13限目~俺が超越者になんてなる筈ない~

作戦から数日。俺とツクハは学園の地下研究室へ呼び出された。


「それでは、私は授業に戻ります。終わる頃にまた来ますね」


エレベーターへ戻るルナを見送ってから、言われた通り、第7研究室を目指す。


「ええと、第1がここだから、だいぶ先だなこれは」

「ねぇ、兄様」

「ん?どした?」

「私達、なんで、呼ばれたの、かな」


多分だが、俺達の戦闘データどうこうだと思う。あの時は異様な現象が何かと起き過ぎた。そもそも、データ上なら俺には何も異能力なんて備わって無かった筈。


「さぁな。お兄ちゃんにも分かんねぇや」


ふと、前を見ると、若い研究員らしき男の人と目が合った。黒髪に黒縁のメガネという地味な出で立ちだが、その笑顔には人を惹き付ける力がある様に思えた。


そして、その男の人はこちらを見つけて笑顔を保ったままでこちらへ来た。人見知りの激しいツクハはすぐに俺の後ろへ隠れる。


何この庇護欲をくすぐる生き物。可愛い。


「やあ、君達が金剛ツカサ君とツクハ君だね。準備は出来てるから急いできてくれ」

「あ、はい。お兄さんは━━」

「僕は三笠カズキ。ここの学園研究員をやっているんだ。勿論、僕も異能力者だよ」


それはそうだ。異能力者でなければこの学園に入る事は出来ない。この世界で前線に生ける人間は皆異能力者らしい。授業で言われた。


「まあ、その点も含めて、説明しようと思うんだ。本当なら新入生はもう少し後で教えるんだけど、君達は最初から遊撃部隊に所属したし、前線も経験してしまった。ごめんね、本来ならこれから教えることを1度学んでから出るべきなんだけど……」

「気にしないでください。タイミングが最悪だった訳ですし、俺もツクハも無事に帰れたので」

「そ、そうか。なら良かっ━━━」

「ただ、次にこういう事があったら教師職員全員に向けて宣戦布告して、俺達の得体の知れない力でクーデター起こすのでそこは勘違いしないでください」

「おおう……見かけに寄らず怖いね君」


笑顔のまま引きつった表情で三笠さんはこちらを見る。当然だ。ツクハに危害が加わる原因を作ったとあれば、万死でも足りない。


ちなみにツクハは三笠さんを俺を隔てて観察している。うん、小動物的な可愛さが満天。


「さて、ここが第7研究室だ。ここでは主に遊撃部隊の前線モニタリングと、能力の解析や調整、ケアを行っている。遊撃部隊の異能はクセがあるのが多いからね。現在8あるあの部隊に対して一つの研究室が必要なのさ」

「おっきー……」


ツクハは萎縮しつつも、興味があるらしく壁面に大量の機械が設置された広い研究室を眺めている。かく言う俺も漫画や小説でしか見た事が無い世界に興味津々だったりする。


「じゃあ、そこの机に適当に腰掛けてくれ」


言われるままに、会議に使われると思われるやたらと長い長方形の机に座る。


「……ツカサ君、妹さんを膝に乗せるのは遠慮してくれ。やりにくいんだ」

「……仕方ないですね」

「何がどう仕方ないんだろうね……」


ごく自然に膝の上にツクハを乗せた俺を見て三笠さんは頭を抱える。そんなにおかしい事だろうか?


100歩譲ってツクハを隣に座らせ、密着する。三笠さんが額に手を置いたが、これ以上の譲歩はするつもりは無い。三笠さんは諦めたように一旦掃け、俺達の対面に透明なガラス質のボードを持ってきた。


「さて、まずは今回の論点について。単刀直入に言うと、予想外の威力を発揮したツクハ君の異能、『サモン・オブ・アルカナ』。まあ、これは確認程度で済むかもしれないけどね。次に、その為に異能について少し勉強しようか」


三笠さんはボードを2回ノックすると、立体的な空間が投影される。その中には人の形をしているモノが立っている。人形の中には赤い光の玉が密集しており、外の空間には青い光の玉がたくさん浮遊している。


「これは……異能因子ですか?」

「そうだよ。僕達は異能を発現させるに当たって異能因子を二つの種類に分けたんだ。それが体内異能因子と空間異能因子なんだ」


三笠さんの説明に合わせて、人形の中にある赤玉に矢印が指され「体内異能因子」と表記され、続いて空間に漂う青玉は「空間異能因子」と表記される。


「この二つは同じ名称だけど、異なる性質を持つんだ。で、今から異能発動のシュミレーションを見せるよ」


人形が動き、右手を前に出す。すると密集していた体内異能因子の一部が右腕に移動する。空間異能因子の方も右腕に引き寄せられる。そして、掌で、二つの因子が衝突し、人形の手から炎が噴き出した。


「この異能は第3遊撃部隊所属の高等部3年鹿島凱久(かしまよしひさ)君の『ブレイズ・ブラスト』だ。これを見て分かることは」

「二つの、因子が、ぶつかって……」

「異能が発動してたな」


人形の中の赤玉の密度は少し減っている。そして、炎が噴き出した方向の青玉の密度も少ない。


「そう。この二つの因子をぶつけることによって異能は発動する。本来、新入生はまず因子をぶつける訓練をするんだけど……ツクハ君はその過程をすっ飛ばしてるんだね」


三笠さんは更に語る。


「そして、何故凱久君のシュミレーションを見せたかだけど。体内異能因子は異能を使うと減る。しばらくすると回復するけどね。そして、体内異能因子の量は単位で表されるんだ。でも、抵抗や、順応性とかもあるから異能適応性で表してるんだけどね。一般生徒は大体平均で20~40単位程度持ってるんだ。そして凱久君は58単位。遊撃部隊に入るには少し足りない数値かな」


三笠さんによると、遊撃部隊に入るには最低62単位以上異能因子を所持している必要がある。無論、特例もあるだろう。俺、絶対それだし。


「異能を発動する場合、体内異能因子1に対して空間異能因子1で異能が発動するんだ」

「……あれ?」

「さっきのシュミレーションでは空間異能因子がかなり減ってましたよね?」

「そう。凱久君の特性はそれなんだ。彼の炎は発動すると周りの空間異能因子とも反応して破壊力を増すことが出来るんだ。一の力で二以上の力を出すことが可能。つまり、彼の高い継戦能力と火力の両立。それが完成されていたから彼は遊撃部隊に配属されたんだ」


感心するツクハだが、俺には少し引っかかる事があった。


「あの、それじゃあ凱久先輩のシュミレーションを見せた理由が分かりません」

「ん。話はここからなんだ。次に、最近解析が終わったツクハ君のシュミレーションを見せるよ」


人形のシルエットがツクハに似た形になる。うーん、シルエットになっても妹は可愛い。


ツクハが手を掲げると、掌で因子が衝突し、カードが出現する。そして、次の瞬間、


巨大な光の柱が周囲の空間異能因子を根こそぎ呑み込んだ。


「……は?」

「これがツクハ君の異能だ。凱久君の異能が1の因子でで最大15まで威力を高められるとしたら、ツクハ君のそれは100以上になる。以上っていうのはね、そこで計測不能になったからだよ。因子効率が100を超える異能なんて前例どころか、理論上、人間には不可能な筈なんだけどね。まあ、計測器のリミットを上げれば多分計測できるけど」


よく分からない単語がいくつか出てきたが、とりあえずツクハの異能が恐ろしい力を持っていることは分かった。


「で、次にツカサ君の話に映るんだけど、具体的には月狼の斧を素手で止めたことに関してだ。あの能力が付与された斧を手で受ければ、誰であろうと腕が吹き飛ぶ筈なんだ。僕達は最初、ツクハ君の異能によって周辺の空間異能因子が根こそぎ消費されたから月狼の異能も発動しなかったと思ったんだ」

「過去形、と言うことは……」

「残念ながら違った。ルナ君の異能は一度発動すれば残弾が0になるまで空間異能因子は消費しないからもしやとは思ったんだけどね。月狼の異能はしっかり発動していた」


そこで三笠さんは黙り込む。続きを待つが、一向に話し始める気配がない。


「三笠さん、もしかして」

「うん。そこから先は分からないんだ。君の体内異能因子は存在しないから、こちらの計測器が反応しない。だから、映像を見ての判断しか出来ない」


つまり、今分かることは何も無いらしい。


「今現在、ツカサ君のような例外を観測する為の装置を第1研究室で開発中だ。でもいつになるか分からない。だから、こちらで出来るだけ調査はしたいと思う。協力してくれるかな?」

「勿論です」


このまま不気味な状態で居ることは俺も避けたい所だ。先日の事がまぐれだとするなら、これから行動はより慎重に選択した方がいいだろう。


「ああ、そうだ君達」


帰り際、エレベーターの前で見送りに来た三笠さんに呼び止められる。


「何ですか?」

「いや、確認程度の事なんだけど……」

「「?」」


2人揃って首を傾げる。三笠さんは笑顔を崩さないまま散歩にでも誘うように、


「君達、フラッグ・ジャムには出るのかい?一応、部隊に所属してるから聞いておくよ」


そう尋ねてきた。

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