第9話 絶対に斬る

 二番目の魔術師がいた。魔術師は、青年に告げた。

「ここに人を殺せるナイフを持った男がいる。今まさに人を殺そうとしている。それに立ち向かえる勇敢な勇士を探している」

「おれが戦います」

「よかろう。お主に任せる」

「絶対に負けません」

 その青年のことばには、あるいは勝てなくても相討ちに持ち込もうという気合いさえあった。

「ここに殺人鬼がいる」

 魔術師が群衆の中でいった。群衆は、いっせいに知人同士で身をよせた。

「彼が殺人鬼だ」

 魔術師が指を指した。そこにはたくましい男が一人立っていた。十代後半ぐらいに見える。

「負けません」

 青年は相手と同じナイフを持って立ち向かった。

 群衆がさっと後ずさった。殺人鬼と青年、二人を残して人垣の輪ができる。

 魔術師が場の解説をした。

「説明しよう。人を殺そうと群衆の中に歩みこんだ殺人鬼。しかし、世の中、捨てたものではない。殺人鬼に立ち向かう勇敢なる青年がいた。今、休日の昼間の街中で、突然に正義と悪の戦いが始まる」

 殺人鬼がしゃべった。

「おい、魔術師、おれとこの男のどっちが強い」

 魔術師は答える。

「勝つか負けるかは時の運。わたしにもわかりませぬ。しかし、どちらが強いかといえば、より大きなナイフを持ち、より頑強な体をした殺人鬼の方が強いでしょう」

「だろう。こいつは、本当にそれがわかっていて、おれに勝負を挑んでいるのか?」

「はい。そうです。お望み通りに」

 青年は迷った。魔術師は殺人鬼と通じている。何か罠があるかも。これは危険だ。

 しかし、ことは意外な展開を迎えた。

「すまん」

 そうひとこというと、殺人鬼は、自分の首にナイフを走らせたのである。殺人鬼は、血を噴き出して倒れた。

 青年は何ごとかわからずに、異常事態に集中力を高めた。

「これは、これは。意外な結末ですな」

「おい、魔術師。説明しろ」

「はい。実は、わたしは、この殺人鬼の願いを叶えるために今日の場面を段どったのです。殺人鬼の願いとは、正義面して自分に立ち向かってくるアホ野郎をぶち殺したいでした」

 青年は心をしめつけられた。

「おれは、殺される予定で誘われたのか」

「そうです」

「なぜだ」

「この殺人鬼はわたしが寝とった女の彼氏なのです。それで、女を寝とった代わりに願いをひとつ叶えることにしました。それが、このような結末を迎えたのです」

 殺人鬼は、いざその場面に立ち会ってみると、本当に悪に立ち向かう勇敢な勇士を殺すことはできなかったのだった。

 魔術師は、殺人鬼の女を青年に紹介し、闇に消えた。

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