第31話 凡庸な告白場面
「あなたが大好きです」
放課の休憩時間に女子に呼び出されてみれば、なんなのだろうかと思えば、そんなことをいわれたのである。
はて。ぼくが好きだということは、これは恋の告白だろうか。交際の宣言と受け取ってよろしいのではないだろうか?
そこで、ぼくは答えに困る。まったくこのような事態は想定していなかったため、ぼくの頭の中でイメージトレーニングができていない。はたして、何と答えたら、この場合適切なのだろうか。この返事ひとつに、ぼくの学園生活が薔薇色になるか、寂れた寂しいものになるかがかかっているのだから重要だ。
例えば、もし、『そうだね。ぼくは天使のような美男子なのだから、きみがぼくに惚れるのも無理はない』などと返したらどうだろうか。
ぼくの第一観では、これがあるべき返答なのだが、いや、しかし、少し冷静になって考えるべきではないだろうか。確かに、この台詞は、自己アピールと強気な姿勢を見せて男らしいが、女子生徒がぼくに惚れるのが当たり前だという言い方は、女子生徒の自主性を傷つける発言なのではないだろうか。
いや、答えるのにあんまり時間をかけていては、女子生徒があきらめてどこかへ行ってしまうかもしれないではないか。それはよくない。だから、できる限り、素早く返答をすべきだ。
「ぼくも大好きさ、マイハニー」
などということばが口から出てきたのだが、果たしてこの台詞でよかったのだろうか。マイハニーとちょっと異国情緒を醸し出して、のりのりで迫ってみたのだが、これが成功したかどうかは判断の難しいところだ。
「あの、いえ、ちがうんです。マイハニーとかいう意味で好きなんじゃなくて、飼育するペットとして好きだという意味です」
「おっと、お嬢さん、ちょっと意味がわからないぜよ。きみにペットとして扱われるとなんか得なことがあるのかな?」
「はい。毎朝、キャットフードを差し上げたいと思っています」
「あの、それっていじめだよね?」
「そうともいいますね。いじめといっても、まちがいではないです。ペットとして飼育できたら、それ以上の望みはないんで」
ふう。話がおかしな方向に進んでいる。ちょっと原点にもどろう。
「そうだね。ぼくは天使のような美男子なのだから、きみがぼくに惚れるのも無理はない」
「いいえ。そういう意味での好きではないです」
「いじめですか」
「はい。そうですね。みんなには内緒にしてね。うふ、きゃぴっ」
殺してやろう。男児たるもの婦女子には手をあげてはならないと教えられて育ってきたが、それにも限界がある。
いや、しかし、ちょっと考え直すのだ。今まで女子とたいした会話もしたことがなく学園生活を送っているぼくには、これはむしろ、女子生徒との交流を増やすいい機会なのではないだろうか。
「いじめですよね」
「はい。そうです。うふ、きゃぴっ」
「あの、この交際はお断りさせていただくということでよろしいでしょうか?」
「ええ、あたしをふるの。信じられない。なんて卑劣な男」
いじめられるよりは、無関心のがよい。
「きみとはダーリン、マイハニーと呼び合う仲にはなれそうにないからね」
「下僕と女王の関係になりたいと思ってるんだけど」
「お断りします」
というわけで、女子の呼び出しは別になんてことがなかった。
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