第4話 転校初日にパンをくわえた少女がさらりとかわした話
転校初日。
ぼくは慌てて学校へ向かった。急がないと間に合わない。なんで、こんな時間になったんだ。初日から遅刻なんて恥ずかしいじゃないか。
そんなぼくが曲がり角を曲がろうとしたところだ。
「遅刻、遅刻~」
とパンを食わえながら走ってくる女子中学生がいた。
危ない。
と、思ったのもつかのま、てっきりぶつかると思われたぼくの前で、少女はさらっと数メートルはジャンプし、ぼくの体当たりをかわしたのだった。
惜しい。
「あなたなんかと運命的に出会うのは、全面的にお断りです」
少女は、そういって立ちふさがった。
なんだ。ぶつからなかったから、よかったものの、その言い方はないじゃないか。
「ああ、初めまして。ぼくは今日、転校してきた……」
「こんな冴えないやつと運命的に出会うのはお断りですう」
少女は走って逃げて行ってしまった。それにしてもかわいい女の子だった。
職員室に行き、先生に教室を案内してもらうと、その教室には朝のパンをくわえた少女がいた。これはまさか、フラグが立ったか。そんなことを期待いしていたぼくだったが、少女は視線を合わせない。
「今日、転校してきた中田はまるくんです。席は、一番後ろが開いてるから、そこに座って」
先生に促され、一番後ろの席に座る。偶然にも、あの少女の隣だ。
「やあ、偶然だね。よろしく」
「……」
がん無視された。
ちくしょう。この娘。あの時、ぼくとぶつかっていれば、ぼくの学園生活ははらはらどきどきのうはうはハーレムで満喫されていたにちがいない。しかし、奇跡的瞬発力でぼくの体当たりをかわした少女と仲良くなることはなく、ぼくはぼっちで学園生活を終える可能性が高くなっていた。
次の日、またしても遅刻しそうな時間。計画通りだ。曲がり角を曲がるその瞬間。パンをくわえて、
「遅刻、遅刻」
と走ってくる少女が見えた。このままではぶつかる。狙い通りだ。
しかし、少女はまたしても、さっと奇跡的瞬発力でぼくの体当たりをかわそうとした。逃がすものか。ぼくをあまく見るなよ。
「究極武神衝突術アルティミットアタッカー」
ぼくは代々家に伝わる秘奥義をくり出して、少女に突進する。我が家には、通学路で少女とぶつかるために必要な技を代々秘伝として伝えていたのだ。ぼくの体当たりはかわせまい。もらった。三年間のハーレム生活はぼくのものだ。
さらり。少女は、ぼくの究極武神衝突術をあっさりかわしてのけた。
「昨日もいいましたが、あなたと運命的に出会うのは全面的にお断りです」
走り去る少女。
その後、毎日、体当たりを強行したぼくであったが、一回もぶつかることはできず、三年間、一人寂しくすごしたのだった。
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