10限目~俺が役に立つはずがない~
これは、千草さん(妹)に聞いた話だが。
毎年の中等部と高等部合わせた新入生のうちの約3%が初任務で運悪く実戦に駆り出されて死ぬらしい。
ちなみに、今年の中等部の新入生は140人。そしてエスカレーター組ではない高等部1年は10人。
わーい、俺らその3%に入るっぽい。
だって何かここにいる皆さん俺とツクハが新入生って聞いた途端に気の毒そうな顔するんだもん!千草さん(妹)とか結構な頻度で「すまない」って言ってくるもん!
「ま、まあ大丈夫っすよ先輩。自分たちが付いてますから」
「その通り!我と共にある限り、お主らの命は安泰よッ!」
不安になる2人は置いといて。俺はルナの方を見た。
「………」
怖いくらいの無表情で窓の外を眺めている。窓には荒廃した都市が広がっている。信じられないことにこの視界に収まる全てが今までニュースでした見たことないようなリアルな戦場なのだ。
「ルナ先輩なら大丈夫っす」
「暁……」
「出撃前はいつもああなんで。今日はツカサ先輩達もいるんで余計に気張ってるんですよ」
彼女にもプレッシャーというものがあるのだろう。宵闇の銃姫ともてはやされ、学園最強クラスの異能力をもつ彼女にしか分からない事があるのだ。
そしてそれは、いずれツクハにも訪れる未来。そうなった時、守れるのは兄である俺しかいない。
「……なら、ここで死ぬのはダメだよな」
ベッドでスヤスヤと眠るツクハを見つつ、俺はそう言った。
ちなみに、ここは俺とツクハにあてがわれた部屋である。ほかの3人は個室だが、俺とツクハは俺達たっての希望で二人部屋になった。一応ベッドは二つあるが、どうせ一緒に寝るから一つ撤去してほしいのだが。
まあ、そんなこんなで何となく一番広い俺とツクハの部屋に全員集合といった形になった。まあ、初任務である俺達を気遣ってのことだろう。
おもむろに寝ているツクハの頭を撫でる。するとツクハは穏やかな寝顔をふにゃっとほころばせ、安心したような表情になる。
ヤバイ、今すぐにぎゅーってしたい。
だが、天使すぎるツクハの眠りを妨げるなど神への冒涜より高い禁忌指定を受けているので「ああああああマジでツクハ可愛いよぉぉぉぉぉ」と転げ回るのに抑えておく。
3人がゴミを見るような目を俺に向けているが、そんな事は気にもとめなかった。
「で、今何時だ?」
「うおう、流石にそのレベル切り替えはついていけないですって。えーと、7時半です」
あと30分。待ち時間と言われれば結構長く、余命と言われればとても短いその時間は、
「皆、そろそろ出撃の時間だ。車に乗り込め」
あ、あれ?さっきまで30分前だったような気がするだけど気のせいかな?
「先輩、光陰矢の如しですよ。30分なんて一瞬です」
「それ微妙に使い方違うし、ずっと暗いままだからな、外」
千草さん(妹)に先導され、外に出ると、車が止まっていた。大型のワゴン車。メーカーはまあ、某大手自動車メーカーの物で、7人乗りだ。
運転席に千草さん(妹)、助手席に市橋ルナ、後部座席の前は俺とツクハ(ツクハは俺の膝の上)、後部座席の後ろは望陽と暁が座る。
俺はツクハを膝に抱いて全身でこの世の中で最上の幸福を味わいながら、任務が近づくにつれてどんどん無言に、無表情になっていくルナをみてどうしようもない違和感を募らせていた。
程なくして作戦地域に入り、あちこちで銃声や爆発音、そして異能力と思われる様々な音や影響が車の中まで響いてきた。
何だか紛争地帯を車で往くジャーナリストの気分だな、などと呑気なことを考えていると、
「全員車外に出ろッ!!」
千草さん(妹)の声に驚いたが、危機を感じたのか体はちゃんと動いていた。即座にシーベルトを外し、ツクハを抱き抱えてドアから飛び出した。車は既に停車していたらしく、特に怪我などしなかったが、全員が車外に出た直後、車道に対して横向きに停車した車の反対側から銃声。直後に金属と金属、つまり、銃弾と車とがぶつかる音が激しく鳴り響き、何発かが貫通。俺たちの横を掠めて行った。
「タイヤの裏かエンジンの裏に隠れろ!」
激しく雨のように打ち付ける銃弾の中、何とかエンジンの裏まで移動。横にはルナがいた。
が、直後、何を思ったのかルナは立ち上がる。そして、
「RPG7!」
いわゆるロケットランチャーで様々な紛争で使用される武器の名前。それを叫んだ刹那、バシュゥ、という何かが放たれる音。
そして耳をつんざくような爆発音と敵がいた方向に黒煙が立ち上る。
思わず顔を出した俺は驚愕した。なんと、刀を抜き払った望陽がその黒煙に向かって走り出していたのだ。
「逝ね!木偶共めが!」
望陽が刀を振るうと、豪炎が刀から吹き出し、黒煙を切り裂いて炎上した。
炎と煙が収まったその先には陽炎に揺らめく望陽と5、6体の先程までの人の形をしていたであろう土塊がいた。
すぐさま千草さん(妹)、ルナ、暁が拳銃を抜き、駆け出す。
「左、クリアだ!」
「右、クリアです!」
「正面、クリアである」
「後方、クリアっす!」
それぞれが車の周囲に敵がいないことを確認する。
俺はただツクハを庇いながらそれを流れるようなそれを見つめることしか出来なかった。
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