第33話 死を覚悟したら買うロボット
おそらく、もうすぐおれの人生は終わるだろう。そりゃ、ちょっとはいいことがあったけど、おれの人生はずっとひとりで愚痴っていた。不満ばかりだった。自殺未遂したことだってある。
死を覚悟したおれは一個のロボットを買った。安物のどこにでもあるロボットだ。
「何をしているんだ?」
と聞くと、
「わたしは涙を流しています」
と答える。
そして、実際に涙を流している。だあだあ、だあだあ、と滝のように涙が流れている。
涙は、受け皿の穴に流れこんで、電気仕掛けでまぶたのところまで上昇して、また、だあだあ、だあだあ、涙を流している。
おれの最後にふさわしいロボットだ。誰にも必要とされず、誰にも喜ばれず、生きていた。もうすぐ、それも終わるだろう。これがおれの人生だった。無機質な簡単な動力仕掛けで、ただ涙を流すだけのロボット。そのロボットに看取られながら、最後を迎えるのがおれのような負け犬にはふさわしいのだろう。
負けだ。おれの人生は負けだった。悔しい。何人か、性格の悪いやつらの名前が浮かび、あいつらが惨めな人生を送っていたら、胸がすっとするだろうなあ、とか考える。おれを幸せにしなかった世界そのものが憎い。
生まれてきて、あんまり幸せじゃなかったよ。この世界、生まれてきても、あんまり生きる価値がないよ。ぼくのわずかな喜びは、妄想と区別がつかない遠い記憶にいってしまった。ぼくは、生まれてきて、あんまり嬉しくなかったよ。
他の子供たちがみんな、そんなことを思ったら、どうなるんだろうなあ? というか、もう、みんな、そう思っているのかなあ? 人類は、文明を築かなかった方が幸せだったのかなあ?
ロボットがだあだあ、だあだあ、涙を流している。
そんなの嘘だっていってくれよ。誰か、そんなの嘘だって教えてくれよ。ぼくは、妬みでこの世界がむちゃくちゃ滅んじゃえばいいんだと思ったりなんかしたりしたくないよ。
ぼくの人生の最後を看取るロボットが、ただ、涙をだあだあ、だあだあ、流していた。滝のように、ひねった蛇口のように涙はどぼどぼと流れつづける。
ぼくが死ぬまで。死んで、故障するか、ぼく以外の誰かに片づけられるまで。ロボットは涙をだあだあ、だあだあ、流している。
ただ、涙を流している。
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