4限目~第8遊撃部隊はまともではない~
地下120階からぐっと登って西校舎3階。
そこに第8遊撃部隊の部室はあった。外観としては、近未来的な地下とは違い、洋風で古風なおしゃれな空間が演出されている。
「着きました。ようこそ、第8遊撃部隊へ」
「もう後戻りは出来なかった事にようやく気づけたわ、これから何があっても驚かない自信があるぜ」
「兄様に、同じ」
登っていくエレベーターの中で色々と(主に自主退学の件について)質問をしたのだが、俺達はそういう処分をするには余りに例外的過ぎるらしい。
まあ、常識を飛び越えた能力者とぶち壊した能力者の兄妹だ、その点に関してはようやっと、諦めることが出来た。
「入るわ」
ルナはそう告げると、ドアを開け、ようとした。つまり、開かなかったのである。
「まあ、いいでしょう。鍵はありますし……って、あれ?」
まさかの鍵がない、ではなく鍵が合わないのだ。違う場所の鍵と間違えたのだろうか。
「あの子……また断りもなく鍵を勝手に変えて……」
どうやら俺の考えている次元の話では無いようだった。正直、この部屋の中にいる隊員(とでもいうべきなのだろうか)に不安しか湧かない。
その後もルナはどうにかこうにかドアを開けようとしたが、遂に開けることが出来なかったらしく、一つ溜め息をついて、
「はぁ……こうなったらRPG7で吹き飛ばすしか無いわね………」
かちゃり、と内側から鍵が開く音が聞こえた。これで扉の向こうから「上等だ!」とか言い出して、校内で戦争が起ころうものなら、何が何でもこの学園を退学していたところだった。
「全く、こういう悪戯は何も生まないのですから止めてくださいとあれほど……」
ルナが扉を開けた瞬間、何かがルナの目の前に飛び出してきた。幸い、ルナの目と鼻の先(物理)で止まったので被害はない。
いやホントに何もなくて良かっ━━━
「きゃーーーーーーーーー!!??」
途端、ルナが高速で振り返り、物凄い速度で俺にしがみついてきた。痛い。
「くくくくく………あはははは!」
俺がルナの勢いで体制を崩している中、部屋から笑いながら出てくる少女。あ、こいつが犯人か。
青っぽいクセのある髪をショートカットといういかにも悪戯しそうな元気っ子が出てきた。ネクタイの色からして中等部だろう。
「いやはやルナ先輩、何度やっても面白いですねー、く、くくっ、ふはっw」
実際にwを使って喋る人間を初めて見た気がする。少女はルナでひとしきり笑った後、俺を見て、そしてツクハを見た。
「めっちゃ可愛い娘いるじゃないですか!やりましたね先輩!」
「お前あえて俺の事をスルーしただろ」
「あれ、あんた居たんですか」
「とても初対面の人間に対する態度とは思えないな」
「どちらに対しての態度っすか?」
「両方だよ……」
もう疲れた。今日1日でいろいろあり過ぎて、さらに恐らくこれからも起こるだろうことを予見して今のうちに疲れておこう。
「あ、自分は柊暁っす。スリーサイズは上から8━━━」
「言わんでいいわ馬鹿野郎」
「おお?先輩はルナ先輩のスリーサイズの方に興味がおありで?」
「ねぇよ」
「ではもしかしてそのロリっ子ちゃんのスリーサイズを………」
「すまん、それは把握してる」
「予想の斜め上を行くロリコン!?」
「シスコンと呼べ」
いろんな意味で駄目だった。両方変態だった。
「兄様、話、進まない……」
「ふおおっ!?その口調すっごく萌えます!」
「とりあえずお前は黙れ。俺は金剛ツカサ、こっちは妹のツクハだ。これから第8遊撃部隊で世話になる、と聞いている」
「金剛……色々硬そうですね」
「どこを見て言っている」
「そりゃこk━━あいたぁっ!?」
「場をわきまえろ阿呆」
「むぅ……」
暁の頭をはたくと、ようやく話を進める気になったのか、部屋の扉を開けた。
「まあ、外で話すのも何ですし、中にいる仲間も紹介したいので」
「おう━━━?どうしたルナ」
ルナが俺の制服の裾をガシッと掴んでいた。伸びる止めろ。
「あ、あの……こ、腰が抜けてしまって……」
「は?」
ビビりすぎだろ。暁が回収したびっくり箱(ルナを驚かせたのはこれらしい)の中身は兎の人形(普通に可愛い)だった。
室内はごく普通の部屋だった。真ん中に机、その周りにソファーがいくつかあり、電子機器(なんかすっげぇデカイPC)が部屋の隅に、壁にはロッカーがあった。
「そこそこ広いな」
「まあ、最大で8人編成までありますからね。うちは自分とルナ先輩を含めて3人しかいません……ってあれ?」
「あれ?望陽はどこに行きましたか?」
「そういえばみはるんは決闘の時間だとか何とか言って部屋を飛び出していきました」
「何をやってるんですか……探しに行ってきます」
ルナは溜め息をついて、部屋を後にした。
と、なると暁とツクハとの三人になるのか。
『二年生の金剛ツクハさん。職員室へお願いします』
「っと、呼ばれたなツクハ。俺もついていこうか?」
「ううん、1人で、行ける」
「そうか、行ってらっしゃい」
「行って、きますっ」
パタン、とドアが丁寧に閉められた。
━━━何だ、あの可愛い生き物は。
精一杯に明るい声で、俺がいなくて不安だろうに。健気すぎる。そして可愛い過ぎる……兄最高、兄妹特権最高。
「2人っきりですねぇ、先輩?」
「意味ありげに言うな」
かくして俺と暁の不毛で非生産的な会話が繰り広げられることになり、暁との友情の始まりとなるのが、この時の俺はまだ知らなかった。
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