8限目~初作戦は不穏な空気しかない~

ところ変わって3階。地下へ向かうエレベーターはあるのに地上部は荷物用エレベーターしかないという不思議を感じつつ、職員室の横にある作戦司令室(同じ部屋を何度か見たが今回はここらしい)に入る。


てか、入学1日目で作戦参加とか、仮部隊とか、そんなに遊撃部隊少ないの?ブラックなの?


「第8遊撃部隊入ります!失礼します」


作戦司令室の中には女性が一人いた。スーツに身を包んでタバコを吸っている。見た感じクールな印象だ。


「おお、来たか。予想より48秒速かったな。ご苦労だ。そちらは……金剛ツカサ隊長とツクハだったなようこそ、イルシス学園へ」

「俺が隊長だって事もう伝わってたんですね……」

「能力を測った時の電話です。あの時にツカサを隊長にしろと千草教官からお達しが」

「決めたのは私ではなく上の人間だがな。っと、紹介が遅れたな。私はこの学園で実技を中心に教えている千草ちぐさテレシアだ」


千草教官はタバコを灰皿に押し付けてハッキリとこちらを向いた。ワインレッドの長髪、かなり美形の女性。ただ、その右眼には眼帯が付けられている。


「ああ、これか。突然暗闇で戦闘になっても戦えるようにしているんだ」

「へえ、なるほど……」


自己紹介が一段落したのを見計らって、ルナが一歩前に出る。


「して、今回の任務は何ですか?」

「輸送部隊の護衛及び、待ち伏せしている戦力の殲滅だ。現在前線基地へ12台のトラックが向かっている。君達はヘリで先行し、軍の部隊と共に前線基地周辺の敵を攻撃し、輸送部隊を無事に送り届けるという内容だ」


ごく普通に前線基地とかヘリとか。昨日までの平和な日常マジで返して。


「あ、質問でーす」

「なんだ柊」

「前線基地って言うと、ここからヘリで三時間はかかりますよね。そこでトラックが通過するまで戦うって事は……」

「もちろん、前線基地に泊まって貰う」

「は?」


前線基地に泊まる?そも、前線基地っていう言葉自体危険な匂いを孕んでいるのにそこに泊まるだと?


「慣れてくださいツカサ。これからこういう事は普通にあると思わないと」

「これに慣れたら、人として大事なものを失いそうだな……」


主に危険に対する本能的な恐怖とか。なんか色々麻痺しそう。


「すまないが時間があまりない。すぐにヘリに乗って任務だ。ツカサ、ツクハ、ルナは7番へリポート、暁、望陽は4番へリポートへ向かってくれ」

「了解!」

「りょーかいでーっす」

「承った!」


揃って部屋を出る三人。その目に迷いなどない。もしかしたらこいつら本当はすごい奴じゃないのか?


「ああ、そうだ。ツカサ、ツクハ」

「は、はい」

「なん、ですか?」


部屋を出ようとしたところ、千草教官に呼び止められる。


「ルナの事だが、彼女は夜になると化ける。ないとは思うが暴走しだした時は止めてやってくれ」

「うええ……」


大晦日を思い出してしまった。あのルナを止めろとは随分な無茶だ。下手したら殺されそう。

対してツクハは自信ありげに「いえっさー」と返事している。やばい、真面目なツクハ可愛い。


階段を上がると、2機のヘリが屋上に待機していた。その内の1機は既に飛び立ち、もう1機の前にルナが待機していた。時刻は午後3時。入学から5時間でもう初任務て。


この時の俺は市橋ルナが宵闇の銃姫と呼ばれる由縁、そして、俺自身に秘められた不明アンノウンな力が発現するとは夢にも思わなかったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る