第9話

「八切り、ジョーカー、三枚出し……でないか? なら僕の勝ちだ……!」

「く、流石は先輩。乾坤一擲、天王山、天下分け目の大決戦。ここぞというときにに決めてくれる」

「Oh、勝てない……ミーみたいなクズは、トランプの角に頭をぶつけて死ぬべきネ……」

「まだ、ななみは……ななみは負けるわけにはいかないんだよ……!」

「くええええええええええええええええええええええええっ!」

 響く奇声に、飛び交う怒号。阿鼻叫喚の嵐とはまさにこのこと。

 僕たちは意地とプライドをかけた戦い――

 そう、トランプに興じていた。


 話は一時間前に遡る。

 きっかけは七海の提案だった。

「聖ちゃんの歓迎パーティーをしようよ」

 そう言われて僕は気がつく。

 そういえば、今年はまだ生徒会の新入りである椿野への歓迎会を開いていなかった。全員の正体を明かされたゴタゴタで話が流れてしまっていたのだ。

 ちなみに、生徒会役員を使い、権力を握る決心はついていない。現状、保留状態だ。やらないなら、やらないとはっきりと言い切ってやるべきなのだろうが、それも出来ずにいた。我ながら優柔不断である。

 それはそれとしても、椿野の歓迎会はきちんとやるべきだろう。

「そうだな、やろう」

 僕の言葉に七海は、

「あ、パーティーと言っても、乱交パーティーじゃないよ」

「誰がそんな勘違いするんだ」

 そんな発想に至るのは、七海くらいのものである。

 次に発言したのは、椿野だった。

「そんな、悪いですよ」

 椿野は恐縮した様子で僕を見ている。

「あたしなんて公園に落ちてるBB弾ほどの価値もないんですから」

「おまえの卑屈さはなんなの?」

「そんな歓迎会だなんて……」

 椿野はどこか嬉しそうに言った。

「全校生徒を招いて、あたしの生徒会役員就任披露パーティーを開くだなんて!」

「なんか話がでかくなってんぞ」


「え? 就任披露パーティーじゃないんですか?」

「だから何度も言うが、生徒会にそんなでかいパーティーを開ける力はない」

「記者会見も無しですか?」

「どこの記者がやってくるんだ」

「そんなあ……」

 椿野は本気で肩を落としている。

「まあまあ、仲間内だけの歓迎会というのもなかなか乙なものですよ」

「レッツパーリー、ネ!」

 淡々と話す凛も、ハイテンションのアンネも、異存はないようだ。

 こうして、僕たちは椿野の歓迎会をする運びとなったのだ。

 だが、あんな地獄が待ち受けていようとは、僕たちはまだ気づいていなかったのだった。


「トランプでもやろうよ」

 ポットを使ってお茶をいれ、購買で買ってきた菓子をつまんで、駄弁っていたときだった。そろそろ話題も一段落。僕の背後にある窓からは鳥のさえずりが聞こえていた。

 そんなときに、七海は自分の鞄からトランプを取り出して言ったのだった。

 確かにだらだらと喋っているよりも、一緒にトランプでもした方が、親睦は深まるかもしれない。

 僕は軽い気持ちで同意する。

「じゃあ、やるか」

 瞬間、七海は目をぎらりと輝かせて言った。

「じゃあ、勝った人の命令をみんなが聞くってことにしよ」

「は?」

「拒否は許されない、絶対順守の命令権を一つ得るということで」

 嫌な予感がする。

「いや、そんなのダメ――」

「素晴らしいご提案だと思います、七海先輩」

 表情一つ変えないのに、どこか嬉々とした様子で、凛が同意し、

「ミーにも、異存はないネ!」

 にやりとした笑みを張り付けてアンネも賛成する。

「あ、あたしはどちらでもいいです……」

 椿野はおずおずと恭順の意を示す。

「いや、ダメだ」

 僕はもう一度宣言する。

「おまえらに命令権なんて与えたら、ろくでもない命令しかくださないのは、目に見えてる」

 僕が全裸にされるくらいで済めば、まだいい方。いったいどんなとんでもない命令を下されるのか、想像もつかない。

 七海は言う。

「全力で拒否するよ!」

 そして、七海は叫ぶ。

「ななみが勝ってこうちゃんに【バキューン】【バキューン】で、【バキューン】を【バキューン】してもらうんだからあ!」

「うおおおおお、全力で規制音を入れろぉ!」

 到底、他人には聞かせられない言葉が乱舞してしました。

「おまえら生徒会長である僕に従うんじゃなかったのか!」

 凛は真剣な表情で言う。

「王が道を誤ったときは、諌め、正すのもまた、臣下の役目」

「なにちょっとカッコいいこと言ってんだ!」

 別に僕は道を誤ってないし。

「会長さん、往生際が悪いネ。覚悟を決めるネ」

「えー……」

 こうして半ば押しきられる形で、絶対命令権を掛けたトランプ勝負が始まったのだった。


続く

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