第14話 二十四の涙

「十八か二十四か。ここは難しいなあ」

 翔太がくだらないことをくっちゃべっている。

 ぼくは、興味もなく無視をする。翔太のくだらない話に付き合うくらいなら、美少女の奈々ちゃんの姿を見ていた方がマシだ。ぼくは、奈々とたわいもない会話を二、三する。どうでもいい社交辞令のような会話だ。これといって気の効いたことはしゃべれない。

「このように日本の子供は愚かなので、軽挙妄動とした雑談で日々の日常を埋め尽くしているんだ」

 ぼくは奈々にそんなことを話す。

「ええっ、いったい翔太くんと直人くんはいったい何の話をしているの?」

 奈々には難しすぎて伝わらないらしい。いや、わざと伝わらないように話しているのだ。

「十八か二十四か、ここが難しいなあ」

 翔太がまたくだらない痴話話をしている。

 翔太がさっきから話していることは、奈々がいつ初体験をするかという推測なのだ。翔太によると、お堅い奈々は、十八以前に性交渉をすることはなく、すべて断るだろうと。例え、彼氏ができても断るはずだと。そして、美人の奈々はすぐに相手が見つかるので、お堅く生きるのをあきらめた時、そばにいる美男子と性交渉するはずだと翔太は考えている。だから、奈々がお堅く生きるのをあきらめるのが、大学入学で世間が浮つく時か、結婚適齢期がすぎ去り始める二十四かを、翔太は今、ぼくたちに相談しているのである。こんな話、奈々本人には絶対にいえない。

 なお、翔太は阿呆なので、自分を美男子だと思い込んでおり、奈々がお堅く生きるのをあきらめた時に翔太がそばにいれば、翔太と性交渉するだろうと計画している。奈々ほどの美人を彼女にできたら、死んでもいいので、この十八か二十四かを考えるのが、翔太にとって日常の思考の全面に覆いかぶさっているのだ。

「ううん、十八か、二十四か」

 翔太はくだらないことを話しつづける。


 ぼくらが二十四歳になった初夏。

 今まですべての男の求愛を断ってきた奈々が、秋羅くんの前でずっと立っていた。

 奈々は秋羅くんに誘われるのを待っている。

 だけど、想いは届かない。

 秋羅くんは、

「じゃあ」

 といって、帰ってしまった。

 ふられたんだ。奈々はそう思って、一粒の涙を流した。


 ぼくと翔太は、その頃、すでにあまりかわいいとはいえないが、かわいいと思える範囲内にいる彼女と付き合っていたため、もう、奈々を口説くとか狙うとかは考えていなかったが、久しぶりに、奈々と会った。

「あたし、ふられました」

 そう奈々はいっていた。これから、妥当な正社員のサラリーマンを探して結婚するつもりだという。

「あたしの恋は、叶いませんでした」

 そう奈々は笑っていっていた。

 ぼくらは、とてもがっくりしたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る