第25話 船
陸に一隻の船があった。
「進水するのに失敗したんだってよ」
「バカじゃねえのか」
町のみんなはそういうが、船の主はいたって平気だ。
「船長と呼べ」
と威張っている。
船長は、船に住んでいるが、町の食堂に酒を飲みに来る。
おれは、船長に聞いてみた。
「なあ、船長。おれ、知ってるぜ。船長は、いつか洪水が来ることを予見して、あの船を作ったんだろ」
「ああ、洪水だあ? なんでよ」
「知ってるんだぜ、おれ。船長は、いつか、世界が洪水で海に沈む時に備えて、船に住んでるんだろう。世界が海に沈む時、船長の家族だけが助かり、全人類の祖先になるんだろ」
「ああ、全人類の祖先だあ?」
「おれ、知ってるんだぜ。船長がすごい賢い人だってこと。船長が世界一の賢者だっておれ知ってるんだぜ」
「まあ、昼と夜のことで、このおれにわからねえことはねえがな。がははははっ」
そしたら、特務機関というものができて、ありとあらゆる船を取り壊すといい始めた。特務機関は世界中の船というものを壊してしまった。
船長の船も壊された。
次の日も、船長と酒を飲んだ。
「おれ、知ってるんだぜ。特務機関は、神が船長を全人類の祖先にするのを阻止するために、船を壊したんだぜ。これは、神と船長の関係に政府が介入しようという深淵な陰謀なんだぜ。特務機関は、世界中の船を壊したと発表した。だけど、たぶん、どこかで船が見つかるぜ。それが神の計画だからな。船長はすべてお見通しだろ」
「がははははっ、そうよ、すべてお見通しよ」
そんな風にして飲む酒は美味かった。
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