折上短編集

折上莢

この雨が降り止んだら


『雨が降ったら、またこうして話そうか』


にこっと微笑む貴方。

それから、雨の日だけ私は貴方に合わせて帰る時間をずらした。

だって、普段は貴方と話せない。

貴方は人気者だから。


「あ…雨だ」


自然と頬が緩む。

やった、また話せる。

弾む心を隠しながら、スカートを抑え座った。

あの日、私が呆けていた階段に。


何を話そうかな?

どうやったら、普段も話せるようになるかな?


乙女の思考妄想は止まらない。


「…ぁ」


来た。来てくれた。

ちょっと不安だったけど、来てくれた!


「早いね、ホームルーム短かったの?」

「う、うん!今日先生が休みだったから、副担任が来たんだ。」


裏返りそうになる声を隠して精一杯微笑む。

彼はそっかと言って、私の隣に座った。


「今日の体育、本当に散々でさぁ…」

「そうなの?男子って今日…サッカーだっけ」

「そうそう。俺サッカー部だからって、オフェンスに入れてもらえないし、ゴールも決めちゃダメだし。」

「あははっ、それは仕方ないよ。サッカー部のエースが攻撃参加しちゃったら、相手チームに勝ち目ないって!」


そんなことねえよ、と口を尖らせる彼。

サッカー部のエースで、勉強もできる、顔も文句なし。

そんな彼に惚れる人は、私以外にもたくさんいる。

でも、雨の日にこうやって話せるのは、私だけ。

ちょっとだけ、嬉しいな。


「っあ、やべ!もう帰らなきゃ!」

「じゃあ、私も帰ろっと。お話してくれてありがとう」


楽しい時間ほど、短く感じる訳で。

あーあ、もうおしまい。また当分待たなくちゃ。


「お前さー…なんか部活入ってたっけ?」

「いや、帰宅部だよ。なんか部活入れって言われてるんだけど、何処入っていいかわかんなくて」

「…じゃあさ!」


雨音の中でも、はっきりとわかるように。


「サッカー部のマネージャー、やらない!?」


雨の日だけしか話せないと思ってた彼に、私は一歩近づけたみたいです。

私は大きく頷いた。


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