異世界で魔術チーターが大暴れ!?
momoyama
第一話 関係ないけど、王道チート物っていいよね……。
「我々の世界へようこそ、勇者様。私は貴方を召喚した聖女、貴方にはこの国を救ってほしいのです……」
「がおー」
「ぎゃーすっ!?」
「あぁっ!? 聖女様が、聖女様がっ! 召喚された勇者様に頭を噛みつかれて血塗れになったぞーっ!?」
食肉目ネコ科チーター属。主にアフリカなどに生息している。日本ではサファリパークや動物園でその暮らしぶりを見られるはずだ。
チーターにファンタジーなど知らない。だから突然異世界へと召喚されても理解などできない。
そしてチーターに人間の言葉は分からない。日本の動物園でごろごろと暮らしていようが、チーターに人間がなんかごちゃごちゃ言っても理解などできないだろう。「こいつ、いつもの飼育員さんじゃない!」って警戒されて、朝ごはんにされるのがオチだ。
何の対策もせずチーターを召喚なんかしたら、上のようになるのは当然の結果だった。
「ふ、ふふ。大丈夫ですわ、従者さん。なんとか致命傷で済みました……」
「それ、大丈夫じゃないでしょ。致命傷はやばいでしょ。さっさと医療係に見て貰ってください」
「いいえ、まだですわ。せっかくチート与えるとほいほい世界救ってくれるジパング人を召喚したと言うのに、ここで私がへこたれていては聖女の地位が泣きますわっ!」
「あれはジパング人と言うより、ジパング獣と言う方が正しいと思います」
補足すると、チーターはアフリカの動物なので実は従者も間違っている。
聖女は気を取り直して、チーターに近づく。
「……申し訳ございません。突然この世界にお呼びしてしまって驚かれているのですね? ですが今はこの国の危機なのです。オウドー国との戦争に勝つためには、異界からの勇者の力が必要不可欠……」
「がおー」
「うぎゃーっ!?」
「あぁっ!? 聖女様、聖女様っ! 不用意に近づいてまた頭を噛みつかれたーっ!?」
食肉目ネコ科チーター属。主にアフリカなどに生息している。日本ではサファリパークや動物園でその暮らしぶりを見られるかもしれない。
チーターに戦争など知らない。だから戦争の話されても、馬耳東風でしかないのだ。馬じゃないけど。
そもそもチーターに人間の言葉は分からない。流石に二回連続で噛みつかれないだろうと思って近づいても、そうは問屋は降ろさない。「何だこいつ、鬼気迫ってて怖いな」って警戒されて、昼ごはんにされるのがオチだ。
何の対策もせずチーターに説明し続けても、先ほどと同じ状況になってしまうのは当然の結果だった。
「ふ、ふふ。この程度のケガ、ミネラルの入った麦茶を飲めば完治しますわ。ジパングでは、獣に襲われたらこれを飲む習慣があると聞きますしね……」
「あれは単にミネラルの入った麦茶の宣伝してたジパング人が、ライオンとかヒョウに襲われやすい人だっただけです! 麦茶自体に治癒効果はありませんっ!」
「とにかく、ここで引き下がっては聖女の地位が揺らぎかねません。あの真っ赤な勇者を勧誘するまでは、この使命を投げ捨てるつもりはありませんわっ!」
「いや、どう見てもあの勇者は真っ黄色なんですが。聖女様、視界が血で染まってませんか……?」
補足すると、チーターは黒い斑模様があるので別に真っ黄色ではない。
聖女は気を取り直して、チーターに近づく。
「……ご安心くださいませ、勇者様。貴方様には我々が強大な力を与えました。『どんな呪文でも唱えれば必ず使用できる』と言う能力です。この能力さえ持っていれば、戦争で死ぬ事も決して無く……」
「がおー」
「ぐえーっ!?」
「あぁっ!? 聖女様、聖女様っ! 何でまた近づいたんですか! なんでまた頭を齧られる射程圏内に入ったんですかーっ!?」
食肉目ネコ科チーター属。主にアフリカなどに生息している。日本ではサファリパークや動物園でその暮らしぶりを見られるといいね。
チーターに呪文など唱えられない。さっきからさんざん『人間の言葉は分からない』って言ってたんだから、もはや当然の事である。
だが聖女は分かってないようなので、あえてもう一度言うとチーターに人間の言葉は分からない。目が真っ赤な聖女なんか近づいたら「これはやばい、命の危機だ」って警戒されて、晩ごはんにされるのがオチだ。
勇者が召喚出来てややテンションがおかしくなってた聖女には予想できてなかったようだが、従者にとっては『そりゃ噛まれるわなぁ……』としか思えない当然の結果だった。
「ぐ、ぐふふ。私はまだまだいけますわよ? 噛みつく獣を愛する人なら、口に頭を突っ込む事ぐらい容易い事。私もその段階に来ただけ……よ」
「あの人たちは自分から頭を入れに行ってるんですよ!? 聖女様の場合、うっかりしたせいで頭を齧られてるだけじゃないですかっ!」
「とにかく、信頼を得つつあるのは間違いないわ。すぐそばで川の向こうの花畑から手招きしてるお爺様のために、絶対に勧誘に成功させますわ!」
「この部屋、川なんてないですよね? と言うか聖女様のお爺様、すでに他界してますよね? それ、完全に賽の河原に誘われてる瀕死状態だと思うんですけど……」
補足すると、賽の河原とは三途の川の河原である。河原は石が多い場所なので、川の向こうが花畑なら「賽の河原に誘われてる」と言うのは間違いである。
聖女は懲りずに、チーターに近づく。
「……勇者様、もちろん報酬も差し上げま
「がおー」
「ぬわーっ!?」
「聖女様っ! 聖女様早すぎますって! ほとんど何も言ってないのに食い気味で齧られているじゃないですか! 自殺したいんですかっ!?」
食肉目ネコ科チーター属。主にアフリカなどに生息している。日本ではサファリパークや動物園でその暮らしぶりを見れるけど、動画サイトでも十分な気がしてきた。
そもそもチーターと交渉はできない。勇者を国のために働かせるには契約が必須なのだが、チーターではその合意が得られない。
だってチーターに人間の言葉は分からない。聖女は多分いける、って思っているようだが無理な物は無理だ。契約しようとしても「なんかこの女、ベラベラ喋るけど結構おいしいな。もう一回齧り付こう」ってなって、デザートにされるのがオチだ。
聖女は何故か「大丈夫、勇者の契約ぐらいいけるいける!」って思っているようだったが、そもそも会話から無理だったのでこうなるのは当然の結果だった。
「……うん、諦めよっか! 別の召喚部屋で、別の勇者召喚しちゃおう……」
「結論遅ぇな!? なんで死にかけてようやくその方向に軌道修正したの!? もっと早くに諦めてたらもうちょっと傷は浅かったのにっ!」
「だって諦めるのは私の家の家訓じゃありませんわ。そう、我が偉大なる……偉大なる……あれ。私の家の家名ってなんだっけ? ……と言うかここどこ?」
「聖女様ーっ! 完全に脳にダメージ負ってるじゃないですかーっ!? 勇者召喚とかどうでもいいから、医療室に行ってくださいって!!」
「え、完全にノーダメージ……? あーよかった。重症に思われて医療室に連れて行かれるかと思いましたけど、ノーダメージなら続けても大丈夫ですわね」
「耳にもダメージ受けてやがる……。無理矢理連行したほうがいいかもしれない……」
その後、従者は色々な事を言って止めようとしたが、聖女は無理を通して召喚を続けることにしたのでそのまま隣の召喚室へ行くことになった。地位が高い人が無理を通すせいで下っ端がハラハラすると言う、よくある困りごとの典型である。
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「……で、次はどんな勇者を召喚するつもりなんですか聖女様」
別の召喚室に入って早々、従者は質問する。さっきの召喚で大分不安だったからだ。というか現在進行形で聖女の脳の状態が不安なので、この質問に正常に答えられなかったら即座に医療室に放り込むつもりだった。
「私は強い勇者に固執しすぎてしまった……。だから次は、王の資格を持つような勇者を召喚しようかと思います」
「王、ですか」
「そう。強さはそのままに、美しさ、堂々とした立ち振る舞い、優しい瞳。様々な強さを持ってこそ、始めて勇者なのです。ついさっき気付きました」
「もっと早く気付いてほしかったです」
「では、改めて始めましょう。なんか手足の感覚がちょっとずつ無くなってきましたから、急がないと」
「急ぐなら医療室へ急いだ方が良いと思うぞ……」
召喚室に描かれた魔法陣の前に立ち、聖女は祈りをささげる。その姿は美しいと評判だったが、正直今の状態だと血塗れすぎてて誰が見てもドン引きしそうである。
「……我が世界の神よ。そして異なる世界の神よ。我が国の危機を救うため、異界の戦士をここに降臨させたまえっ!!」
先ほどのチーターを召喚したのとほぼ同じ内容の呪文を唱え続け、そして……第二の勇者は予定通り召喚された。
第二の勇者は、まさに聖女の望むような勇者だった。
体は大きく強そうだが、見た目は美しく、堂々とした立ち振る舞いで、どこか優しい瞳をしていた。
それはまさに王のような勇者、むしろ百獣の王のような勇者だった。
もっとわかりやすく言うと……それはライオンだった。
「聖女様、あれ絶対やばいでしょ。さっきの勇者と雰囲気がほとんど一緒ですよ……?」
「我々の世界へようこそ、勇者様。私は貴方を召喚した聖女、貴方にはこの国を救ってほしいのです……」
「がおー」
「ぎゃーすっ!?」
「聖女様ー!? だから言ったのにーっ! なんでそう警戒せずすぐ近づくのかなーっ!?」
その後、聖女が9番目に召喚した勇者に噛まれて医療室に強制連行された辺りでなんか戦争が終結してたそうです。
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