第11話 左利きの未来人

 人類は進化する。人類には、利き腕というものが存在し、右腕は左腕より高性能に進化する。右腕は数万年後の人類では左手に比べて巨大になり、左右対称形は崩れる。人類は、精巧で力強い右腕を手に入れ、左手は退化し、小さくなり、粗雑になる。

 そんな右手の進化した未来。あたしの彼氏は左利き。左利きのベイベー。


 彼ったら、大きな右腕をだらんとぶら下げたまま、小さな左手でコンピュータ画面を打ってる。不格好なことこのうえない。絶対に右手で操作した方が楽なはずなのに、あたしの彼氏は浮遊機械の操作も左利き。もちろん、あたしを責めるのも左利き。きゃあ。なんてこと、いってるのかしら、あたし。とにかく、あたしの彼氏は左利きで、小さな左手で機械を動かす。それはとても不器用で、規格と型が合わず、不便なこと極まりない。

 でも、あたしの彼氏はいうのよ。

「ぼくの右手は、神さまに与えられた手だ。ぼくが右手で作業するのは、神に従うにも等しい。だけど、ぼくの左手は誰に与えられたわけでもない。進化に見捨てられた孤独な手なんだ。ぼくの左手は、誰に命令されたのでもない。ぼくの心によって求めたものだけをつかむんだ。ぼくはきみを左手でつかみたい。誰に命令されたのでもなく、ぼくの意思できみを奪うために」

 あたしの彼氏は左利き。あたしは彼の左手と手をつなぐの。

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