第13話 海へ遊びに

 ぼくの平凡な学生時代にも、少しは起伏に富む事件があるもので、人生を賭けるにたる機会が一度は巡って来るものだ。

 ぼくは、学級の男友達に誘われて、女の子の参加する日帰り旅行に参加したのだ。男四人、女二人の日帰り旅行だった。ぼくらは海に行ったのだ。

 まだ、高校生だったぼくらにとって、海はそれなりに魅力的な場所だった。ぼくは中学生の時に海に友だちと遊びに行ったことがあるから、経験があるのだけど、中には、海に遊びに行くのが初めての男もおり、非常に焦っているようだった。

 どちらにせよ、女の子の参加する日帰り旅行に参加したのは、ぼくは生まれて初めてだったのだ。こんな嬉しいことはない。

 海水場まで行くバスの中で、ぼくは一人浮いていた。女の子二人を、男三人が質問責めにしていた。男たちははりきって、女の子二人に話しかけていた。

 ぼくは何を話していいかもわからず、黙っていた。そんなぼくのことを女の子二人は、おそらく気持ち悪いと思ったにちがいない。

 信じられないことに、男たち三人は、女の子二人の悪口をいい、からかっていた。女の子二人は怒ったり、笑ったりしていたけど、その感覚がぼくにはわからない。ぼくは相変わらず、何を話していいのかわからない。

 海に着いた。ぼくらは水着に着替えた。女の子の着替えの場面を、男たちがのぞき見したような気がするが、ぼくは誘われなかった。着替えをのぞき見されても、女の子二人は笑っていたようだ。ぼくは、おっぱいを見ることができなかった。

 海。

 何をしていいか、わからない。男たちはビーチバレーを始め、女の子二人と遊んでいた。いつの間にかぼくは仲間外れになっていた。

 ぼくが一人で海を泳いでいると、女の子がぼくに「がんばれー」と声援をして、笑っていた。それが本当の応援なのか、バカにしているのかわからなかったから、ぼくはつまらなかった。

 夕方になるまで、ずっとぼくらは海にいた。

 ぼくが泳ぎ疲れて、一人で海辺に座っていると、女の子が一人来て、ぼくに話しかけた。初めての二人きりだった。

「けいたくんは、女の子のことあんまり好きじゃないのかな?」

 女の子はそんなことをいった。完全にぼくのことをバカにしている。ぼくだって、女の子は大好きだ。だけど、何を話していいかわからない。下手なことを話したら、嫌がってどこかへ行ってしまうかもしれない。

「そんなことはないよ」

 ぼくはそういった。

「好きな女の子とかいるの?」

「いないよ」

「初恋の子の名前、教えて」

 ぼくは彼女から目をそらして、いった。

「ぼくは、女の子のことを好きになったことがないんだ」

「つまんない子」

 何が子だ。子供扱いしているのか。ぼくはむっとした。

「子供が異性を好きになるとか、あれは嘘だよ。性欲はあるけどね」

「気持ち悪いい」

 女の子はそういって、ぼくから去って行った。

 これがぼくの青春だ。

 恋愛なんて滅んじゃえばいいんだ。

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