生かすも殺すも私次第


嗚呼…あんたはどうしてそうも犬みたいなの?


「わーい!蝶々だーっ!待てー!」


本当は何でもできる、天才のような存在なのに。


「おーい…走ると転ぶよー?」

「あっはっは!大丈夫!俺走るのは得意なんだ!」


とか言って、躓いてるの何度か見てますけど。

私は、まるでワンコのような君を見てため息を吐いた。

どうして私はこんな奴といるんだろうか。


「あ!見て見て!綺麗な花だよ!」


キラキラした大きな瞳が私を映す。

その手元には、紫の花が沢山咲いていた。


「…ねえ、花冠作れる?」

「? 作れるよ?欲しい?」


私の答えを聞くより早く、彼は花を摘み始める。

嬉々として花を紡いでいる彼を見ていると、何だか不思議に思えてきた。

前記した通り、彼は本当に何でもそつなくこなす。

勉強だって、運動だって、花冠をつくることだって。

___私の心を、奪うことだって。

いとも簡単に、彼は私の心を攫って行った。


「はい!できたよ!」


頬杖を付きながらぽけーっとしていたらしい。

彼の声と、頭に乗せられた軽い感触で我に返る。


「俺ね、君がいると世界がきらきら輝いて見えるんだっ!だから…俺と、ずっと一緒にいてくれる?」


男の子らしい骨張った手が、するりと私の左手を持ち上げる。


「君がいなきゃ、俺は何もできないよ。…俺の、お姫様」


左手の薬指にはめられた、紫の指輪。


「…凝ってるなあ」

「えへへ〜」


撫でて、と言わんばかりに旋毛を向ける。

私は空いている右手で髪をぐしゃぐしゃにした。

嬉しそうな彼。本当に犬のようだ。


「…本当に、あんたは何でもそつなくこなすんだね」


ぼそりと呟いて顔を上げかけた彼の頭を押す。

こんな林檎みたいな顔、見せられる訳ないじゃない。


「うー…ねぇねぇ、首痛いよー…」

「うるさいちょっと黙って」

「理不尽!」


彼の一言一挙が、私の心を確実に侵食する。

花冠乗せられて、左手の薬指に花指輪はめられて、お姫様って言われて。

オチない女の子は、きっといない。

それを真剣にやっちゃうんだから、彼は天才。


『君がいなきゃ、俺は何もできないよ。』


そんな彼を、生かすも殺すも私次第ってこと?

随分な大任を負ってしまったね。


「ねーねー…いい加減首が折れちゃうよう」

「そうね、折れてしまえばいいと思う」

「酷い!」


ぱっと放してやれば、痛いよーとか唇を尖らせながら首を回す彼。

私の視線に気付いて、ふわっと微笑んだ。


「本当に、お姫様みたいだ」


再び、頬が熱を帯び始める。

彼は私を抱きしめた。彼の香りに包まれながら、私は考える。


私がこいつといる理由。


それは彼が、私の全てを侵食して、攫って行ってしまうから。


そんな私は、天才でワンコな君を生かさなきゃいけないという大役を背負ってしまったわけでして。


それでも私は、彼から離れられそうにない。








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