第12話

2ゲーム目

僕の手札

♦3 ♥4 ♥5 ♦5 ♠6 ♦6 ♦7 ♦9 ♣9 ♥10 ♠2

(くっ、まずいな……)

 今の僕は大貧民。ここから逆転しなければならないというのに手札は良くない。強いカードは少ないし、同じ数字が2枚以上のカードも弱いのが三組。8もない。

 しかも、ここで『献上』が発生する。

 大貧民である僕はもっとも強いカード二枚を大富豪に『献上』せねばならない。

 つまり、♥10 ♠2を凛に奪われるのだ。

 これは単に強いカード奪われるということ以上の意味を秘めている。それは、大富豪である凛に、僕は「J以上の強さのカードを持っていない」ということを教えることになるからだ。もう、手札をのぞかれる心配こそないものの、実質的に手札を見られているようなものだ。

 だが、この『献上』もデメリットばかりではない。

(凛から流れてくるカード次第では僕の手札が結果的に良くなる可能性は0では無い……)

 まさか、2やAを渡す奴は居ないだろうが、適当に渡した4や5が、4枚揃った結果、『革命』をおこせた、なんてこともある。まずは、凛から渡されたカードを見てから考えるべきだろう。

 凛は机の上を滑らせるようにして、二枚のカードを僕に渡す。

 そのカードは――

 ♣3 ♦4

 つまり、僕の手札は――

♦3 ♣3 ♦4 ♥4 ♥5 ♦5 ♠6 ♦6 ♦7 ♦9 ♣9 

 となる。

 決して強くは無いが、結果として、3、4、5、6、9の二枚出しが可能になった。この辺りを上手く使えば最下位脱出も不可能ではない。

 そして、また大貧民である僕から『場』はスタートする。

(一発目は重要だ……)

 僕は慎重に考えた結果――

 ♦3 ♣3

 を出した。

(どうせ全員二枚出しできるくらいのカードは持っている……)

 ここで ♦9 ♣9を出して勝負を決めようとしても10以上のカードを二枚持っているものが居たら、その時点で僕は終わりだ。

 実際、このあと、七海、アンネ、椿野、凛が全員二枚出しを行う。

 凛がAを二枚出した段階で全員がパス。

 そして、凛が♣7を出したところで僕のターン。

 悩ましいが、ここはパスを選択。確かに9を繰り出せば、一瞬『場』を握る事はできる。しかし、9程度なら他の奴らにすぐに奪われるだろうし、なおかつナインリバースが発生してしまう。

 僕はこの順番の方が都合が良い。

 なぜなら、今大富豪である凛が強いはずだからだ。

 ならば凛が再び1抜けする可能性は高い。凛が1抜けした場合、このままの順番だと次にいる自分が『場』を握れる。そこから、自分が持っているカードを連続で2枚出しし、誰も2枚出し出来ないという展開に持ち込むのがベストだからだ。

 パスした僕の次の七海は八切り。

 七海は3を二枚出し、それにアンネが合わせる。椿野、凛はパス。2枚出しできるカードがつきたのだろうか。

 アンネに『場』が回る。

 そのときだった。

「おい、七海。おまえ、アンネと目を合わせてないか?」

 僕は七海と目が合わないようにしながら声をかける。

「え?」

 七海はこちらを振り返っている。

「Oh、誤解ネ。ナナミセンパイと目なんてあってないネ」

 なぜかアンネが七海をかばう。

 まあ、それならいいんだが……。

 何か釈然としないものがある。

 そこからは七海とアンネの独壇場だった。

 アンネは3枚出しを行い、七海もそれに合わせる。他の誰も反応することはできない。

 七海は八切りなどを含め、そのまま上がりきってしまう。七海の次に手番が回ってきたアンネも同様。アンネはジョーカーを切って、そのまま残りの手札を捨てて、上がりきってしまった。

 2ゲーム目の1位は七海、2位はアンネということになった。

 そのあと、ゲームは進み、3位は椿野、4位、僕。そして、大富豪だった凛が最下位という結果になった。

「くっ……見誤りましたか」

 凛は表情は変わっていないが、どことなく悔しそうだ。

 僕は今度はゲームの結果を最後まで見てから指摘する。

「七海、やっぱり、おまえアンネの心読んだだろ」

「ええ、よ、読んでないよ」

 こいつは凛と対照的に嘘が下手である。

「ナナミセンパイはミーの心を読んでないネ」

「なんで読まれる側のおまえが心を読まれているかどうか判断できるんだ?」

「Oh、それは……」

 こいつもわりとあさはかである。

「だから、アンネはわざと七海に心を読ませて、七海と連携したんだろ? それで七海はテレパシー能力で返答したんだ」

 七海の能力はトランプでは最強クラスの力だが、テレパシーもかなり有効な力だ。

「つまり、おまえたちは手を組んで自分たちがうまく上がれるように互いのカードを出す順番を調整したんだろ?」

「で、でも!」

 アンネが立ち上がって反論する。

「そんな隣同士にいる二人で連携したからといって、うまくワンツーフィニッシュできるなんてうまい話がある確率はいかほどネ?」

「だから、おまえたちは机の下でこっそりカードを交換したんだろ」

「アイエー」

 アンネがやられたという顔をしている。いや、ちょっとは表情を隠せ。

「えっと、どういうことなんです……?」

 話についていけてない様子の椿野が僕に尋ねる。

「アンネの概念生命としての力は『変身』。姿形は自由自在。だったら、机の下で自分に『第三の腕』を生やすくらいたやすいよな?」

「ぴゅー」

 だらだらと汗を流しながら、不自然に明後日の方角を見ながら口笛を吹くアンネ。

「だから、おまえたち二人はテレパシーを使って連携して、アンネの『第三の腕』で、カードを互いに有利になるように交換したんだ」

 だから、こいつらは3枚出しなんて真似ができたんだ。

 次は七海が声をあげる。

「しょ、しょ、しょ!」

「落ち付け」

 こいつらほとんど態度で自白しているようなものだと思うんだが……。

「証拠はあるんですかあ」

 無理して悪ぶる子供のような口調で七海は反論する。

「不正をした証拠ならある」

「へ?」

 七海が間抜けな声をあげる。先程の凛のときのように証拠は無い、と言うと思っていたのだろうか。

「アンネ、なんでおまえジョーカーを持ってたんだ?」

「へ?」

「おまえはさっき貧民だったよな? だったら強いカードは富豪である椿野に渡していないとおかしいはずだ」

 アンネは3枚出しをした後に、ジョーカーを出して勝負を決めたのだ。ちなみに♠3は先に上がった七海が使いきっていた。

「椿野、アンネに渡したカードはなんだ?」

「♣7です……」

「なら確定だ。椿野があえてジョーカーを渡すなんていう妙な真似をしたのでなければ、アンネ、おまえがジョーカーを持っていることはありえないんだ」

 ジョーカーは最強のカード。最強のカードを上位者に『献上』するというルール上、貧民、大貧民がジョーカーを持っている時点でおかしいのだ。

「だから、アンネは七海からジョーカーを受け取ったんだろ? 七海はジョーカーなしでも上がれる、と判断したから協力者であるアンネにジョーカーを譲ってやったんだ」

 アンネはもう既に虚ろな瞳に涙を溜め始めている。

「そうネ……会長さんの言うとおりネ……ミーは不正を行ったクズネ……トランプで指を切って死ぬネ……」

「いや、そんなことくらいじゃ死なんけど」

 アンネはぼろぼろと大粒の涙を流している。

 また始まったよ……。仕方がない、慰めてやるかと思っていると――

「……アンネちゃんは一人でやったんだよね?」

「へ?」

 アンネは七海から声をかけられて七海の方を見る。

 七海は僕の方を見て言う。

「アンネちゃんがジョーカーを持ってたのは確かにおかしい。でも、それはアンネちゃんが最初からジョーカーを持っていたのに、聖ちゃんに渡さなかったっていう可能性の方が高いんじゃないかな?」

 アンネがしゃくりあげながら呟く。

「いや、ナナミセンパイにもらっ――」

「――アンネちゃん」

「ひいいいいいいいいいいっ!」

 七海に凄まれ、アンネは大きな泣き声をあげる。あの様子だとテレパシーを使って何か残虐なイメージでも送り込まれたのだろうか。

「変身能力を使ってテーブルの下でカードのやり取りをしたなんて話よりは、よっぽど現実的な仮定だと思うんだけど」

「まあ、確かにな……」

 七海とアンネの連携が取れていたのは偶然。実際そういうこともあるだろう。アンネ一人がルールを破っていたとする方が話の筋は通りやすいのも事実。実際、こいつらがテレパシーで会話していた証拠は無い。

「だから、チョンボはアンネちゃん一人ね」

「まことに申し訳ありませんでした……」

「それでいいのかよ……」

 こいつら二人の力関係はいったいどうなっているのだろうか。

 アンネはチョンボで最下位に転落。それを踏まえた結果は――

2ゲーム目結果

大富豪 七海

富豪  椿野

平民  僕

貧民  凛

大貧民 アンネ


得点      合計

僕   1 3 4

七海  3 5 8

凛   5 2 7

アンネ 2 1 3

椿野  4 4 8


(続く)

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