第2話
気づくと草原にぼくはいました。遠くに森と、家々の建ち並ぶ街のようなものも見えます。
「はあ、何なんだ、ここは」
ぼくは草原に横たわって、真っ青な空を見た。雲一つない快晴。いい天気だ。ぽかぽかと暖かく、そよ風が気持ちいい。
遠くに人影が見える。かわいい女の子がてくてく走っている。すれちがうおばさんも美人だ。
そういえば、異世界に連れて行くとかいっていたなあ、あの悪魔。ラヴエンドだっけ。すると、ここは異世界なのかあ。
どおれ、異世界の町はどんなところかな。
ぼくは町の方へ向かって歩き出した。
町を歩いている人に美女が多い。なんだか嬉しくなってきた。いろいろなタイプの美女がいて、目の保養になる。
しかし、何も知らないぼくがいきなり話かけるのも変だ。第一、ことばが通じるのだろうか。
「あの、日本語わかりますか?」
ぼくは試しに一人の美少女に話しかけてみたけど、くすくすと笑われた。
「わかりますよ、お兄ちゃん」
どうやら、日本語は通じるみたいだ。
「ぼく、この世界のこと何にもわからないんで、とりあえず、今晩、眠れる場所なんかを教えてください」
「お兄ちゃん、家がないの?」
美少女が不思議に首をかしげる。
「そう。今日、泊まる家がないんだよ。それで困っててね」
「ええと、じゃあ、昨日はどこで寝たの?」
「昨日はちゃんと自分の家で眠ったよ。だけど、今日、ぼくは無理やり旅に出されてしまったんだ」
「旅人さんかあ」
うーん、ぼくは旅人ということにしておいた方が話がわかりやすいだろう。
「そうなんだ。旅人なんだ。それで、一晩の宿をお借りしたくて」
「それなら、教会へ行くといいよ。今日はクリスマスじゃないけど、泊めてくれるかなあ?」
この世界にもクリスマスがあるのか。
「教会はどこにあるの?」
「自分で探して。もうちょっと歩くと地図が書いてある看板があるから」
そうか。
「ありがと。教会へ行くよ」
「うん。じゃあねえ」
そして、美少女と別れたぼくは町をもっと歩いて行った。
地図の書いてあるという看板は見つかったけど、それによると教会は町の中心部にあるらしい。そこまで、てくてく歩いて行った。異世界の風景がきれいで楽しい散歩だった。町が全体にオレンジなんだな。きれいな町だ。
町の中央部の教会に着くと、尖塔型の格好いい教会があった。扉を開けて中に入る。
「おや、お客さんかな」
神父が話かけてきた。
「はい。旅をしているものですが、一晩の宿を借りられないかと」
「おお、それはお困りでしょう。あなたに神のご加護がありますように」
教会の祭壇に祭ってあるのは、十字架でもイエス像でもなく、イスラムのモスクの立方体でもなく、一本の剣が台に刺してあったのだった。
「この剣はどういう意味ですか?」
ぼくが神父に聞くと、神父は顔をしかめて答えた。
「それが、わたしたちの町は、ある敵によって襲われているのです。近隣の町はすべてやられているらしく、敵はあまりにも強大で強く、抗うのもたいへんです」
「敵とは?」
「それが、敵は怪物たちを従えているのですが、正体は不明で、どう戦ったらよいのかもわかりません。この剣は我々の抵抗の証です」
「どのような被害が?」
「老若男女すべてが敵に誘惑され、不思議と懐柔されてしまいます。我々の戦士は次々と敵に寝返ってしまう。戦っても、なかなか勝つことが叶わず、苦戦を強いられています。裏切りものたちの残党によってこの町は存在するようなものです。大勢の住民が敵に寝返り、逆に町を攻めてくるようになりました」
「それは、たいへんですね」
ぼくの両手を神父は自分の手で大きく包みこんで握っていった。
「どうか、お願いです、旅のお方よ。我々と一緒になって、敵と戦ってくれませんか。少しでも味方が欲しいのです。このままでは、この町は敵に征服されてしまいます」
ううん。これは、ぼくに町を救えということか。何か、ここまであの悪魔に筋書き通りの気がしないでもない。
一抹の不安は覚えるが、一晩の宿のお礼だ。場合によっては、これからずっとお世話になるかもしれない宿主の頼みなのだ。聞いて悪いことはあるまい。
「わかりました。ぜひ、あなた方と一緒になって戦いましょう。こうなったら、ぼくに戦う武器をくれませんか。武器がいただけたら、すぐにでも敵とやらを倒すために敵地へ乗り込んでいきましょう」
「おお、それは心強い。では、武器庫の方へご案内します」
この教会には武器庫なんてあるのか。物騒な教会だが、敵と戦っているのなら仕方ない。
武器庫へ行くと、剣や槍、盾や鎧などの武具がずらりと並べてあった。
「いちばんでっかい剣がいいな」
ぼくはデカい包丁のような剣を選ぶと、それを手に持った。意外に軽い剣で、割と自由に振りまわせそうだ。この世界に来て、ぼくの力が上がっているのだろうか、それとも、この世界の金属が軽いのかはわからなかった。
盾や防具はつけなかった。動きにくいのは逆に戦いにくい。そう判断したのだ。攻撃あるのみ。
「わたしたちをどうか守ってください、旅のお方」
神父に頼まれて、ぼくは、はいわかりました、と返事をして、その日は教会で眠りについたのだった。
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