第68話 手紙

 手紙を書きます。時間がありません。できるだけ手短にいいます。あなたのことが好きです。今、十億円を超えるお金をぼくはもっています。できれば、このお金を使いあなたと結婚生活でも数十年間送ることができれば幸せだと思うのですが、残念ながら、ぼくは今すぐにこのお金を使ってしまうつもりです。一銭残らず、慈善事業に使うつもりです。いくらなんでも、慈善事業に使うお金の一部をぼくが着服し、あなたとの結婚費用に使うような私腹の肥やし方をしては、せっかくのぼくの行う慈善事業が正しく行われるか怪しくなってしまいます。だから、ぼくは絶対に今持っているお金を一円残らず慈善事業に使います。後には一円も残りません。ぼくは人生の中で人を好きになったことなど一度もないのです。そうです、今から会うお見合い相手の女などはまったく好みではありません。それこそ、昔、あなたの処女を奪ってしまった時の方がどれほどドキドキとして胸がときめいていたかわかりません。そうです。思い出しましたか。ぼくは昔、あなたの処女を奪ったあの悪い男です。今からぼくは慈善事業にお金を寄付し、お見合いの美人の誘いを断らなければならないのです。そんな人生の岐路に立っているぼくの目の前に急にあなたの姿が見えて、かつての出来事を思い出し、あるわけないけど、あなたがもしかしたらぼくを好きでいてくれるのではないかと思い、急いでその場にあった紙にあなた宛ての手紙を書いているところです。もう時間がありません。今、命を狙われているのです。十億円以上のお金は慈善事業に使います。強姦魔より。

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