第3話
そして、次の日、目が覚めると、一人の男と二人の美少女がいた。
「やあ、あなたが今度、あたしたちと戦ってくれる新しい仲間でしょ」
そう美少女が話しかけてきた。
「ああ、神父さんに聞いたのか。そうだよ、これから敵を倒しに行くつもりだよ」
「よろしく頼む」
男がぐっとぼくの手を握った。力強い握手だ。
「おれの名前は、タケル。こっちがアスカで、こっちがカエデ」
「ああ、ぼくは斬矢キリヤだ」
ぼくは自己紹介をした。こんな美少女二人の仲間にいきなりなれたことが嬉しかった。これは、やる気が出てくる。
気になるのは、このタケルとかいうやつだ。
「タケルは、このどちらかの女の子と付き合っていたりとかするのかい?」
ぶしつけな質問だった。これは失敗だ。いくらなんでも、いきなりこんな質問をするのは不自然だ。
「何いってんだ、キリヤ。戦いのために気を引きしめていけ。色恋沙汰は戦闘中は御法度だ」
うまくかわされてしまった。しかも、二人の女の子に話しかけづらいような流れになってしまった。
「ああ、ごめん。アスカとカエデもよろしく」
とりあえず、話しかけたら、
「うん、よろしくね」
といっていた。
アスカとカエデは、町にある自宅で眠っているらしく、教会に泊まる予定はないらしい。タケルは知らん。
それはさておき、四人で町の外れまで歩いていったのだ。
町から少し歩いたところにある砦に敵はいるらしい。
「絶対に敵をやっつけて帰ろうね」
とカエデがいう。三人とも、顔が真剣な表情をしている。
「何、堅くなっているんだよ、みんな。もっと気楽に行こうよ」
とぼくは持ち掛けたが、
「これから殺し合いをするんだぞ」
とタケルに言い返された。そうだ。ぼく、いつの間にか、殺し合いに参加しているじゃん。大丈夫なのかな。ここで、敵というやつに殺されたら、それでぼくの人生は終わり。終わってしまうんだ。敵というやつは、怪物を従えているといっていた。
どうするんだよお。あのゾウみたいに太ったワニみたいな怪物が出てきたら、勝てるわけないじゃないか。
この剣で勝てるだろうか。ぼくは自分の武器を見つめる。
砦まで歩いていく途中、さっそく敵の手下の怪物が行く手を邪魔してきた。オニカワウソという怪物が四匹、ぼくたちに襲ってくる。どれも、人と同じくらいの大きさのあるカワウソみたいなやつらだ。
「くそっ、やっかいな相手だ」
タケルが剣を持ってオニカワウソと戦い始めた。かなり苦戦している。噛みつかれたり、蹴られたりして痛そうだ。
アスカとカエデも蹴られている。
ぼくは、目の前に来たオニカワウソを剣で一刀両断にしたら、一撃で倒すことができた。
「うそ、キリヤ、もう倒したの?」
アスカが驚いている。
「キリヤは強い」
カエデが呟いた。
「くそう」
タケルがまだ目の前のオニカワウソと格闘しているので、ぼくがカエデ、アスカ、タケルの順に相手しているオニカワウソを斬って倒していった。
ぼくが一人で四匹とも倒してしまった。
「キリヤ、つよおおおおい」
仲間たちは大絶賛だ。どうやら、この異世界ではぼくはかなり強い部類になるらしい。楽勝だったんだけど、なんか、褒められていい気分だ。
アスカとカエデから尊敬の眼差しを受けながら、ぼくらは砦へやってきた。
「行くよ。敵がいるかもしれないから、気をつけてね」
「絶対に敵を倒そう」
アスカとカエデの決意を聞きつつ、砦に入る。
門番の獣人みたいなやつをまたしてもぼくが一人で倒す。
「きゃあああ」
アスカとカエデはもう黄色い声をあげてぼくを応援している。タケルは知らない。
砦の中に奥へと怪物をぼくが一人で倒しながら進んでいくと、気配のちがう影が見えた。それは黒い闇が人型をかたどった形をしていた。
「あれが敵よ」
アスカの解説にぼくは気を引きしめる。あの敵を倒せば、この戦いは終わるのだ。近隣の町もみんな助かるんだ。
「おまえたち、わたしに本気で刃向うつもりかな」
敵はそういった。美しい女性の声にぼくには聞こえた。
「そうだよ。覚悟しなさい、敵」
アスカが剣を持って敵に突撃していく。
黒い闇がアスカを呑み込んだ。すると、アスカはひざから座り込んで、敵を見つめた。
「アスカの様子が変だよ。キリヤ、お願い、敵をなんとかして」
カエデにお願いされて、ぼくは敵に斬りかかった。
「運が悪かったな、敵よ。異世界からの旅人、ぼくが来たからにはもう狼藉三昧はさせないぞ」
ぼくは敵に斬りかかる。剣が、闇をすり抜けた。この敵、実体がないのか?
「何をするのよ、キリヤ。あなた、この人がどんな人だかわかっているの!」
いきなり、アスカが叫んだ。この人とはおそらく敵のことだろう。
突然、様子が変わったアスカにぼくは驚いた。
「どうしたんだ、アスカ。ぼくらは敵を倒しに来たんだろう?」
「この人を倒すなんてとんでもないことよ。ひざまずきなさい、キリヤ。あなた、この人に斬りかかったのよ」
アスカがわめく。
「カエデ、アスカがおかしくなってしまった。ぼくらだけで戦おう」
すると、カエデも、
「何をいっているの、キリヤ。この偉大なる敵に逆らうなんてとても許されないことよ。考えられないわ。このお方は町なんかよりずっと偉大で素敵な方よ。あたしはこの人に付いていくわ。この人に付き従い、世界を征服するのよ」
ぼくはわけがわからなくなってしまった。
タケルも、
「おれもこの人に従うぜよ。この人に逆らうなんて許されないことだ」
といい出した。
なんだ、なんなんだ。
「いったい、おまえたちは何をいっているんだ。敵を倒しに来たんだろう、ぼくたちは」
ぼくは叫んだが、三人とも聞き入れてくれなかった。
「このお方に付き従い、このお方が世界を征服するのを助けるのが我らが役目です」
「そうよ。このお方こそ、世界を征服すべき選ばれた者だわ」
「おれも同感だ」
と三人はいう。
なんだというのだ。この敵はいったい何者だ。あっという間に、三人とも懐柔して味方に引き入れてしまったぞ。なんと恐ろしい敵なんだ。
「キリヤ、あなたはこのお方の敵にまわるというのね。絶対に許さないわ。地獄に落ちるまで呪い殺したい」
カエデがわめく。
ぼくはカチンときた。
「なんだとお。カエデのブス。アスカのブス。おまえらなんか死んじまえ」
ぼくは走って逃げ帰った。町へ行けば、他にもいっぱい美少女がいるのだ。こんな二人にかまうことはない。
いつか敵を倒し、アスカとカエデを正気に戻してやる。くそお。ちくしょう。なんて、恐ろしい力を持っているんだ、敵というやつは。
なぜ、三人はあんな簡単に敵に寝返ってしまったんだ。わけがわからない。
こうして、一回目の征伐は敗北で終わったのだった。
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