2限目~平穏な入学は期待しない方がいい~

4月。

俺とツクハは新しい学園へ向かうべく、支給された制服を来て、徒歩10分の学園へ向かっていた。


「どう?似合う、かな」

「すっごい可愛い」


正直な感想を述べると、ツクハは少し顔を赤らめてもじもじする。そこも可愛い。

ブレザータイプの制服らしく、中等部のツクハは赤、高等部の俺は緑のネクタイをつけている。


「に、しても全行程のうち8分が白い壁の横を歩くとはな。広すぎんだろこの学園」

「中学校、とは、逆方向、だね」

「そうだな。二人とも遊びに出ないことが多かったし、わからなくても無理無いな」

「んんっ‥‥‥」

「どうした?眠いか?」

「ううん、だいじょうぶ‥‥‥」

「だいぶ眠そうだな‥‥‥もしかして楽しみで寝付けなかったのか?」

「そ、そんなこと、ないもん……」


と、言いつつツクハは右へ左へゆらゆらと不安定に揺れながら歩いていく。

なんだかクラゲみたいだ。

でも、ツクハみたいに可愛いクラゲならどんな猛毒持ちでも抱きしめに行っちゃうなぁお兄ちゃんなら♡


「よっ、と!」

「ふぁっ!?抱っこは、恥ずかしい‥‥‥」

「ふらふらしながら車道に出そうになってるくらい眠いならしゃーないだろ」


ツクハを(お姫様)抱っこしながら歩くが、朝なのに人通りがほとんどないのには違和感があった。


(黒い車がやたら多いのも気になるな‥‥‥)


車道に通る車は全て黒、と言った具合だ。何かがある気がしてならない。

例えば、可愛いツクハを誘拐してあんなことやこんなことをしようとするロリコンや、ツクハの天使級の可愛さに嫉妬したどこかのお嬢様がツクハの暗殺計画を企てていたりとか、ツクハの熱狂的なファンの1人が兄である俺を殺そうとしてるとか。


というか俺の腕にすっぽり収まってるツクハ可愛い。世界中の愛玩動物の可愛いところを合わせたのより可愛い。つまり世界一可愛い。もう「ツクハ可愛い」が流行語大賞に選ばれてもいいんじゃないかって思うくらいに可愛い。


そんなこんな俺が萌え悶えている間に校門らしき場所が見えてきた。それに合わせるように周囲の黒い車が増えていく。

嫌な予感がして、歩みを徐々に早めて唐突に全力ダッシュをしようとした瞬間、


黒い車の1台がガードレールを突き破り、学園の壁に激突して歩道の進路を塞いだ。

それに伴い、俺達のすぐ後ろに黒い車が立ち塞がり、周囲を取り囲むように黒い車が集まって停車していく。


「兄様」

「ど、どうした?妹よ」

「これ、とてつもなく、やばい、よね」

「これ見てやばくないって言うやつはヤバイやつだな。少なくとも俺はまともだ」


車から次々と黒服のゴツイ男が出てきてこちらへ近づいてくる。


「あ、あのー、話し合いとかは……」

「…………」

「する気ないですよねすみません」


無表情で男の1人がどんどん近づいてくる。まさに恐怖。

その間にも男と俺達との距離は縮まり、男が手を伸ばせば俺の腕を掴めそうな距離まで来た。


「一緒に来てもらおうか」

「あ、お前喋るんだ……ってそんなことはどうでもいい!ツクハに指一本触れるな!あと俺にもだ!ツクハが悲しむだろーが!」

「拒否するなら少々手荒な真似をさせ━━」


パァンッ


乾いた音とともに男の動きが止まり、「せ」の口のまま横へと倒れる。黒服集団がざわめき、塀の上を見上げた。


「全く、学園の前でウチの新入生を、しかも学園の塀を傷つけてまで襲うとは……」


俺の目に飛び込んできたのは、あの時の美少女、市橋ルナだった。服装こそ俺達と同じ学生服だが、その整った顔は紛れもない彼女だ。そして、その手には銀色の拳銃が握られている。


「市橋ルナの名にかけて許すわけにはいかないわ」


黒服の男達が一斉に拳銃を構える。


「危ない!」

「Minigun!」


発音のいい英語でルナが叫ぶ。ミニガン。回転式三連銃創で1分間に120発の弾丸をばらまくアレだ。


男達が拳銃の引き金に手を当てた瞬間、けたたましい音とともに何も無い空間から大量の弾丸が放たれる。

思わず(ツクハの)耳を塞いで伏せるが、物凄い衝撃で何が起こっているのかわからない。爆発音も聞こえる。


音がようやくなりやみ、ゆっくりと顔を上げると、散乱した土の塊と、様々な形にひしゃげた車、穴だらけのアスファルトが目に入った。そして、目の前には市橋ルナがいた。


「金剛ツカサ、ツクハ。特異能力武装政府反攻組織、私立イルシス学園へようこそ。生徒会長兼第8遊撃部隊仮隊長の市橋ルナが全生徒の代表として歓迎します」


その笑顔には非の打ち所がないほど完璧で辺りに光が満ちているような錯覚を覚えた。

が、


「「帰っていいですか」」


来る場所間違えた。完全に。騙されたよねこれ。嵌められたよねこれ。


「機密保持の為に死にますか?」

「「これからどうぞよろしくお願いします、市橋生徒会長」」

「よろしくお願いします♪」


こうして、俺とツクハの希望は叩き潰され、新たな日常が始まった。

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