15限目~俺がリーダーで勝つの無理じゃない?~

地下3階の訓練スペース。

そこに俺以下5名の第8遊撃部隊が集合した。


「早速始めましょうか」

「はーい」


市橋ルナの言葉に暁がぴょん、と手を挙げて応じる。

今更ながら、訓練するのに戦闘用のスーツとか無いんだな。制服のままだ。

この制服、洗濯が簡単で良いんだよな、洗濯機に放り込んでおけば乾かす時に勝手にシワが伸びるし、見た感じ普通の生地だが、防弾繊維並に丈夫だし。

その癖実技の授業は体操服なんだよな。学園側の趣味か?

まあ体操服姿のツクハ可愛いからいいんだけどさ。まだ窓越しにか見た事ないから是非とも近くで見たいものだな。


「ツカサ、これ付けてください」

「こいつがフラッグシールドか」


ルナに渡されたのは、シールのようなもの。昨日読んだ資料によれば、隊長はこれをベルトのバックルに貼り付け、赤の腕章を付けるらしい。


ペトリ、とベルトのバックルにシールを貼ると、一瞬、全身を光が覆った。

その光が収まると、俺の視界の端になにやら数字が表示される。


「この、『1000/1000』ってのは何だ?」

「それはシールドの耐久値です。攻撃を受けると数値が減少し、0になった時点でチームは敗北になります。コケても減るので気をつけて」

「シビア過ぎない?」

「ちゃんと受身を取れば減りませんから大丈夫ですよ」


出来るだけリアルな戦闘を再現する為に判定がシビアになっているらしい。


「まずは、シールドが減る感覚を体感してもらいましょうか」

「ん? ああ」


市橋ルナは俺の目の前から1歩下がると、ツクハを離すように合図する。


「せーのっ!」


市橋ルナは掛け声と共に俺の顔を拳銃で殴りつけた。

え? 拳銃で? 普通素手じゃね?

そう思った瞬間には、俺の世界は既に回転を始めていた。


「ぐぉわぁぁぁぁぁ!?」


きりもみ回転をしながら、ワンバウンド、ツーバウンド。そして上半身で着地してさらに数メートル滑っていく。

シールドが減る体験にしてはやりすぎじゃない? いやまあ、俺にはダメージないんだけどさ。ツクハには絶対やるなよ。


「どうですか?」

「どうですかじゃねえよ病院送りにする気か!?」

「ツカサなら大丈夫かなと」


まあ実際大丈夫だったんだけども。ここ最近の訓練で理解した事だが、俺の能力(仮)は自動で発動するものらしい。

だが、訓練におけるメリットと言えばどれだけボコボコにされても最後まで訓練を受けられることくらい。まあまあなデメリットじゃね?


「あ、でもシールドは減ってるな」


シールドの数値が1000から700程度まで減っている。

殴られただけなのに減りすぎじゃない?


「まあ基本的には普通の戦闘と変わりませんが、ツカサに関しては自分がまだ戦える状態でもシールドには注意してくださいという事です」

「なるほど」

「しかし困りました」

「困る?」

「ツカサの能力です。どうやらそれは治癒に近い能力みたいなので、シールドへのダメージは防げないみたいなんですよ」


そう言えばそうだ。リアルな戦闘なら俺のシールドは1すら減っていないはず。銃弾をくらおうが斧を手で受け止めようが傷一つつかない体が殴られたくらいで傷つくはずがない。


「治癒系の能力でシールドを回復させる事は出来ますが、ツカサの能力は規格外なので、どうやらシールドには適用されないみたいですね」

「詰まるところ、俺は全く無傷の状態でもシールドが減るということか」


俺の能力ではシールドの減りを防げないということか。あれ? もしかして俺今回お荷物?


「兄様、お荷物」

「はぅあっ!」


妹に言われるとなんかこう、心にくるものがある。頼られてるのがデフォルトだからかなぁ……凹む。

でも容赦のないツクハも可愛い。


「にゃははは! 無様だな臣下よ!」

「せいっ」

「ふにゃっ!?」


望陽に言われると純粋に腹が立つ。手刀を落としておいた。


「んま、能力でどうにもならないなら立ち回りや作戦でどうにかするしかないっすね」


道のりは険しい、か。

実技最下位の俺にどこまでやれるか分からないが、頑張ってみよう。


「よう、『現・学園最強』様の部隊じゃねえか。堂々と練習なんて余裕だなあ?」


声のした方を見ると、横を刈り上げたオレンジ色の髪をした柄の悪そうな生徒がいた。

誰だこいつ。人が決意を新たにしているのに水を差しやがって。


「花井先輩じゃないですか。第3遊撃部隊の訓練はどうしたんですか? 到底、今のままでは優勝なんて出来ませんよ?」

「テメェ……誰のおかげで去年優勝のおこぼれに与れたと思ってやがる……」


突然入ってきた花井という男。市橋ルナが噛み付いた所を見て、あの二人には因縁があるのだろう。


「おこぼれ? 花井先輩は後ろで眺めてただけじゃないですか。私と北川先輩の挟撃が無ければ、敗北してましたよ? その北川先輩は昨年卒業してしまいましたし、今年からはどんなに頼まれても助っ人なんてしませんよ?」

「テメェ……好き勝手言わせておけばつけ上がりやがって……」

「虎の威を借る事が出来なくなった狐が、どうやって優勝するのか、楽しみにしてますよ?」


何この人たち怖っ。学園の人達ってこんなに険悪なの?


「煽るのもそこまでしておけ市橋。花井も、その程度の事で苛立つな」

「千草教官」


雰囲気を断ち切る圧倒的な威圧感。学園の鬼教官こと千草テレシアがそこにいた。


「もうすぐフラッグジャムだ。決着はそこで付ければいい。要らん私闘をして怪我してはこういう催しの意味が無いだろう」

「すみません」


即座に謝る市橋ルナ。対して花井は


「別に、俺ァ新編された第8遊撃部隊がどんなもんか見に来ただけですよ。とんだ期待外れでしたがね。『炎武者』の武田望陽、『移動要塞』の柊暁、『宵闇の銃姫』の市橋ルナ、そして新入生の問題児2人。楽しみにしてたんですが、これじゃ決勝で当たるなんて夢のまた夢ですわ」


そう言い、大仰に手を広げ、腹の立つ笑顔で花井は出て行った。


「アイツは誰なんですか」

「第3遊撃部隊隊長、花井顕だよ。あんな感じだが、実力者だ」

「嫌な、感じの、ひと……」


いまから訓練だってのに、気がそがれてしまった。なんとも言えない空気の中、市橋ルナが主導で訓練が始まる。

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