第8話
『そして、僕たち生徒会の『現実』を塗り替える戦いが始まった。』等とノリノリで言っておいて、大変申し訳ないが――
「やっぱり、おかしいだろ……」
全員の正体を知ったのが昨日。その場では、生徒会役員の力を使って権力を得るという提案に乗り気になっていた。だが、一晩寝て考えると、自分がやろうとしていることが、あまりに下らなく思えてくる。
超能力やら魔法やらが使えるというのに、やろうとしていることが、『学園で権力を握ること』。ゲームをチートツールで改造したのに、パラメーターを少し弄っただけで満足しているようなものだ。要は、しょぼい。
では、世界征服でもすればいいのかといえば、そういうものでもなくて――
「こうちゃん、まだ迷ってるの?」
心が読める変態超能力者の菊川七海が僕に問いかける。他の三人も僕を見ている。今日は定例会議でもないのに、五人の生徒会役員が揃い踏みだ。
「なあ、改めて全員に聞きたいんだが」
僕は全員の顔を見渡して問う。
「おまえたちは学園での権力とやらが欲しいのか?」
「『――力が欲しいか』という奴ですね」
僕の問いかけに返答したのは、台詞が長いむっつり魔法使い桜田凛だ。
「そんな中二染みた問いかけではないが」
「僭越ながら、私が生徒会役員を代表して先輩の御言葉に返答することをお許しいただけるのなら」
相変わらずめんどくさい前置きで凛は話し始める。
「別に我々は特別、権力を望んでいるわけではありません」
「ならなんで、僕に権力を握るように、煽るようなことを言う?」
凛は眉ひとつ動かさずに言う。
「それが先輩の望みであれば従いますし、そうでなければ、なにもしません」
「それが解らないんだよ」
僕は率直に問う。
「なぜ、おまえたちは僕に従うなどと言う?」
「役員が会長に従うのは何もおかしくないと思うんですけど……」
どこかおずおずと探るような目で僕に返答したのは、頭のいかれた神様(ツインテール)の椿野聖だ。
「いや、そんな言葉では納得できない」
僕は続けて言う。
「お前らは生徒会長をどれだけすごい存在だと考えているのか知らんが、生徒会長なんて所詮、適当な選挙で選ばれた雑用係のリーダーでしかないぞ」
全員が黙って僕の話に耳を傾けている。
「また僕がそれこそ魔王みたいな力でも持っているなら別かもしれんが、僕は紛うことなき一般人だ。おまえらに指図できるほどの力なんぞ、何もないんだぞ」
僕の問いかけに応じたのは、躁鬱の激しい概念生命変身娘のアンネリーゼ・ローズ。
「Oh、会長さんは何の力もないネ?」
「だから、そう言ってるだろ」
「でも、股間にぶら下がっているものに関しては、魔王級ネ」
「アウトォ! その発言アウトォ!」
七海がぶっちぎりでイカれているので、陰に隠れているが、この娘の貞操観念も大概である。
七海が、「うんうん」とどこか満足げに頷いている。
「まあ、魔王級のモノが無くても、ミーは会長さんスキーなので、命令には従うネ」
「ななみは魔王級のモノをぶちこ――」
「黙れ」
僕はドスを利かせた声で七海の発言を遮る。
しかし、七海は意に介した様子もなく呟く。
「ああ……つれなくされるのもまた……いい!」
こいつは、もうほんとうにどうしたものだろうか。
「痴女のせいで話が逸れたが」
僕は話を本筋に戻す。
「だから、なんで……その……おまえらは、僕に対する……好感度がそれほど高いんだ?」
確かに、幼馴染みの七海は言わずもがな、凛とアンネに関しても一年以上の付き合いだ。それなりに仲良くやってきたし、僕だって別にこいつらのことが嫌いなわけではない。だからといって、異能の力を僕のためにふるうとまで宣言するのは、さすがに違和感があるのだ。まだ、知り合って一週間やそこらの椿野に関しては言うまでもない。
「先輩、差し出がましいことかもしれませんが提言させていただけば、その話を今するのは時期尚早かと」
凛は僕の目を見て言う。
「なぜだ?」
「なぜなら」
凛は眼鏡をくいと押し上げて言った。
「各自の過去編はもう少し後にとっておいた方が面白いからです」
「物語上の都合?!」
おまえはどの視点からものを見ているんだ。
「まあ、少なくとも言えるのは、各自に先輩に忠誠を誓う理由があるということです」
「まあ、おまえら三人に関しては、百歩譲るとして」
僕はおどおどと縮こまっている椿野に目をやる。
「椿野、お前に関しては知り合って日も経たない。どうしておまえは僕に従うなどと言う?」
それが最大の疑問だった。少なくとも椿野に関しては、僕との関係性が薄すぎる。
椿野はなぜか湖の底をのぞきこもうとするような深い瞳で、呟いた。
「やっぱり、覚えてないんですね……」
「え?」
どういうことだ?
「おっと、これはあからさまな伏線ですね」
「だから、おまえはどこの視点からものを言ってる?」
凛の入れるちゃちゃが地味にうざい。
「まあ」
七海が全員を見渡し、話をまとめる。
「ここにいるみんなが、こうちゃんのことが大好き、ってことだよ」
「………………」
こいつのこんな発言には慣れている。慣れているんだが、改めて言われるとやはりこそばゆいものがある。
「……こうちゃんの童貞を奪うのはななみだけど、ね」
「ここでそういうことを言わなければなぁ……」
七海は全員を牽制するように凄みを利かせていました。
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