第27話 儚い悲劇
通学路で立ち止って、突然、楓がいった。
「あたし、十五歳までしか生きられないの。あたし、今日、死ぬの」
ぼくは意味がわからずに、茫然とした。彼女のいった意味を反芻する。楓は、十五歳までしか生きられない。今日、楓が死ぬ。まさか。
そんなことあるわけない。
「死んだら、亡霊になって遊びに来なよ」
ぼくがいうと、楓は少し目に涙を浮かべた。
「無理。たぶん、あたし、地獄に落ちるから」
さすがに様子がおかしいと、ぼくは真剣にたずねた。
「どうして、楓は死ぬんだ? 死んで何をする気だよ」
楓の目の涙が少しづつふくれあがっていく。
「あたしの残りの命を神様に捧げれば、あたしたちの子供の頃の運命を操ってきた座敷童の正体を教えてくれるって。それで、あたし、約束したの」
ぼくは驚いた。ぼくたちの運命を操っていた座敷童? 誰だ、そいつは? それで、わかるのか、なぜ、ぼくらが子供時代に親兄弟姉妹を皆殺しにされ、孤児として孤児院に入り、貧しく貧しく生きてきたのかが。
十年前、連続大量殺人事件が起きた。ぼくと楓は、その殺された二十六の被害家庭の生存者六人のうち二人だ。
その謎を解くのに、命を差し出したのか?
「誰と契約したんだ? そんな契約できるやつは誰だ」
「神社の亡霊」
「座敷童って、近所のガキの一人か? そいつがぼくたちの家族を殺したのか」
「たぶん、そう。大人を操って、殺したんだって。催眠術が使える子供らしいよ」
ぼくは息を呑んだ。
「約束する。その座敷童の正体がわかったら、絶対にぼくが復讐は果たす」
楓は笑った。
「勝てるわけがないじゃん」
ぼくはこぶしをきつく握りしめた。悔しかった。確かに、どう考えても、五十人以上を殺した殺人犯に勝てるわけがない。しかも、催眠術を使うんだ。
「神社の亡霊にぼくも会わせろ」
「どうするの」
「ぼくの命を差し出して、その座敷童を殺す」
「うん」
そして、ぼくらは神社に行った。
神社の森が恐ろしく暗かった。闇だ。光の差し込まない闇だ。それが渦を巻いている。
「亡霊さん、亡霊さん。約束通り、教えてちょうだい。あたしたちを操っていた座敷童が誰なのかを」
神社の奥の森が白くゆらめいた。
「生存者六人のうちの一人、柿田小枝だよ。おまえの友だちのふりをしていただろう」
楓の目の瞳孔が開いた。
小枝が、ぼくらを操っていた? 友だちのふりをして。被害者のふりをして。自分の親兄弟姉妹も殺し。孤児として生きていたのか。
小枝は確かに、運がいい。だが、小枝はずっと泣いていた。ずっとずっと泣いていた。人の心が聞こえてくるので、怖くて泣いていたんだ。小枝は、悪くない。小枝は、ぼくらの敵じゃない。
「教えてくれてありがとう」
「楓。楓」
楓の体から生気が落ち、魂が抜けたように崩れ落ちた。
楓が死んだ。
そんな、そんな、そんな。小枝は、楓と仲良くやっていけるはずだ。
「小僧、おまえも何か用があるのだろう。口に出してしゃべってみたらどうだ?」
「亡霊よ、ぼくの残りの命を捧げたら、願い事を叶えてくれるのか?」
「そうだ。叶えてやろう。座敷童を殺すのか? それくらいたやすい願いだぞ」
「いいや。ぼくの命を捧げるから、楓を生き返らせてほしい。できるだろうか」
「無理だな。死んだ者を生き返らせるほどの力はわしはもっておらん」
「なら、せめて、小枝に伝言を伝えてくれ。ぼくと楓から、『ありがとう。おまえの思い通りに生きればいい』と」
「承知」
そして、ぼくは死んだ。小枝は、十年後、世界を征服した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます