14限目~俺はやはり有能ではない~

俺の所属するEクラスの授業が終わり、クラスメイトに別れを告げた後、ツクハと合流した俺は、第8遊撃部隊の部屋の前に来ていた。

ドアが開かれると、そこにはルナが資料らしき紙束を抱えて待っていた。


「あら、遅かったですね」

「……兄様の、補習、です」

「……面目ない」


未だに自分になんの能力が宿ってるか分からない俺は、とりあえず徒手空拳で実技に挑むも、クラスメイトのほぼ全員から無傷のままボッコボコにされて、千草教官から特別メニューを言い渡された。


まあ、言うなれば補習である。


「ええと、今日聞きに来たのはフラッグジャムの説明、でしたよね」

「ああ。頼む」


どさっ、と資料の束を机に置くルナ。どうやらフラッグジャムの説明に使うものだったらしい。


ルナ曰く。フラッグジャムと言うのは、チーム対抗のバトルロワイヤルに近いものらしい。

正規の遊撃部隊は強制参加で、その他にも、学科や学年を超えてチームを組んで参加する生徒が多いらしい。何でも、優秀な成績を残せば軍からの覚えが良くなって卒業後にいいポストにつける可能性が上がるとの事。

ついこの間入学した俺とツクハ以外のメンバーは過去に助っ人としてフラッグジャムに出場経験があるが、俺とツクハの参加で正規部隊となった第8遊撃部隊としては、初のフラッグジャムである。


ルールは簡単。相手チーム全てのフラッグを破壊すれば勝利。正確にはフラッグシールドを装備した隊長(リーダー)を倒せばそのチームは全員脱落という事。


「で、これがフラッグシールドです。ツカサさんには今回、隊長をやって頂く事になりますが……」

「構わないけど、俺なんかがやっていいのか?暁辺りなら適任だと思うが……」

「千草教官からの指示だそうで」

「すごい、兄様、大出世」


千草さんの指示ならば逆らう訳には行かないか。ここは大人しく隊長のお役目を引き受けることにしよう。

どうせ、俺は自由に動けても邪魔なだけだしな。

関係ないけど、ツクハの寝癖直ってない所がふわふわ揺れるのすっごい可愛い。気になってぺたぺた撫でつけてる所とかマジ天使。


ルナはフラッグシールドと呼んだ黒い小さなチップを机の上に置いたベルトに差し込む。


「隊長はこのベルトを装着して、フラッグシールドを展開します。これには耐久度があって、これが0になると破壊され、全員脱落となります」

「詰まるところ、リーダーがやられないように、チーム内で役割を分けてうまく立ち回れって事か」

「その通りです」


なるほど、それなら俺が隊長に選ばれた筋は通る。詰まるところ隊長が倒されなければいいのだから、隊長は戦う必要がない。それに加え、第8遊撃部隊のメンバーに隊長の役回りが向いている面子がいないというのもある。


「望陽は突撃癖ついてるし、暁はタイマンだとジリ貧になりがち、ツクハはまあ、今回リーダーに据えるうまみはあまり無いな」


分析する俺にルナは不思議そうな目線を投げる。間違ったことは言っていないと思うのだが。少なくとも、先日の作戦を見た限りはそうだったし。


「そうですね。私は戦闘時に別人格になりますから、大丈夫と補償はできませんし」

「そうだな。銃姫の時の市橋ルナは全く人の話を聞かない」

「すみません……」


しゅん、と項垂れるルナだが、何かを思い出したのか、はっと顔を上げる。


「それと、ツカサさんにはフラッグジャム終了をもって、第8遊撃部隊の正式な隊長になって頂きます」

「え、それは千草さん血迷い過ぎだろ、歳か?」


本人の前で言ったら絞め殺されそうな言葉を口に出したが、本人が居ないのでセーフ。

と言うか、本当にそれは大丈夫なのか?今回のルールでは俺が必然的にリーダーを務めるが、それ以外なら、ルナやツクハの方が華があっていいと思うのだが。


だが、ルナは首をゆるゆると横に振る。


「これは当学園の学園長、『市橋海』の命令です。正直、私も驚きましたが」


唐突に出てくる学園長。なるほど、一応学校という体裁をとっているなら学園長もいるか。ツクハのお零れか何かで名前が知れていたのか?

それにしても市橋海か。いちはしかい……市橋!?


「市橋って、おま――」

「言ってませんでしたか?この学園を統括する学園長は、元・軍の参謀長であり私のお爺様である、市橋海ですよ?」

「言ってないし聞いてない」

「そもそも、学園長の、存在すら、知らなかった、よ?」


詰まる所、この目の前のお嬢様の様な同級生は、正真正銘、お嬢様だったのだ。


「っと、話が反れましたね。フラッグジャムの詳しいルールについてですが―――」

「待て待て待て待て」


さらっと軌道修正していい内容じゃなかったぞ今のは。


「どうかしましたか?」

「どうかしましたかじゃねえよ、元参謀長の孫?なんだってそんなエリートみたいなやつが学校に通ってるんだよ、即戦力だろ」


俺はこの戦いに関して実感が湧いていない所が多すぎるが、それでも、目の前の同級生がとんでもない戦力を有していることは簡単に分かった。


「……」

「あ、すまない。要らんことを聞いたか?」


さっき銃姫について言及した時より落ち込んでいる。前髪で目も隠れて「ずーん……」と言った感じだ。


「先程の通り、私はまだ銃姫の力を扱いきれてないんです。それで、お爺様には未熟と判断され、学園に通って居るんです……」

「まあ、そりゃそうだ。新兵が俺みたいに撃たれりゃそこで死んじまうからな」


雰囲気が少し重たくなる。


「ともかくっ、これがフラッグジャム当日に使用される大規模訓練場の見取り図です。基本戦術などもまとめてありますから隊長として目を通して置いてください」

「お、おう」


机の資料を押し付けられると、ルナはすたすたと部屋を後にしてしまった。俺とツクハは呆然としたまま、机の資料に目を落とす。


「あれ、ルナ先輩の、地雷?」

「どこでそんな言葉覚えたんだ?」


それはともかく、アレはツクハの言う通り地雷というやつだろう。ルナ程できた人間じゃなければ怒られていたかもしれない。


資料にはフラッグジャムに関する基本的な事が書いてあると言う。心理戦や計算事は得意分野だ、何か出来る事があるかもしれない。

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