第17話 おれには心がない、それでもおれは叫ぶ

 あるところにどでかい機械があった。山を掘り返す重機だ。トンネルを掘る機械だ。このトンネル掘り機ってのは、とにかく、鈍感で騒音をがなり立てる無粋ものだ。風光明媚ってものがまるでわかっちゃいねえ。この重機に午後の優雅な紅茶でも招待しようものなら、たちまち、素敵な陽光輝く休憩時間が、吐き出したようなゴミクズの山で庭を埋められるのが関の山だ。この重機は、まるで、社交的な人付き合いができない。それがおれだ。

 いつからか知らないが、貧乏な母子家庭のくそガキがこの重機のところに遊びに来るようになった。そいつが男だったのか女だったのかもおれにはわからないが、そのガキは、おれの体を遊び場にしていた。もちろん、そんなことを大の大人が認めるわけはなく、くそガキは内緒で約束を破っておれに会いに来るのだ。

 くそガキは、どこで手に入れたのか、おれの起動鍵を使っておれを運転しやがったんだ。休憩時間の人のいない夜に、トンネル掘り機が轟音をあげて土砂を掘り始めた。くそガキは突っ走る。くそガキは、トンネル掘り機で自分から金をたかったいじめっ子を轢き殺すつもりだったのだ。何を考えているのかわからねえ。くそガキには、おれしかなかった。だから、おれを使った。くそデカいトンネル掘り機が轟音をがなり立てて、いじめっ子の家に突撃だ。くそガキはいちばん威張ってるやつを狙った。トンネル掘り機が掘り進んで、いじめっ子の家は木端微塵に砕け散った。

 だが、くそガキはブレーキが下手だった。トンネル掘り機を止めることもできやしねえ。ブレーキの遅れたトンネル掘り機は、周囲の住宅を全部壊しちまった。なあに、気にすることはない。ここに来る通り道も全部ぶっ壊していたんだから。だが、死者四十七名だ。その時はまだそんなことはわかっちゃいなかったが、くそガキはこのままじゃまずいと思って、運転席を降りて、素手でトンネル掘り機を止めようと襲いかかって来た。

 くそガキはトンネル掘り機と相撲をとって轢き殺された。

 おれには心がない。それでも、おれは叫ぶ。

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