうち、皆はその存在に慣れ、そして飽きた。

 ある日、カップルが通りかかる。

「あーこれこれ、なんて言ったっけ、IMA-1?」

「うんそうそう、なんでこんな色と形なんだろうねー」

 カップルはぐるぐると見て回りながら、いろんな意見を言う。久々に興味をもたれた所為か、IMA-1は赤みを帯びていた。

「でもさー」

 女が一言いう。

「ん?」

「これって、IMA-1、っていうより、イマイチだよね」

IMAイマイチ、だしなー」

 二人が笑い転げると、IMA-1にこれまでにない異常が現れた。

 色が真っ青に変わり始め、ブルブルと震えだしたのだ。


「イ」

 IMA-1から音声が漏れる。

「い?」

「マ」

「いま――」

「イ」

 そして、最後の一音を発した。

「チ!」


 次の瞬間だった。

「ウワアアアアアアアアアアン、オ母サンニイイツケテヤルウウウウウウウ」

 IMA-1は叫ぶと、その場から天空高くに飛びあがった。


 その軌道はJAXAやNASAが観測していたが、なんと、光速、ないしはそれ以上の速度を出したらしく、掻き消えるように居なくなってしまった。


 そして数日後。

 高田馬場駅の広場に、直径10メートルを軽く超える、白っぽく、巨大で皺の寄った球体が落ちてきた。

 球体は

「ウチノ子ニナニスルノー!」

 と叫びながら、周辺を焼き尽くした。


 物体は、2番目に、高田馬場に出現した物体だったので

 「BABA-2」

 と呼ばれた。

 周りから「ばばあ、ばばあ」と言われた物体は、やはり泣きながら飛んでいった。


 そして一週間。

 もう何も出てこないか、と、人々が固唾を飲んでいると、ひょろひょろとしたくすんだ黒っぽい物体が、東京駅に出現した。そして、それは一言。

「ウチノガ迷惑オカケシマシタ」

 というと去って行った。

 物体は東京駅に現れた3番目の物体なので、

「TO-3」

 と呼ばれた。

 とうさんはいつも尻拭い。


 どっとはらい。

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IMA-1 吉村ことり @urdcat

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