11限目~でも俺は戦えないとは言っていない~

レンガという物にはいくつかあり、粘土を固めて干す日干しレンガから始まり、1000度程度で焼かれた通常のレンガ、そして1200度以上に耐えうる耐火レンガ。


で、目の前の人の形をしたレンガはどうやら耐火レンガらしい。あ、これ望陽が能力で焼き切ったやつな。彼女曰く、あの炎は6000度にまで達するらしい。その高温が一瞬で土を耐火レンガに変えたんだと。


「先輩、いつまでもそのレンガ細工見てないでこっち来てくださいよ。たまには現実見ないと心に悪いですよー」

「身体には悪くないのかよ」


閑話休題。現実逃避失敗。今は結構アレな状況に立たされている。アレって?決まってんだろ。


車がぶっ壊れたんだよ。察しろよ。


「むぅ、流石にここまで蜂の巣にされると直しようもないな……」

「むむむ……この時代のカラクリはよく分からぬ……」


何で望陽まで首傾げてるんだ。絶対わかってねーだろあれ。てかアイツ何時代の人だよ。14歳だろ。


「我は戦乱の世に生きる者。戦乱ありし時に我は産まれる!」

「あー、はいはい。すごいすごい」

「むあー!?馬鹿にしたなぁー!」


ぽこぽこと可愛い音で殴られるが、正直全く痛くない。


「んー、でもまあ、車直してまた出発しても効率悪いですし、何なら徒歩の方が安全でしょ?」

「……そうだな。よし、総員!これより徒歩で作戦区域へ向かう。細い路地を進む為前から私、望陽、ツカサ、ツクハ、暁、ルナの順で行くぞ!」

「了解。では行きましょう」


ルナの一言から一列に並び、徒歩開始。まあ、歩くのは嫌いじゃないが、ツクハが疲れないように気を配らないとな。



━━━歩くこと1時間。輸送トラックは思わぬ足止めを食って迂回中らしく、まだ俺たちが担当する区域までは来ていないという。

俺たちにも特に変わりはないが、市橋ルナの目つきが時間が経つ事に険しくなっていることには不安を拭いきれない。というか普通に怖い


と、千草さん(妹)がこちらへ来た。


「……ツカサ」

「……?何ですか千草さん」

「市橋ルナの事だ。変わりはあるか」

「今のところ見てわかる変化は目つきが険しくなってる所くらいですね」

「そうか。なら注意しろ」

「ん?何でです?」

「宵闇の銃姫はまだお前達が仲間になったことを知らないからだ」

「え?それってどういう……」

「説明している時間はない。行くぞ」


それだけ言うと千草さん(妹)は足早に先頭へ戻った。一体何なんだ?


仲間になったことを……知らない?



それからしばらく歩くと少し開けた場所に出た。千草さん(妹)が立ち止まったところを見るにここが担当場所らしい。


「おっそいよキミ達ィ?ボクは退屈してしまったじゃないかぁ?」


唐突に、上から声。昔は若者で溢れ返っていた大型複合商業施設の残骸、その頂上に。


「犬っぽい、娘が、いる……」

「お兄ちゃんにもそう見えるな」


何か、服装といい髪型といい、瓦礫の上に「おすわり」のポーズで居ることと言い、何かもう、全身から「犬感」が出ていた。


唯一俺達を現実に引き戻したのは彼女が背負っている馬鹿でかい斧だった。……斧?


「何というか、古典的だな……」

「望陽ちゃんと、どっこい、どっこい」

「我、遠回しに馬鹿にされたぁ!?」


なんかショック受けてる望陽は置いておくとして。アレ敵だよね?単騎とは些か勇猛がすぎるんじゃないかなーとは思うけど。


「一番会いたくない敵にあってしまったっすね……さて、どうしたものっすか……」

「我、正直に申せばあやつは苦手」

「分が悪いな……」

「あれ?アイツってそんなに強いんですか?」


何やら深刻そうな顔をする3人。内2人はシリアスが似合わないとか言ってはいけない。


「強いなんてものじゃないさ。アイツの異能は馬鹿げている」

「……それ、は、なんです……か?」

「あらゆるモノを破壊する能力だ。我々の能力も、銃弾も、その気になれば概念すら壊す。そんな力だ」

「うっわ何だそれ。チートじゃねーか」

「まあ、対処法は無いではない。だが……」

「だが?」



「アレの相手は、私が引き受けるわ」


後ろから。聞き覚えのある声、だが、それは俺が不安を抱いていた声でもある。


「どいて」


市橋ルナ━━今は宵闇の銃姫と呼ぶべきか。完全にまとう雰囲気が変わった市橋ルナはあの大晦日の様相を呈していた。


そして、千草さん(妹)を先程の一言で押し退けると、俺の前に立った。


「貴方、誰なの?」

「……ッ!?」

「邪魔」


銃声。市橋ルナの右手には銀色の拳銃。つまりは、俺を撃ったのだ。


「がっ……」


腹部に容赦ない衝撃が走る。すぐ様、ツクハが駆け寄ってきてくれる。


「兄様っ、兄様ッ!」

「退きなさい、邪魔よ」

「市橋ルナッ!」


市橋ルナはツクハにも拳銃を向けた。が、千草さん(妹)の怒号で銃は下ろされた。


「彼らは、今日から第8遊撃部隊に参加した金剛ツカサと、妹、ツクハだ。銃を向ける相手を間違えるな」

「……分かったわ」


市橋ルナは俺達から視線を外し、犬っ娘へと向ける。犬っ娘はそれを確認すると心底嬉しそうに、


「久しぶりだね宵闇!無事に高校生に上がれた見たいでボクは嬉しいよ!」

「今日こそ決着をつけるわよ、月狼」


2人が睨み合っている隙に、俺は望陽と暁に引き摺られて後退する。……もう少し丁寧に運んでくれませんかね。


「さぁ!月下のショウタイムの始まりだよッ!!」

「AK47×3、M14EBR×1、Scorpions×4」


それぞれ銃の名前である。AK47はロシアで造られた自動小銃(アサルトライフル)。単純な作りで修理がしやすく、かつ安価で製造された為、発展途上国各地で改造、改良、派生されたものが出回っている。反動は大きいが、威力に長けており、マガジンのサイズも様々。


M14EBR。バトルライフルとして制式採用されていたが、使い勝手の悪さから表舞台から降板したものの、セミオート式にし、EBRスコープを取り付けることによって中距離狙撃に特化したライフル。


Scorpions。連射力に長けたサブマシンガン。装填された弾が僅か数秒で無くなる程の高速連射が可能。


それらが一瞬にして弾幕を張る。基本攻撃をAK47で、近付いて来たらScorpionsで防御弾幕を張り、後退すれば正確なM14EBRの狙撃が襲う。月狼と呼ばれた少女はそれを野性的なフットワークで丁寧に躱し、当たりそうになった弾はその巨大な斧を盾がわりにして防御する。


異能力の質云々では勝つことは出来ない、そんな相手に対する一番の策は純粋な量、つまり「圧倒的な手数」なのだ。


それが、この2人を3年来のライバルとさせた実力の拮抗なのだ。


「チィ、前よりも正確になってるじゃん。面白くなってきたなぁ!」

「下らないことを言ってないでさっさと落ちなさい。fire!」


市橋ルナが弾幕を張れば、その隙間を縫うように月狼は肉薄する。防御弾幕を切り裂いて斧が市橋ルナに届くかというタイミングで華麗に躱し、距離をとる。その繰り返し。


それ以外に打開策は無いとばかりにそれを繰り返す2人。下手な誘導をすれば即、「死」を招く。


━━━だが。


「オーディエンスが目障りだね。消しちゃってもいいかな?」

「出来るのなら、ご自由に」


それを聞いた途端、月狼は口の端を釣り上げる。


「言質、取ったからね?」


刹那、月狼は「空気抵抗」という概念を破壊し、高速でこちらへと飛んできた。


「回避ッ!!」


千草さん(妹)がツクハを、他の2人が俺を担いで何とか回避する。


「避けちゃうんだ、へぇ。ってぇ!?」


月狼は咄嗟に回避行動をとる。次の瞬間、月狼のいた地面が爆ぜた。手榴弾、フラググレネードだ。


「出来るのなら、ね?」

「いいねぇ。やってやろーじゃん!」


それからの戦闘は酷いの一言で表された。月狼がこちらを狙い死に物狂いでそれを回避する。するとまるで「休憩を与える」かのように市橋ルナの弾丸が月狼を襲う。そして、月狼は一時後退し、再び俺達を狙う。


その繰り返し。徐々に披露が溜まって行き、そして、その均衡は崩壊を迎える。


「ひゃわっ!?」


瓦礫の中から張り出した鉄筋、それに望陽が引っかかってコケたのだ。


「ッ、みはるん!」

「おい暁!?」


静止を振り切り、暁が迫る斧と望陽の間に割り込む。


「一瞬しか無理っすけど……スクエア・ガーター!」


暁が能力を発動した瞬間、暁の目の前に四角い光の壁が出現し、斧の侵攻を止める。


それも一瞬で、月狼の能力が発動し、光の壁は霧散。暁達に斧が迫る。だが、その一瞬を利用して暁と望陽は脅威から脱する。


「ね?出来るものならと言ったでしょう?」

「へぇ、こんなにしぶといんだぁ。面白くなってきたぁ!!」


再び酷い追いかけっこが始まる。やがて、俺が負傷状態で動けないことに気づき、俺へと攻撃を集中させる。


「キリがねぇよ、これ……クソがっ!!」

「兄様!?」


ツクハの手を離し、全力で横に飛ぶ。一時的な囮。あわよくば、これによって生じた隙で市橋ルナが月狼に一撃を加えれれば。


横腹を地面に打ち付け、激痛が走る。だが。


(ん?打たれた傷が無い?服に穴は空いてるけど……って、どうでもいいか)


どうやら、死ぬほど入りたくなかった3%の中に入ることになる様だ。


ごめんな、お兄ちゃん、ツクハが成人するところは見たかったよ……


迫る斧に、目をつぶって覚悟を決める。が、いつまで経ってもその瞬間はやって来ない。あれ?死ぬってこんなに味気ないモンだっけ?


そーっ、と目を開けると、目の前には大穴が空いており、視界を左に向けると、大きく距離を取った月狼が何かを威嚇していた。……やっぱり犬だよな?あれ。


その威嚇している方向を見ると……ツクハがいた。なにやら真っ白なオーラに包まれ、手には何かを掲げている。


「サモン・オブ・アルカナ……『戦車』。出来た……?」


状況を整理すると、俺が斧に襲われそうになった瞬間、上からなにか、恐らくは魔法的な砲弾が降ってきて月狼を回避させた。その能力を発動したのはツクハ、という事だ。


「さっきの……面白いねぇ。いいよ、燃えてきたァ!!」


月狼は吠えた後、全力で跳んだ。直線的な跳躍は一瞬で俺の前を通過。つまりは……そこから思考は吹き飛んだ。


「━━おい」

「ッ!?」


だが、そのツクハに向けられた突撃は、俺が「素手」で月狼の斧を止めると言う最も想定外な行動によって。


「お前さっきさ、ツクハを狙ったよな?」

「斧が動かない!?何で!?」


「タダで帰れると思うなよ?」


ぞくり、と。この場にいた誰も、全てを破壊する月狼も、宵闇の銃姫も、歴戦の兵士である千草・アリアも、そして第8遊撃部隊のメンバーも、脊髄を氷で撫でられたような感覚を覚える。


得体の知れない、「俺達」によって、戦局は唐突に、動き始める。

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