異世界では心安らぐ場所もない
木島別弥(旧:へげぞぞ)
第1話
夜の高校にいたのは、一匹の悪魔だった。学校で秘かに流れていた噂。女の子だけはみんな知っていて、女の子しか知らない学校に住み着いた悪魔。ラヴエンド。
ぼくは夜の高校にやってきて、学校の中庭を歩いていたら、怪我をした女の子が倒れていた。
「どうしたの?」
と聞いた時、答えた女の子の目には涙が流れていたと思う。
「勝てない。どうしても、あいつに勝てない」
女の子が腕から血を流しながらいう。
「いったい何と戦っているの? なんで夜の学校で」
「ああ、ごめん。男には関係ないんだわ。あの悪魔スケベだからさ。女の子しか相手にしないの。悪魔がさ、あたしたちの純潔を代償に夢の世界へ連れて行ってあげるってそういうんだよ。でも、あたし、別に好きな男の子とかいないからさ、そんなことで女の子としての大切なことを失うのは嫌だからさ、戦っているの。悪魔と」
ぼくは驚いた。
「悪魔とか実際にいるの? 本当にいるの?」
すると、女の子から手厳しい意見。
「この学校に八か月も通っていて、悪魔の存在に気づかない男子なんて、本当にバカみたい。悪魔と契約した女の子は一人しかいないけど、転校生って知っている? すごい格好いい転校生がいるんだけどさ。その転校生の彼女になって、妊娠したよ。悪魔を倒さないと、この学校の女子、みんな、悪魔の連れてきた転校生の娼婦にされるよ。まあ、男子には関係ないんだけどさ。中には、喜んで悪魔と契約したがる子もいてさ。戦っているんだよ。入学してからずっと、この八か月、女子は戦争しているのよ。先輩たちもずっと戦っているみたいでさ。いろいろ気持ち悪い話を聞かされたわ。一クラスの女子全員が転校生の彼女になって男子をいじめ殺したとかね。うちの学校で三年前、いじめ自殺があったでしょ。その真相、どうやら、あの悪魔がからんでいるらしいんだわ。見てくれだけの薄っぺらい好きでもない男の娼婦にされるくらいなら、戦うよ、あたしは。先輩たちも、悪魔に媚びる連中と、悪魔と戦う連中で別れていてさ。この学校、マジ、呪われているんだわ。男子は関係ないけど。あたしたちにとっては一生の問題だからね。高校でもう子供生んで、親と離別して、悪魔の連れてきた転校生の娼婦になっていきていくのが嫌なら、あの悪魔を殺さないと。あ、今の説明で話わかった?」
正直いって、何がなんだかわからなかった。とにかく、モテるとうわさの転校生が悪魔の手先だということがわかったくらいだ。
「来た。悪魔の手先だ。あたし、しゃべりすぎたから、殺されるんだ」
女の子はそういって運動場につづく道を見た。そこから、ゾウのように巨大な太ったワニみたいなでかい口の怪物がどたどたどたとこっちに向かって突進してきた。
「これが処刑ってやつか。悪魔のやつ、いったいどれだけの力を持っているのよ」
超怖ええええええええええええええええええ。太ったワニの怪物、こっちに突進してくるよ。走って逃げないと、死んじゃうよ。この女の子、なんで戦おうとしているの。勝てるわけないじゃない。処刑っていったい。
「ちょ、やばいよ。逃げよう」
「あんたは逃げな。男子を巻き込むつもりはなかったんだ」
「逃げろっていっているだろ」
ぼくは女の子を無理やり担いで走り出そうとした。女の子の腰を抱えて、持ち上げて、とにかく走る。
やばい。逃げきれない。足、超速いなあ、あの太ったワニ。
ぼくは体をぐるっとまわして遠心力で女の子を太ったワニの直進方向からズレた位置に放り投げた。そのまま、バクっと太ったワニの怪物に食われた。ぐしゃぐしゃぐしゃ。体が変に歪む。
ぼくは死んだのだろうか。
気づくと見知らぬ世界にいて、真紅のマントを羽織った一匹の悪魔がぼくを見下ろしていた。
ここは、どこなのだろう。
「ここは、死と生の世界の間だ。よくも、わたしの恋愛化計画を邪魔してくれたな」
悪魔がいった。
「いったいなんなんだ、おまえは」
「わたしの名はラヴエンド。神の次に力をもつ悪魔だ。まさかとは思うが、貴様、あの女を守ろうとしたのではないかな」
「そうだけど」
「失格だ」
悪魔はいった。
「誰が、何に失格したんだよ」
「貴様がわたしの試験に失格したのだ」
「どうすれば合格するんだよ。合格すると何かいいことあるのか」
「わたしは貴様が女を守れるかどうかしか見ていない。結果、貴様は女を守れなかった。だから、貴様は失格だ」
「そりゃ、あんなデカいワニには勝てないだろう」
悪魔がぐるぐる縦にまわりながら、嘲笑ってきた。
「貴様に罰を与えよう。今から、貴様から不幸を奪う」
な、なんだって。
「これを見ろ」
見たこともない地形の地図が書いてあった。
「どこの地図だ、これは」
「異世界だよ」
「異世界?」
「そうだ。貴様は、罰として、異世界に行き、そこで暮らすのだ」
「はあ?」
「わははははははは」
気づくと、ぼくは見知らぬ草原にいた。
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