第14話

「明日、みんなでお昼ご飯でも食べに行かない?」

 そう提案したのは七海だった。

 明日は土曜日。授業は午前中だけだ。昼からは自由な時間になる。土曜日の昼から街に繰り出して遊ぶのは、この学校の土曜の過ごし方の定番であった。

「いいんじゃないか」

 僕たちは高校三年生。そのうちにこんな風に遊ぶ余裕も無くなるだろう。だから、まだ四月の今くらいは、遊んでいたとしても罰は当たるまい。

「私も異議を唱える必要性はないと考えております」

「ミーもいくネ」

 凛とアンネもいつもの調子で同意する。

「えっと、あたしも行っていいんですか……?」

 おずおずとした調子で言ったのは、椿野だ。

「当たり前だろ。なぜ、おまえだけを仲間外れにすると思うんだ」

「いや、こんな風に誰かと遊んだ経験という物がほぼ無いものでして……」

「……そうか」

 僕はまだ椿野のことを何も知らない。こいつにはこいつなりの過去があったのだろう。

「聖ちゃんは何か用事ある?」

 七海が椿野に優しく声をかける。

「い、いえ! あたしは友達が一人もいないので、土曜日の午後はいつも暇です!」

「さらっと悲しいことを……」

 僕は椿野に同情する。

 僕は小さく溜め息をついて言う。

「こないだ言っただろ。僕たちはおまえの友達だ。だから、少なくとも一人も居ないという言い方は間違っている……」

「会長……」

 椿野は何故か何か言いたげな表情で僕を見ている。

 なんだ?

「どうしたんだ?」

「い、いえ。そう言っていただけて嬉しいです」

 こないだこいつは皆に「友達になってほしい」と言っていた。そんなこと言われなくても、僕たちは皆、友達だと思っていると伝えた。そのとき、椿野は泣いていた。それは確かに嬉し涙だった。にもかかわらず、まだこいつは僕たちに対して一歩引いている節がある。それは単に後輩だからというレベルを超えているように思えた。

「じゃあ、明日、授業が終わったら下駄箱に集合ね」

 七海がそう言って、僕たちは解散した。


 次の日。

 約束の時間に僕は下駄箱に向かう。

 すると、ぼく以外のメンバーは全員、既に揃っていた。

「悪いな、待たせたか?」

 僕がそう言うと――

「ううん! 今来たとこだよ!」

「お、おう」

 何故か七海が掴みかからんばかりの勢いで答える。

 そして、七海は満面の笑みで叫ぶ。

「やった! デートの待ち合わせっぽい会話が出来た! ななみ、かんげき!」

「はいはい」

 僕は七海をいつものように軽くあしらいつつ、他の面々の方を見る。

「ふむ。先輩が最後にやってきたのは、いわゆる巌流島という奴でしょうか。あえて、遅れてくることで我々をやきもきさせるという高等戦術を繰り出すというまさに先輩らしい――」

「はいはい」

 いつものようにめんどくさいことを言いだした凛もまた軽くあしらう。

「ミーたちも今集まったところネ。そんなに待ってないネ」

「ならよかったよ」

 僕がそう言うと――

「はっ! しまったネ。今、ミーは普通に会長さんと喋ってしまったネ」

「は? いや、普通にしゃべれば良いだろうが」

 するとアンネは沈痛な面持ちになりながら言った。

「いや……ナナミセンパイとリンが面白いボケをかましていたのに、次のミーは何もボケられなかったネ……」

「何を気にしてるんだ!」

 おまえらはバラエティに出ている若手芸人か何かなのか?

「ミーみたいなクズは、ハンバーガーの間に挟まれて死ぬのがお似合いネ!」

「どういう状況なんだ、それは」

「というわけで、お昼はハンバーガーがいいネ」

「おまえ、それ言いたかっただけだろ」

 なぜ、こいつらは全員普通に会話するという事ができないのか。

 そして、椿野は卑屈な笑みを浮かべて言った。

「すいません、あたしは本当に何のボケもありません……」

「だから、そんなもん気にする方がおかしいからな」

 こいつらの目指している方向が解らない。


(続く)

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