第10話
「ルールを確認するぞ」
ここまで来たら僕も腹をくくらねばならないだろう。僕はトランプのルールをきちんと確認することにする。
「行うゲームは『大富豪』だ」
『大富豪』。地域によっては『大貧民』とも呼ばれるらしいが、ルールは同じだ。まず参加者全員にトランプが均等に配分される。その後、トランプを順番に出していき、最初に手札が無くなったものが勝利というゲームだ。
トランプを繰り出す条件は、「前のプレイヤーが出したカードよりも強いカードを出すこと」。
カードの強さは、3が最低であり、そこから数字が上がるごとに強くなっていく。K、つまり13の次に強いのはA、つまり1となり、それよりも強いのが2。少しややこしいが、3が最弱、2が最強ということだ。
また同じ数字のカードは二枚以上同時に出すことができる。たとえば、ハートの4とスペードの4が手札にあるとき、二枚を同時に出す事ができる。また、自分より前の人間が出したカード、つまり、『場』にあるカードが2枚以上同時に出されている場合、それよりも強いカードを同じ枚数だけ出さねばならない。ハート、クローバー、ダイヤの6が場にあるならば、自分は7以上のカードを三枚以上同時に出さねばならないのだ。
そして、誰もそれ以上強いカードを出せなくなった時は『場』は流れる。流れた場合、最強のカードを出して『場』を流したものから、またカードを順番に捨てていくことになる。
「基本ルールは全員知っているだろう。問題はローカルルールだ」
そう、『大富豪』とは、ゲーム自体はシンプルなのだが、ローカルルールが異様に多い。昔、少し興味をもって調べたところ、かなりマイナーなものまで含めれば、100はくだらないルールが存在する。
「ローカルルールは最初に確認しておかないとな」
侃侃諤諤の議論の結果、採用されたルールは次の様になった。
・8切り
『場』に8が出た瞬間に『場流れ』が発生する
・9リバース
9が出されたとき、プレイヤーの順番が逆回りになる。
・ジョーカー
2よりも強い最強のカードとしてジョーカーを採用する。ただし、ジョーカーを最後の一枚とした場合は負けとなる。
また、他のどのカードの代わりに使ってもよい(他のカードと同時に出すことができる)。
・スペードの3
例外として唯一ジョーカーに勝てる。ただし、対ジョーカーの時以外は、通常の3と同じ最弱のカード。
・革命
同じ種類のカードを4枚(ジョーカー含み可)を同時に繰り出したとき、カードの強さの価値が全て逆転する(3が最強となり、2が最弱となる)。
比較的メジャーどころのルールだ。
あとは「都落ち」という1位だった人間が、他の人間にトップを譲り渡した瞬間に最下位の大貧民まで落ちることが確定するというルールもメジャーだが、今回は採用しなかった。
今回は5ゲームを行い、全ゲームの合計獲得点数で順位を決定する。
1位 大富豪 5点
2位 富豪 4点
3位 平民 3点
4位 貧民 2点
5位 大貧民 1点
今回は『献上』もありだ。
『献上』は、「2ゲーム目以降、大貧民は二枚、貧民は一枚、自身の手札の最強のカードを選び、大富豪と富豪のカードと交換する。大富豪と富豪は、何のカードを渡してもよい」というものだ。
つまり、少し考えれば解るが、1ゲーム目で大富豪になったものは著しく有利だ。なぜなら、下位の順位ものからより強いカードを奪えるのだ。下位の者は弱いカードで強い大富豪を倒さねばならない。
このゲームは金持ちが栄え、貧乏人は苦しみ続ける、社会の縮図のようなゲームなのだ。
なにはともあれ、これですべてのルールは確認したことになるのだが、僕はもっとも大事なルールを取りきめなければならない。
「おまえら、能力の使用は禁止だ」
「ええー」
七海が不満そうな声をあげる。
「当たり前だ。特におまえの能力は反則級だ」
心が読まれては戦略も糞も無い。
「ちぇ……」
七海が強硬にトランプに持ち込もうとしたあたり、こいつ超能力を使って勝つつもりだったな。油断も隙もない。
「わかったよお。ななみの心を読む力は相手の目を見ないと使えないから、ななみに目を合わせなければ、心は読めないよお」
間の抜けた声で自分の能力の弱点を晒す七海。
「それが本当だという証拠は?」
それこそ七海が嘘をついていたとしても、僕にはそれを確かめる手段がない。
「そこは信頼だよお。ななみはこうちゃんを信じてるし、こうちゃんもななみを信じてくれるでしょう?」
「……わかったよ」
絶対命令権がかかっているとはいえ、所詮はお遊び。ここで熱くなっても仕方がないだろう。念の為、七海と目は合わせないように注意しよう。
「私も魔法の使用は禁止というわけですか。まあ仕方ありませんね」
凛は無表情で言い放つ。
「おまえの力も何気に反則級だからな」
相手に乗り移ってカードを確認すれば、圧倒的な情報アドバンテージを得ることができるからだ。
「まあ、私の能力は取りつかれている相手は意識を失うので、もし、私が能力を行使した場合はすぐにばれますよ」
「ふむ……」
おそらくこの言葉には偽りはないだろう。事実、以前魔法が僕にかけられたときは、僕は意識を失っていた。
次にアンネが手をあげて発言する。
「念の為に言っておくと、ミーは自分の姿を変えられるだけだから、今回のゲームでずるい真似は無理ネ」
確かに、あくまで変身能力ならば、トランプとは直接関係しないだろう。
そして、僕は椿野を見る。
「あ、あたしは……」
「………………」
「ツインテールが動くだけですから……関係ないですね……へへ」
すごく卑屈な笑みを浮かべていた。
そして、戦いの火ぶたは切って落とされたのだった。
(まだ続く)
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