3限目~俺達はどうやら普通ではない~
堅苦しい入学式を終えた後、ツクハと俺は地下へと案内された。やたら近未来感の漂うエレベーターの内装を見ながら俺とツクハは同時にため息をついた。溜め息つくツクハ可愛い。
「どうかしました?」
「いや、何でもない………」
「そうですか」
ルナは笑顔でそう答え、前に向き直った。この気品溢れる佇まいで同い年とか信じられない程だ。そしてツクハすごく可愛い。
「……ちょっと聞いてもいいか」
「何でしょう?」
「ここは、どういう学園なんだ?」
「……そうですね。目的の階まではまだ少し時間があるので話しておきましょう」
ルナの話を聞くに、俺達は異能力者として学園に招かれ、世界と戦うことを義務付けられたらしい。あの大晦日と今日見た人の形をした土人形はいわゆる敵らしい。曰く、都市部に住む人間は全て土人形で記憶と意思を操作されているという。では、そこにいたはずの本物の人間は?敵が作った兵器が全世界にばらまかれ、普通の人間は死ぬか、田舎の安全地帯に避難している。世界人口は既に10億人を下回っているらしい。この日本も本物の人間は1000万人足らずだという。
全ての発端は「七氏会議」。主要国から集まった欲に塗れた「
全世界の人間を皆殺しにして自分達に都合のいい世界を作る。名目上は「人類をこの地球から消滅させ、歴史をやり直す」というこれまた狂っているとしか思えない決定の下、世界各地にある兵器が撃ち込まれた。
異能因子拡散兵器、ヨイヤミ。7人の大富豪は都合良く全員が当時希少だった異能力者だった。異能因子とは異能力者が異能力を発動させるのに必要な物質であり、普通の人間を即死させる猛毒だった。
この兵器が撃ち込まれた後、AI兵器や自分達自身による「他の異能力者」の排除などが行われた。そして、土から物を作る能力をもつ大富豪の1人が失われた人口を復活、そして管理した。
「最低だ……」
俺は確かな怒りをどこにいるかもわからない七氏に向けた。そして俺と同じ気持ちなのか少しむくれているツクハとてつもなく可愛い。
「でも、それが現実よ。これは30年前の話。当時20代だった大富豪たちはもう50歳を超えたわ」
「今の世界はどうなんだ?」
「少なくとも、彼らの思い通りには行ってないんじゃないかしら」
彼ら……七氏にはたった一つだけ誤算が生じた。反抗してこないならばと捨て置いていた残りの10億人からわずかではあるが異能力者に覚醒した者が出始めたのだった。
それに気づけなかった七氏は各地で人類の都市進出を許し、30年に及ぶ拮抗した状態へと陥ってしまった。
「その異能力者達が、私達の先輩。この学園の創立者や卒業生達よ」
「卒業したらその後はどうするんだ?」
「学園で教員として働くか、軍に参加して最前線で戦うかよ」
この予想外の状況に七氏は異能力者を探した。物心もついていない子供を誘拐し、過酷な異能因子環境下で無理矢理覚醒させ、従順な兵士を育て上げた。
何故そんな事が可能なのか。推測では七氏にそれを可能にする異能力者がいて、その異能力者によるものと考えられている。
エレベータが止まる。びっくりしたツクハこの上なく可愛い。
「地下120階。着いたわ。話の続きはこの先でしましょう」
ルナについていくと何やら近未来的な研究室らしき場所についた。その横の部屋に入ると、数十台の簡素な機械が並び、機械の上に設置されたパネルには手の形が書かれている。どうやらここに手を置くらしい。
「ここは異能因子検出器の中。この機械に手を触れることでどんな異能力がどの程度の規模で使えるのかがわかるわ。本来は中等部に入学した生徒が一斉検査をする場所ね」
そう言ってルナは自分の手を機械に置いた。
しばらくすると、機械の下部から紙が出てきた。それを俺達に渡してきた。
「異能因子適応度75、異能種は具現、能力名はアサシン・バレット。先程見せた通りの何も無い空間から銃撃を行える能力ね」
「適応度、って何だ?」
「体内にどのくらいの異能因子が入っているかを示す値ね。一般人は0、この学園の平均は大体46くらいね。ちなみにMaxは100よ」
異能力は自分の体内の異能因子を外界の異能因子と反応させることで発動する。したがって異能因子のない空間では異能力者が異能力を使うことは出来ない。ここにも七氏の誤算があった。
つまり、異能力者の圧倒的に多い人類側に有利になっているのだ。
ツクハが少し首をかしげてルナに近づく。
めっっっ(この後っが30回分程続く)ちゃ可愛い。
「能力名は、決まってる、の?」
「後で変更は可能よ。最初はネーミングセンス0で定評のあるソフトを使っているわ。確か名前は「ハルミヤ」とか言ったわね」
ハルミヤ。確かにネーミングセンスの欠けらも無さそうな名前だった。ツクハ可愛い。
「さて、まずはツクハちゃんから始めるわ」
ツクハが装置に手を置いて数秒。機械の下部からやはり紙が出てきた。ツクハが手を置く前に、ルナが「たまに紙じゃなくて蟹が出てくることもあるわよ」と真顔で言っていたので少し安心した。どうやら冗談だったらしい。出てくる蟹を想像してビクビクしてるツクハ可愛い。
出てきた紙をルナが手に取り確認する。
「ふむふむ……って、え?何これ!?冗談じゃないわ!」
「え、本当に蟹出てくんのこれ!?」
「そ、そっちは冗談です!緊張をほぐそうかと思って……って、そんな事はどうでもいいの!この紙を見てください!」
「ほら!」と目の前に突き出された紙をそのまま読み上げる。近づけ過ぎで文字が読めない。
「えーと、異能因子適応度227、異能種は召喚、能力名、サモン・オブ・アルカナ………確かにネーミングセンスの欠けらも無いな」
「兄様、そこじゃ、ないっ………」
「異能因子適応度227って前例どころか理論まで壊してますよ!?それに、召喚の異能種なんて、聞いたことがないわ……」
しばらくウンウン頭を悩ませていたルナだったが、俺の検査がまだだった事に気づいて咳払いし、
「取り敢えず、ツカサ。装置に手を置いてください」
「何で俺だけ呼び捨て……」
多少の不満はあったが大人しく手を置いて待つ。少しすると蟹、ではなく紙が下部から出てきた。俺はそれを手に取って見てみた。
「異能因子適応度0、異能種は不明、能力名、詳細不明!?」
「こっちはこっちでどういうこと何ですか……」
ルナが本格的に頭を抱えだした。
「どういうことなんだ?」
「一般人なら異能種と能力名は無しになる筈です。しかし不明とは一体……」
そして、携帯を取り出し、どこかへ連絡をとった。何やら話し込んだ後、携帯を直し、こちらへ向き直った。
「あなた達には、第8遊撃部隊に入ってもらいます」
「は?」
「それは、命令、なの?」
「はい、あの人の推測が当たっていれば、それが最善です」
?を頭に浮かべながら頷いた俺とツクハはこれから始まる日本を巻き込んだ戦いをまだ知らないでいた。
それが2人の在り方を変えるとも、知らずに。
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